プロローグ 「追憶よ、さらば」
プロローグ 「追憶よ、さらば」
くすんだ黄金色の空と、褪せた銀色の草原の狭間に円が描かれていた。
二人の男が円の端に立ち、手には球形の結晶を掲げている。結晶の内部には光が渦を巻き、絶えず流動し続けていた。掲げられた二つの結晶を直径とするように、空間に円が描き出されていく。
「異相同期、開始」
二人の男は互いに視線を交わし、頷き合って呟いた。
「接続」
二人の声が重なり、円形に歪みを生じた空間が内側に呑み込まれていく。渦を巻いて内側へと流れ込む空間の後に残るのは、闇色の穴だ。
闇色の穴、ゲートの前にレーン・シュライヴは立っていた。
背後には視線を感じる。数人の騎士達がレーンを監視していた。
心地の良い視線ではない。心底からレーンを見下した、侮蔑の視線だ。
数日前までは正反対の視線を向けていた者達が、掌を返したように今はレーンを敵視している。
レーンは小さく鼻で笑った。
「接続完了」
二人が始めてレーンに視線を向けた。
早く行け、とでも言わんばかりに。
「これで、ここともおさらばか」
わざとらしく呟いて見せるが、周りの反応はない。レーンは苦笑して、足を進めた。
あと一歩というところで、レーンは足を止める。目の前のゲートから視線を背け、背後を振り返る。
今まで自分が過ごして来た世界を目に焼き付けるために。
二度とここに戻って来ることはないだろうから。
空と大地の色彩を目に焼き付ける。レーンが幼い頃には、もっと世界は美しいものだった。色褪せた空と大地の向こうに、都市が見えた。城壁で囲まれた都に視線を向け、少しだけ目を細める。
良い思い出がないわけではない。楽しいことも沢山あった。
だが、もうあの場所へは戻れない。
レーンは息をついて、視線を闇へと向ける。
そして、一歩を踏み出した。
レーンの身体が全て闇の中に飲み込まれると同時に、意識が消失する。だが、意識の途絶はほんの一瞬で、直ぐに視界が戻って来る。
闇の中へと踏み出した足が地面に着いた時、目に映った景色はレーンの世界のものではなかった。
澄み渡った青い空が視界一杯に広がり、爽やかな風と共に草木がさらさらと心地の良い音を立てる。
場所は山の上らしく、街を見下ろす形になっていた。山から見下ろす街はレーンの世界と比べると雑多な印象がある。道路はあらゆる場所に張り巡らされ、道と道の間の空間に家が所狭しと並んでいる。
窮屈そうではあったが、どこか開放的にも見えた。
背後にはもうゲートはない。レーンの通過と共にゲートは閉ざされていた。
風に交じる草木の香りを胸一杯に吸い込み、レーンは歩き出す。
こちらへ来てから一度も背後を振り返ることなく、レーンは一歩を踏み出していた。




