魔法少女カオルの大ピンチ(1)
魔法少女カオルは大ピンチだった。
「わあああぁぁぁ」
夜の公園のど真ん中で、カオルは巨大な植物の触手に右足を掴まれ、逆さまに吊るされていた。
肩まであるオレンジがかった黄色のツインテールも、今は逆さまになっていて、フリルがふんだんに盛られたピンク色のスカートは手で押さえずにいるせいで、白いカボチャパンツが丸見えになっていた。
巨大植物は家一軒よりも大きく、下が球根状の形になっており、その上には大きな花が咲いていた。花の中心は大きく口を開け、何でも飲み込んでしまいそうだ。カオルを捕まえている触手は、球根から何十本も生え、カオルを掴んでいない余った触手は、今もカオルの周りをウネウネと動いている。
先ほどまで、触手にグルグルと振り回されていたせいで、カオルは目を回していた。
両手を投げ出し、カオルの上着が少し捲れて、ヘソがチラリと見えている。
カオルが目を回していることをいいことに、植物は触手をカオルの身体中に這わせ始めた。
足首からふくらはぎ、太ももへと這い上がり、触手が一本、二本と増えていく。上着のすそから入り込み、触手がカオルの服の中を這い回る。
カオルの身体は、植物の出す粘液でドロドロになっていた。
「うへぇ。気持ち悪うぅ」
目眩から回復したカオルは、触手から抜け出そうとして暴れるが、触手がさらに増えただけで、解放されることはなかった。
「くそっ」
カオルの唯一の武器である、先がハート型になっているステッキは、振り回された時に落としてしまっていた。
カオルは触手を両手で掴み、ちぎろうとする。しかし、力を入れたとたん植物の粘液で滑ってしまった。何度かチャレンジするが、全くうまくいかない。それどころか、触手に両腕を取られ、バンザイをする形で縛り上げられてしまい、ついには身動きが出来なくなってしまった。
触手が足を片方ずつ掴み、左右に広げる。服の中の触手も大胆に動き出し、そのせいで、上着が胸のすぐ下まで大きく捲れ上がってしまった。
「ちょ、やめ」
触手はカボチャパンツの中にまで入り、それをジリジリとズリ下げ始める。
「うおおおおおお。そこはマジでやめろ!」
今すぐにでも、この触手から抜け出さなければならない。
さもなければ、とんでもないことに。
その時を想像して、カオルはゾッとした。
残る刃は己の歯のみだが、さすがにこのヌルヌルの触手に噛み付きたくはない。
「つーか、助けろよ! このバカネズミ!」
カオルは地面の上をウロチョロする白い動物に怒鳴った。
動物は長い胴体と短い手足、細長い尻尾を持ち、器用に後ろ脚だけで立ち上がり、前足でカメラを掴んでいた。背中には小さなリュックを背負っている。
「ボクはネズミじゃありません! どちらかと言えばイタチです! そして、属するのなら、女の子に大人気のフェレットに属したい!」
「うるせえええ! こんな時にまで、くだらないことをぬかすんじゃねえ!」
カオルは怒声を上げる。その間にも、触手は容赦なく動き、カボチャパンツをいっきに下げた。
「ひいいぃぃ」
カボチャパンツの下から、しましまパンツが現れる。粘液でヌルヌルのカボチャパンツは、足を開いていたおかげか、ヒザで止まっていた。
「ナイスシャッターチャンス!」
白いイタチはカオルを色々な角度からカメラに収める。
「こんのクソネズミィィィ!」
「ボクはネズ――」
「早くしろおおお!」
白いイタチの言葉を遮るように、カオルは怒鳴った。
植物はその触手を、しまパンにまで伸ばし始めている。
時間がない。
「はいはい。わかりました。カオルさんの良い写真も撮れたことですし、何かアイテムを買いましょう」
白いイタチはリュックを下ろし、カメラをしまうと、さらに前足をリュックに突っ込んだ。リュックの口がゴムのようにミニョンと伸び、リュックよりも大きなノートパソコンを取り出す。そして、リュックを背負い直し、ノートパソコンを開いて電源を入れた。小さな前足でキーボードを押し始める。
「さーて、何がいいですかね。植物タイプに有効なのはっと」
「早くしてくれぇ」
パンツを下げようとする触手は、すでに太ももまで来ている。
「まずは、触手をどうにかしないとですよね。そうなると……」
「まだかぁ……」
カオルから情けない声が出る。
触手の先が、しましまパンツの先にかかった。
「ネズミ!」
悲鳴にも似た声を上げ、カオルは白いイタチを急かす。
「よし、これですね」
白いイタチが、ターンと勢いよく払うようにしてキーボードを叩く。すると、ノートパソコンの画面から、緑色の大きなハサミが出て来た。ハサミの中心にはハートがあしらわれている。
「どんな植物も真っ二つ。チョッキンリーフ! これで、触手もバッサリです」
「早く切ってくれ!」
触手はパンツの端にグルグルと巻きつき、今にも下ろそうとしていた。
白いイタチはハサミを口で掴み、触手の上を走ってカオルのもとに急ぐ。植物はカオルにしか興味がないのか、白いイタチを攻撃してこない。
白いイタチは触手の上をスイスイ走り、カオルのそばまで来た。
「腕の触手を切れ!」
カオルの言う通り、白いイタチはカオルの右腕に絡みつく触手を切った。
「よし! ハサミ寄こせ!」
白いイタチからハサミを受け取ると、カオルはすぐさま自分に絡みつく触手を切った。左腕、腹、腰、パンツ、足と順番に触手を切っていく。
身体を支える触手がなくなり、カオルは地面に落ちるが、クルンと身体を回し、うまく着地する。そして、ズリ下げられたカボチャパンツを上げた。白いイタチもその隣に着地する。
「こんの変態植物が。覚悟しろよ!」
声を荒げながら、カオルは周りを見回す。
「あそこか」
カオルの見る先には、ステッキがあった。植物の根元に落ちている。
カオルはハサミを構えると、植物に向かって走り出した。