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前編

_先生、「キャリア」ってなんですか?先生!「貧困」ってなんですか?せんせい!「世の中」がよくわからないんですけど…_そんな疑問に答えられたら。2014年7月。


 ここは東京の多摩地域にある都立東小平高校。勉強はまあそこそこできて、部活もまあまあ上の方。特に進学校というわけではないフツーの高校。今は2月。卒業を目前に控えた3年G組の4人組は朝学活を受けていた。担任が出席を確認すると「今、受験と戦っている仲間がいるんだから授業中の私語はゼッタイにするんじゃないぞ!いいな!よし!終わり!」と担任はそう言い終わると教室から出て行った。その出て行ったタイミングを見計らった4人組は素早く荷物をまとめだした。階段を駆け下り、昇降口を出て、駅へ向かった。「羽田空港までいくら?ねぇわかる人いる?」と女子の声が切符売り場に響いた。彼女はケイコだ。とにかく元気なJKだ。「ヤフーで調べればいいじゃん」と返したのはヒロキ。物臭だが意外と頼りになる男である。「とりあえず高田馬場まで出ようよ」とナツミが言った。ナツミは物静かな草食系女子だ。「次の急行もう下にいるから早くしろよ!」と急かしたのはジュンジ。せっかちな男である。

 「急行西武新宿行き発車です、駆け込まないでください!」なんとか4人は急行に乗れた。ヒロキはなぜかそわそわしている。スマホがないのだ。落としたのではない。捨てたのだ。ヒロキはスマホを使うときは大概ゲームで遊んでいるのだ。スマホ依存ってやつ。

 そう、4人は出かける前、誓い合った。親や先生ないしは警察が追って来ないようにスマホは捨てる。何があっても自己責任。目的地まではゼッタイ突き進む_現代人に必要なスマホを捨ててゆくのだ。要するに現実はここには要らない。誰かに縛られたくない。

 

 4人はまだまだ続く東京の朝ラッシュを抜け、空港に行くモノレールに乗った。

 鉄がむき出しになったモンスターみたいな工場群、アリの大群を彷彿とさせるおびただしいトラックの数、一日どれだけの人がそこで働いて、お金をもらっているのだろう。そしてどれだけの人がクビになるのだろう。4人が中学生の頃だったろうか、たしかリーマンなんとかってヤツが起きたんだ。それで年越しなんとか村ってヤツもあったんだ。4人はそんなことを考えた。

 「ご乗車お疲れ様でした、羽田空港第一ビルです、お降り間違いの無いようご注意ください」空港にたどり着くことのできた彼ら。ケイコが「ひこーきの切符ってどうやって買うの?」と言い、ジュンジは「券売機あるだろ、図鑑で見たことあるし」と答えた。ヒロキは「ヒコーキって切符あんの?」と話についてゆけていない。「出発2階ロビー」という表示を見つけたヒロキが3人を引っ張ってゆく。2階に上がるとケイコはJALの制服を着た女性に尋ねた。「私たち切符持ってないんですけど、ここで切符かえますか?」、「今日ご出発なさるのですか?」「はい、そうなんです。」女性はケイコたちを発券カウンターまで案内した。カウンターには30歳くらいの男性社員がいた。「いらっしゃいませ。どちらまでご購入ですか?」、ケイコは「沖縄まで」と答えた。「沖縄ですと、那覇までですか?」と聞き返した。まあいい。本当はどこでも良かったのだ。男性は機械をいじって発券をした。「大人4名様で16万9140円頂戴いたします。」どうしよう…そんなお金ないよ…とうつむきかけた時、ヒロキが「俺、デビットならある」と言ったのだ。「デビットカード使えますか」、「はい、ご利用いただけますよ」

 とりあえず買えたようだ。去り際、その男性が声をかけた。「お友達でご旅行ですか?」とにこやかな笑顔だった。「まあ、そんなものです」とケイコが作り笑いで答えた。本当は違うけれど…だが、その様子を見ていた先ほどの男性社員とマネージャーらしき別の社員は4人の方を怪訝そうな顔をして見ては腕組みをしていた。デビットカードがまずかったのか…

 4人は保安検査場を抜け、搭乗券に書かれた11番ゲートへ向かう。いよいよ東京を離れるのだ。それぞれのゲート前にはやはり2月のこの時期あって観光客というより、黒やグレーのコートを着込んだ出張客が目立つ。4人の父親と同い年か少し上だろう。4人は親に対して罪悪感を少し覚えた。

 「お客様にご案内いたします。日本航空909便那覇行きの最終搭乗案内をいたします。那覇行き909便の搭乗券をお持ちのお客様は至急11番ゲートにお急ぎください。Ladies and gentleman…」4人はそれぞれのゲートナンバーを横目で数えながらダッシュした。16、15、14,13、12、そして、11!4人はハアハアと息を切らしながら搭乗券を女性係員に見せた。係員は「いってらっしゃいませ。」とにこやかに4人を見送った。当然、彼女は4人の事情は知らない。


 4人を乗せた日本航空909便は力強い轟音と、金切り声のようなエンジン音を立てて滑走路を飛び立った。飛行機は右に旋回し、どんどんと高度を上げてゆく。ヘドロまみれの淀んだ緑の東京湾とアイロンモンスターというべきカオスな工場群を真下に。さようなら、東京。しばらくは帰るまい。

 シートベルト着用サインが消えると、機内は客の話声でにぎやかになりたした。するとすかさず、ケイコが話し出す。「あたし、飛行機って生まれて初めて乗るんだ。ほら、修学旅行の時は新幹線で京都じゃん?キョートって何がいいんだか分かんなくない?お寺とか神社とか興味ないんだよねー」「今はそうかもしれない。ほら、大人になったら感性が変わるってゆーか、成長するっていうか…さ…」と意見を述べてみる。ケイコはジュンジの真面目な返答に戸惑ったらしく「そ、そっか…オトナになったら…か…」ケイコとジュンジは並んで座っていて、その後ろの列にナツミとヒロキがならんで座っている。ナツミの元気がないことに気付いたヒロキは「おい、どうしたんだよ?酔ったのか?スチュワーデス呼ぶか?」ヒロキの声でケイコもそのことに気づいた。「ナツミ、具合悪いの?」「あのさ…実は私、今日のこと誰にも言ってない。急に罪悪感が芽生えたってゆうか…みんなごめん…私のために考えてくれたんだよね…ほんと、ありがとう」

 そう、この旅はナツミのためにケイコ、ヒロキ、ジュンジの3人が考えた旅であった。

 ケイコとヒロキは校内推薦で大学進学を決め、ジュンジは鉄道関係の専門学校に行くことが決まっているが、ただ一人ナツミは家計の都合で大学に行けず、就職もことごとく落とされ、無気力になっていた。どうしても就職しなくてはならない。その原因は、ナツミは母子家庭だからである。

 ナツミの父親はナツミが幼稚園の頃に心臓を患って亡くなった。そのため、よく父親のことは覚えていない。だがひとつだけ父親の思い出がある。そう、母親と父親に連れられて海に行ったのだ。青とも緑とも見分けがつかない透き通った海。時々キラキラと輝く白い砂。その浜辺に行けばお父さんに会えるかもしれない。お父さんに会いたい。「なつみ」って呼んでほしい。今、苦しくても父親のことを思い出せば癒されるのかもしれない……

 そのことを仲良しの3人に話したら、今すぐにでも行こう!ということになったのだ。ケイコが特に盛り上がっていた。地理が得意なジュンジは思い出の砂浜を沖縄の諸島のどこかだろうと推測し、ヒロキは金ならあるぜと言った。友達思いの親友。4人とも同じ中学の出身だ。飛行機は紀伊半島の上空に差し掛かっていた。


 その頃4人の学校では、3年生の先生全員が職員室に集合していた。「鍬崎先生、朝学活には4人とも居たんですよね?あの後一体何してたんですか?」「どうするんです?こんな大事な時に!」4人の担任の鍬崎はほかの先生達に口々に罵倒されていた。「ですから!4人とも僕が出席とった時には居たんですって!家にも連絡しましたよ!そしたら家にも帰ってないって!もうどうすれば……」学年主任の荒木先生は「皆さん、もう一度校内を探しましょう。よくあることですよ」「けっ、警察は…?」と誰かが言ったが、それは最悪の時だ。事態の深刻さに気付いた鍬崎は自分の教室に戻ると、「今日はこれから全員自習してくれ!俺は急用が入ってしまったんだ!すまない!」と言い残し、とっさに校門を飛び出た。ローファーを履いているせいか、何度も転んでいた。今は構わない。とにかく4人を探さなくては。鍬崎は近所を散歩していたお年寄りや4人が行きそうなコンビニやスーパーの店員らに聞き込みを始めた。「今朝、高校生の4人組を見かけませんでしたか?男子二人と女子二人の四人なんですけど!」だが、どの人も知らない、見ていないという答えしか得られなかった。駅でも聞き込みをしたが、こちらも駄目であった。校内にも近所にもいない。一体どこに行ったんだ?


 先生が駆け回っている一方、機内にいる4人はこれからどうするかについて話していた。「沖縄なんだよな?ナツミの思い出のとこって」「沖縄って上と下に広いじゃん?あてずっぽうに行っても無駄足になっちゃうよ」とヒロキとケイコが尋ねた。ナツミは必死で思い出そうとするのだが、なかなか思い出せない。

 たしかあの時写真を撮ったんだ。カメラをつけた三脚を砂浜の上に立ててセルフタイマーで撮ったんだ。その写真どうしたんだっけ。お母さんが、「ナツミのお父さんはいつでもここにいるのよ。だから、ナツミが大事に持ってるときっと何があっても守ってくれるわよ」ってお母さんが言ってた。あっ!そうだ!

 ナツミは突然鞄を開け、小さな内ポケットを探し出した。あった、あった!その写真があった!ナツミはその写真を指差して「ここ!ここ!ここに行きたい!」と思わず大声をあげた。普段おとなしいナツミが大声を出すなんてよっぽどのことだ。4人はその写真を囲むように見た。白い帽子を被って水色のワンピースを着た幼い女の子がナツミで、その右に母親、そして左側に父親が写っている。

 このころの父親の顔は体育の先生並みに血色が良く、日焼けをしている。この頃は休日には会社のバレーボールチームでエースアタッカーとして活躍していた位元気だったらしい。だが、この写真を撮ったおおよそ半年後に心臓に異常が見つかって、間もなく亡くなった。でも、ナツミのことを一番にかわいがってくれた父親にどうしても今、会いたくなった。死んでしまった人間に会うなんて科学的には不可能だ。でも、でも、父親を感じたいのだ…

 「お客様にご案内いたします。当機はあと二十分程で那覇空港に着陸いたします。ご着席のお客様はシートベルトが締まっていることをもう一度お確かめください」もう沖縄はすぐだ。あっという間である。結局、写真の場所がどこかはわからなかった。4人を乗せた飛行機は那覇空港に着陸した。外はどうやら曇りのようだ。JAL909便がスポットに到着すると、4人はシートベルトを外し、荷物棚から各々の鞄を取った。4人はとりあえず空港の外に出ることにした。東京よりずっと暖かい。というか暑いほど。「これからどうするの?ねえ!」とケイコが3人に聞いた。「あの写真の場所がわからないことにはどうしようもないぞ」とジュンジ

が答えた。ヒロキは「誰かに聞かねえ?」と言ってみた。結局、ヒロキの意見に従うことになった。ケイコを先頭に4人は空港内に一度もどり、航空会社の人、土産物屋、レストランの人に聞いて回った。「すみません、この写真撮った場所わかりませんか?友達がここに行きたいんです!」「誰かこの辺詳しい人とかいませんかね?」30分たっても知っている人には出会えなかった。時計はもうすぐ3時半を迎えようとしていた。焦る4人。思わず早足になっていた。そのとき先頭を歩いていたケイコにすれ違った男性のスーツケースが当たってしまった。そのはずみで写真から思わず手を放してしまった。その男性はあわてて立ち止まり、ケイコに声をかけた。「大丈夫?ケガは?」「いえ、大丈夫です」写真が落ちていることが分かった男性は、写真を拾った。男性はその写真を思わず凝視してしまった。「ここは…」「あのう…もしかして何かご存じだったり…」とケイコが尋ねた。「ここ渡嘉敷だ!初めての添乗がここだったんだ!だから何か見たことがあったんだよ!」その男性の胸元を見ると、ネームプレートに大手旅行会社のツアー添乗員と書いてある。だから沖縄にはかなりの知識があった。ナツミは最後の希望を託すかのように「私たち、ここに行きたいんです!どうしたら行けますか!?」と聞いた。「泊って港からフェリーだね。泊まではタクシーが早いけど、今の時間道が混みだすんだよね。ゆいレールで美栄橋駅まで行って、泊港は歩いてすぐだから。あっ、バス出るから行かなきゃ!」「ありがとうございます!」4人がお礼を言うと、男性はすぐに走り出した。どうやらツアー客を待たせていたようだ。

 

 4人が港へ向かいだした頃、鍬崎はいったん学校に戻り、学校は4人の親と校長を交えて緊急の会議を始めた。「一体どうなってるの?うちの息子をどうしてくれるのよ!」「見てない、知らないなんて言わせないぞ!」「ナツミ…どうしたのかしら…」校長と副校長が必死に親たちをなだめようと必死になっている。「我々もいろいろな手を尽くしました。学校の近くを手分けして探しました。聞き込みもしました。ですが…」「だけど見つからないんだろう!!こっちは仕事早退してきてんだよ!なんとかしろよ!」と親の一人が怒りを露にした。「早く警察に電話しましょう。間違いなく事件に巻き込まれたのよ!」と親の一人が言い出した。すると連鎖的に警察に通報しようとする動きになった。結局、ここで警察に電話することになった。20分ぐらいして警察が来て最初に調べたのは4人のスマホの現在地だった。だが、現在地を調べて出てきたのは昇降口のロッカーの中だった。それぞれのスマホのメールも通話履歴もラインもすべて消されていた。これではどこへ行ったのかわからない。

 警察と先生達が4人の保護者に思い当たる節を聞いていた。「学校では何の問題もなかったと把握しておりますが、家庭や塾などで何かもめたり、トラブルに発展する様な事はありませんでしたか?」「いいえ、最近は全然」「さぁ…いつも通りだったが」親はそう答えた。すると警官の一人が親達に尋ねた。「えー、あの、変わったことならなんでも話して下さって結構ですよ。お子様に関わらず…それが何か手掛かりになるかもしれませんし」すると、ヒロキの父親が言い出した。「私のデビットカードがここ数日見当たらないんです。普段いろいろ鞄を変えて出社するもので、もしかしたら別の鞄に入っているかなぁなんて…」デビットカードだ。警官はヒロキの親に今すぐカードの所在を確認し、カード会社に連絡するよう言った。しばらくして、廊下からヒロキの父親の素っ頓狂な声がした。「はあ?16万!?いつ使ったんだ?え?今日!?羽田のJALで?一体どうなってんだよ!ええ、私が持ち主です。は、はい、すぐ、すぐに!止めてくれ!」声を聴いて他の親たちが飛んできた。「何があったんです?」「あいつ、今日デビットカードで航空券買ったそうだ。行先は言わなかったが、飛行機でどこか行ったに違いない。早く何とかしなくては」と頭を抱えてしゃがみこんだ。警察が慌てて各方面に電話をかけているのが分かった。しばらくして、一つの手掛かりが見つかった。今朝、羽田空港で東小平高校らしき制服を着た4人組の高校生に那覇行きの航空券を販売した社員がいるとの連絡だった。背丈や身長などからしてあの4人に間違いなさそうだ。だが、羽田から先の情報はよくわかっていない。担任の鍬崎は突然、「お、沖縄まで行ってきます!生徒たちから目を離したのは私の責任です!ですから、私に捜させてください!お願いします!」としきりに頭を下げだした。「鍬崎先生。しかし、たとえ4人が沖縄いることが分かっても沖縄のどこかまではわからないんですよ。あまりに無謀すぎます」「沖縄の警察の方に任せましょうよ」という反対もあったが、校長がしばらくの沈黙の後、「これは私からの業務命令です。沖縄に鍬崎先生が行けば4人を保護できた際に、彼らが安心できるでしょう。ですから、鍬崎先生は今すぐ沖縄へ向かってください。しかし、残った他の生徒たちに迷惑が掛からないように、引き時を考えてな」「校長先生、ありがとうございます!」と鍬崎は礼を言い、駅へ一目散に向かっていった。


 4人は空港からモノレールに乗車し、泊港にたどり着いた。泊港は先ほど後にした空港の滑走路がすぐそばで、周りにホテルや雑居ビルが立ち並んでいる港だ。水は青く透き通っていた。彼らのなじみのところで例えれば横浜の山下公園みたいな都会の港の水がきれいになったようだ。待合室に入ると、地元の人たちでにぎわっていた。特にお年寄りが多かった。時々聞きなれない言葉が飛び交っている。方言だろうか。確か「うちなーぐち」っていうんだっけ。地理で習ったのいつだったかな…

 「16時30分、渡嘉敷行き乗船始まりましたー!続いてご乗船くださーい!」と係員が言い始めた。4人も後に続いた。しかし、ナツミの足が一瞬止まった。そこには3歳くらいの女の子を連れた若い夫婦がいた。「エミ、明日何してあそぼっか?明日はグラスボートやドライブもするよ」「あたし、おさかなみたーい!かめさんいるかなあ?」「うーん、エミがいい子にしてたらかめさん出てくるかな?」「うん、いいこにする!」とたわいもない会話が聞こえてくる。ナツミはまだ父親が生きていたあの頃を思い出していた。きっとあんな風な優しい父親だったに違いない。今、天国で何してるんだろう?私のこと今でもかわいがってくれる?勝手に家出てお母さんのこと何にも考えてなかった。親不孝だよね…でも、でも、お父さんに会いたかったの。許してくれますか…?「ナツミ?ナツミったら!もうみんな乗ってるよ!ぼーっと突っ立てないで早く!」とケイコが急かした。ナツミは慌てて3人の所へ向かった。


 フェリーは港を出ると程なくして、唸るような音を出して速度を上げていった。ホテルな雑居ビルはもうここからでは見えなくなった。4人は旅の疲れのせいか、デッキに5分ほどいた後、客室のシートに並んで腰かけた。「朝東京出たのに、もうこんな時間!疲れたよねー」とケイコが言った。「今頃親や鍬センとか大騒ぎなんじゃね?」とヒロキが返す。鍬センとは4人の担任の鍬崎のことだ。生徒の間からはこう呼ばれている。

 客室にはテレビがついており、NHKだろうか、ニュースがやっていた。ぼんやり眺めていると、アナウンサーが突然あわてた様子で原稿をめくりだした。「速報です。今朝8時過ぎ、東京都小平市にある都立高校から三年生の生徒4人が突然いなくなり、行方不明になっています。生徒4人の名前はまだ明らかにはなっていませんが、警察は何らかの事件に巻き込まれた可能性があるとして、依然捜査が行われています。えー、速報が入り次第、またお伝えします」

 …今、東京都小平市って言ってたよな?間違いなく俺たちのことじゃね……?誰かが口に出さなくても4人はわかっていた。警察が動き出した。でも、いつかは戻ってくるつもりだし、そこまでするのか。

 那覇を出て、どれ位時間がたったのだろう。いつの間にか4人のそばの席に80歳位のお爺さんが座っていた。どうやら一人で乗っているようだ。すると、そのお爺さんは4人に向かってにこやかに話しかけた。「やぁ、あなたたち学生さんかい?うーん、旅行かい?」「えーっと、高校生です。旅行みたいなものですね…」と突然話しかけられたものだからケイコが少し戸惑いながら答えた。「旅行かい。制服を着てるということは修学旅行?でも2月だからねぇ…先生は乗っているのかい?もしかして…」

 4人は顔を見合わせた。旅行とか嘘をついてきたけど、このお爺さんはどうやら違うみたいだ。さっきのニュースを見ていたに決まっている。通報しちゃうかもしれない…

 「なんだい、4人とも?さっきからおっかない顔をしてるなぁ。何かあるのかい?隠し事でもあるのか?お天道様が見てるからねぇ」

 ナツミは「ここは本当のこと言わない?このお爺さんなら大丈夫だよ…きっと」よくわからないが、話すことにした。「実は私たち学校から抜け出して、どうしても行きたい場所に向かってるんです。でも、」「抜け出したって、親も先生もいないのかい?それにどこから出てきた?那覇から?」「東京…」ジュンジが小声でつぶやいた。するとお爺さんは目を見開いた。「何?東京から来たの?ここまで?4人だけで?」「はい」「何かあるなぁとは薄々感じていたよ。でも、たった4人で東京からなんてなぁ…。事情はよくわからんが、ヒトサライには気をつけなさい。田舎にはよく出るからね」と根掘り葉掘り聞かなかった。4人を乗せたフェリーはあと一〇分で渡嘉敷島に着く。    前編(完)

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