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野良怪談百物語

その水たまり

作者: 木下秋
掲載日:2014/07/17

 ――雨がふっていました。


 もう三日もふりつづけています。空を見上げれば灰色《はいいろ》の雲が。そして、白い雨がふってくるのが見えます。


 シトシトとふっています。しゅん君は思いました。



 (あぁ、今日もふっている)



 昨日もふっていた。その前も。きっと、明日もふっているんだろうなぁ。そう思いました。


 学校がおわって、教室《きょうしつ》の窓《まど》から外を見下《みお》ろせば、みんなが帰ってゆく姿《すがた》が見えます。


 色とりどりの傘をさしたお友だち達が、南側《みなみがわ》の正門、東門《ひがしもん》とに向かって放射状《ほうしゃじょう》に、虹《にじ》のカケラのように散《ち》らばってゆきます。しゅん君は「きれいだなぁ」と呟《つぶや》いて、じっとそれを眺《なが》めていました。


 しばらくしてしゅん君も帰ろうと、身支度《みじたく》をして門を出ました。雨は相変《あいか》わらず、シトシトとふっています。


 道を歩いてしばらくすると、前に二人の男の子が見えました。二人は傘《かさ》の枝《えだ》を指《ゆび》でつまんで弾《はじ》き、水をかけあって遊んでいます。


 するとその男の子達の前に、水たまりが現れました。雨がふった日には必《かなら》ず現《あらわ》れる、大きな大きな水たまりです。


 しゅん君は大きな声で言いました。



「その水たまりにおちたら、しぬよ」



 二人はおどろき、ふり返《かえ》ると、なんとも言えない不思議《ふしぎ》そうな顔をしました。「今の、なに?」そんな表情《ひょうじょう》です。


 二人は向《む》き合い、少し困《こま》ったような表情のまま笑いました。そして、水たまりに向かいます。


 右の子が、少し下がってぴょんっ、と跳《と》びました。男の子の足が地面《じめん》からはなれます。かざしていた傘が空気をつかみ、男の子の体はふわりと宙《ちゅう》に浮《う》きます。


 そして、水たまりの真ん中に左足から着水《ちゃくすい》しました。ひときわ大きな波紋《はもん》が広がります。


 靴のつま先が水に着《つ》いたと思うと、次に足首、ふくらはぎ、太ももの順に水に浸《つ》かってゆきます。左足に遅《おく》れて、右足も。


 腰《こし》まで浸かったかと思うと、あっというまに胴《どう》や肩《かた》、頭まで浸かってしまいます。そして、傘を持っていた右腕だけが残ります。


 スルスルとそれも短くなると、最後《さいご》には傘の黄色い生地《きじ》が残《のこ》りました。それはぷくっ、とふくらみ抵抗《ていこう》しましたが、男の子の体に引《ひ》っ張《ぱ》られるようにざぷん、と沈《しず》みました。……後《あと》に残《のこ》ったのはぶくぶくと浮《う》かんでは消《き》える、泡《あわ》と波《なみ》だけ。まるで、水深《すいしん》の深《ふか》いプールに飛び込んだかのように、それは見えました。


 もう一人の男の子は、その一瞬《いっしゅん》の出来事《できごと》の全《すべ》てを目《ま》の当たりにしていました。その場《ば》で固《かた》まったように棒立《ぼうだ》ちになり、その水たまりを見ていました。


 ――残った男の子はその後、ちらりとしゅん君の方を向いた後、走って行ってしまいました。


 ――しゅん君は一人、水たまりに近づいてそれを覗《のぞ》き込みます。


 その水たまりの底には、色とりどりの水玉模様《みずたまもよう》が見えました。


 それは湖《みずうみ》に沈《しず》む、虹《にじ》のカケラのようでした。



「きれいだなぁ」



 そう呟《つぶや》くと、水たまりに向かって飛《と》び込《こ》みました。

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