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生の隣にいつでも死はあった。
昔からそうだったから、恐怖はそこにない。
自らの力で歩くこともできない【隻眼】は、二人の男に引きずられるようにして広場の中央に連れていかれた。
眩しすぎる太陽の光を感じて、瞳を細める。
久しぶりに感じた陽光。何日も薄暗い地下にいたのだから、よけいに眩しく、だが懐かしく左眼を上に向ける。
公開処刑を今かと待ち続けるレキ=アードの街人が、一斉に狂乱したように喚声を上げた。
犯罪者の公開処刑は、帝都レキ=アードでのみ許された娯楽の一つなのだ。おそらく、この会場のどこか特等席に当事者たる二人の皇太子もいるのだろう。
自分を殺そうとした愚昧な行為を後悔する様を見るために。
「剣を持て」
処刑と言えども、対等に戦う権利を形ばかり持っている。ただ殺されるのではなく、興奮するような激しい死闘の末、無惨に殺されることを街人は願っているのだ。
だが、【隻眼】は満足に立つこともできなければ、剣を持ち上げるだけの力も残されていない。兵の一人から切れ味がいいとは思えない飾りのような剣を受け取ったものの、それを杖代わりにして立っているだけで精一杯の状態だった。
情けない。
だが、せめて戦って死ねるならいいと思った。それもエファイテュイアのために。
(……エファ)
願えるならば、もう一度逢いたかったけれど……。
大帝国を揺るがす大罪を犯した【隻眼】を待つのは、拷問と処刑。二度とデリトナ荒野にも戻れず、二度と彼女にも逢えない。
だが、後悔はしていなかった。
馬車の中で着飾った小さな姫は、【隻眼】が今まで出会ったどんな剣使いたちよりも真っ直ぐな強さを持っていた。そんな瞳をしていた。
静けさの中に眠る光があった。
それは、今思えば【流砂】に似ていたのかもしれない。
記憶の中にいる二人の瞳が、一瞬だけ重なって見えた。
表面に見える瞳の印象はまったく違う。だが、その内側に宿る穏やかさや厳格さ、優美さというものが同質のものに思えたのだ。
だが、普段のエファイテュイアは世間知らずで一人では何も出来ない子供だった。デリトナ荒野では何でも一人で出来なければならなかったから、【隻眼】の知っている幼い子供たちはエファイテュイアよりも生きるための術をたくさん知っていたのだ。
(お前がはじめて見せたあの輝きのために……)
馬上の【隻眼】と車中のエファイテュイアの視線が交錯したのはほんの一瞬であったかもしれないけれど、【隻眼】にとっては永い一瞬だった。その瞬間を終わらせたくないと、【隻眼】は初めて思ったのだ。
食料にも、仲間にも、自分の命にすら執着したことのなかった【隻眼】がはじめて……。
守るための戦い。
これは、守るための聖戦なのだ。




