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二日目

これはバレンタインにチョコを貰うためのハウツ(以下略)

 翌日、二月十二日。

 バレンタイン対策、もとい予防を始めて二日目の昼。勇と十海が何か悟った顔で俺の席に近づいてきた。


「どうした? 何かあったのか?」


 俺が訊いてやると、二人はフッとキザったらしい笑みを浮かべた。


「俺たちは見つけてしまったんだよ。新たな現状の打開法をね」


 十海が鼻持ちならない様子で髪を掻き上げた。

 そこまで言うのだから、きっと簡単なチョコの貰い方を教えてもらったのだろう。(くだらないものには違いないが)


「そう、答えは単純だったんだよ……」


「ああ、要は……」


 二人が異口同音に言葉を発した。


「「彼女をつくればよかったんだ」」


 昨日よりハードルが高くなっている。


「何故お前らは学習能力がないんだ……」


 常識的に考えてみて、こんな変態紳士と付き合いたい女性はいないだろう。


「というわけで、放課後に合コンを開くことになった!」


「え!?」


 俺の驚愕した表情を一瞥して、勇と十海が破顔一笑、誇らしげに笑う。


「フッ、初めての経験だろうが安心しろ。俺がきっちりと場を――」


「お前らが合コンのセッティングをできたのか!?」 


「「そこかよ!?」」


 奇跡が起きた! そんな希望をもたせてしまうのであれば、いっそ最初からなければよかったのに……。

 いや、というかどうやってセッティングしたんだ? まさか、拉致誘拐したんじゃないだろうな……。それどころか、弱みを握って脅迫をしたのかもしれない。いずれにしろ、法に触れたには違いない。


「勇、十海。今までありがとう。お前らのことは可能な限り忘れない」


「ちょっと待て。なんで俺らがヤバイことした扱いになってるんだ?」


「それに覚えるなら一生覚えてろよ」


 だが、犯罪を犯す以外にこいつらにはやり口はないはず。本人たちに自意識がないだけなのだろうか。


「どんな犯罪を犯したんだ?」


「やってねえよ!」


「委員長に頼み込んだんだ」


 委員長が簡単に聞き入れてくれるとは思えないが。


「土下座しても鰾膠もない返事しかもらえなかったのでな、数時間ほど護衛ストーキングしてやった」


「それでも首を縦に振らないので、仕方なく俺がジャイアンリハーサルを開催したら喜んで頷いてくれたよ」


 お前らは学校で何してるんだ。


「兎に角、放課後に駅前のファミレスに集合な。女子力スカ○ター忘れるなよ」


 そうして二人は言いたいことだけ言って去っていった。

 まったく、勝手な奴らだ。





 放課後。約束をすっぽかした後のしっぺ返しが恐ろしかったので、仕方なく駅前のファミレスにやってきた。

 勇と十海は合コン相手の女子と既に相席しているとのことで、指定された席へと向かう。

 スカ○ターは装着済みだ。


「いやー、遅れてすいませ……」


 そこで俺が見た光景は、筆舌に尽くしがたいものだった。

 テーブルに居座る三人の女子。左から、腰まで伸びるロングヘアーが印象的な女子、その隣に赤い特攻服を着た女子、そして最後にベレー帽を被ったジャイ子だ。


 三人は、揃って高々と床にあるソレを唾棄するように俯瞰していた。ソレらは畏縮したように床に這いつくばっていた。

 勇と十海が女子たちに全力で土下座していた。


「あの……何してるの?」


 俺が声を掛けてやると、勇と十海が感極まった様子で足に縋り付いてきた。


「ぼっ、ぼくっ。なっ、なんも悪くなっ、いっ」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


「取り敢えず落ち着け。何があった?」


 仕方なく宥めて経緯を聞き出す。


「あっ、あのっ、おねえちゃんたちがっ、こっ、こわっ「あぁん!?」いえ、申し訳ありませんでした!」


 幼児退行を起こしていた十海が特攻服の女子の一喝で元に戻った。九十度、直角ぴったりに頭を下げている。そのまま名詞でも出しそうな雰囲気だ。やはりこいつ、デキる……!


「いいから、何があったか教えてくれ」


「話は簡単だ」


 欝状態から脱した勇が人差し指を立てた。そのまま自分と十海を指し、テーブルに座る二人の女子(ジャイ子を除く)を順繰りに指していった。


「付き合って下さいって言ったら殺されかけた」


 そこまで嫌われていたか……。

 見れば、勇と十海が座っていたと思しき席には枚挙に遑がないほどナイフやフォークが突き刺さっていた。

 よく生きてたな……。


「フン、用がないならあたしは帰らせてもらうぜ」


 男子二人にかかりっきりになってしまった所為だろうか。レディースっぽい女子が苛立ちながら席を立った。

 しかし次の瞬間、土下座した勇と十海に阻まれる。


「すいやせん。あと、もうちょっと待っててもらえやせんか」


「幾らでも奢るんで!」


 特攻服の女子はフンと鼻をならすと席に座り直した。

 入れ替わるように、隣のロングヘアーの女子が席を立つ。


「すいま「「幾らでも奢るんで」」そうですか、わかりました」


 フフフと笑いながら席に戻る女子。

 すると今度はジャイ子が席を立った。


「あたしもう帰る」


「「…………」」


「止めなさいよ!!!」


 こればかりは仕方ないと思う。





 数分後。なんとか場を執り成した俺は男女五人を席に着かせることに成功した。

 周囲の客からは未だに不審な視線が注がれるが、気にしたら負けだ。


「えーと、それじゃあ俺はまだ来たばかりなので、既に終えているとは思いますが、自己紹介していただけないでしょうか?」


 三人の女子相手になんとか場を繋げようと試みる。横の男子二人は依然戦々恐々としており再起不能の状態に陥っている。


「それじゃあ、私から」


 一番左側に座っているロングヘアーの大人しそうな女子が口火を切った。

 それを皮切りに、俺は女子たちの女子力を観測する。

 左側から順に、ロングヘアーの女子が女子力3、特攻服の女子が125、ジャイ子が20だった。以外な観測結果だ。

 内心驚きつつも、視線を正面に戻す。今はまだ自己紹介の途中だ。


「私、深沢緑と言います。趣味は裁縫とお掃除、あとは……料理かな」


 ダウトーーーーーーーーーッ!! 女子力3が何をぬかしてやがるッ!?

 自己紹介を終えた深沢さんは、柔和な笑みを浮かべながら手元のフォークで手持ちの人形をめった刺しにし始めた。


「ふふふふふふふ……」


「「ガクガクブルブル((((;゜Д゜))))」」


 横の男子二人の震えが加速する。確かにこれは怖い。

 続いて、特攻服の女子。


「青山恭子。『波図怒邏』っつーレディースのボスだ」

 ああ、パズ○ラね……。この人とは気が合いそうな気がする。

 そして最後に、


「あたしぃ、邪依子って言いますぅ。趣味はぁ、男遊びでぇ、A○B48の板○友美に似てるってよく言われますぅ。気軽にトモチンって呼んでくださぁい♡」


 瞬間、


「「「ダウト!」」」


 俺らは抗えない本能に従って、魂の叫びを開放した。全身全霊を以てして否定した。何故なら、認めたくなかったから。ジャイ子がそのまま邪依子だったということ。男遊びが可能な顔面だということ。アイドルに似てると言れる(きっと言わせてる)こと。全て。


 俺らは眼前にそびえ立っていた虚構を打ち砕き、互いに勝利の笑みを交わした。

 数瞬後にその顔面は血に染まった。






 怒り狂ったジャイ子が放った残像が見える速度のナイフとフォークに戦闘不能となった男子一勢は、RPGで勇者にやられたモンスターの如く女子一同に有り金を巻き上げられその場に放置された。

 合コンの結果など言うまでもない。

 一日目に引き続いて俺らは惨敗を喫した。

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