赤美ちゃん(3)
しばらく赤美ちゃんとおじいちゃんがお話をしていると、ドアをたたく音が響きました。
「誰じゃあ?」
おじいちゃんがドアに近づこうとしました。
「あっ、私が出ます。」
赤美ちゃんは、おじいちゃんを制してドアを開けに行きました。ドアを開けると、そこには硝子の靴を持った赤鬼が立っていました。赤美ちゃんが、おじいちゃんの家に来るときに会った赤鬼です。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
赤美ちゃんは、赤鬼を見たとたん叫んでおじいちゃんのところに向かい、叫ばれた赤鬼は目を見開き呆然としました。
「ど、どうしたんじゃ!?」
突然、叫び声をあげた赤美ちゃんに驚いたおじいちゃんは、ドアの方を見ました。赤美ちゃんは赤鬼の方を指差して言いました。
「あの赤鬼が、私のことを嫁にすると言って無理やり連れて行こうとするんです!」
「えっ!?ち、違う!俺はただ硝子の靴を返そうと」
「何〜!!?」
赤鬼が最後まで言い終わらないうちに、おじいちゃんが叫びました。
「くそっ!この鬼め!この子が、鬼ヶ島へ鬼退治に行った、わし桃太郎の孫と知っての計画か!?」
「・・・・えっ?」
そう、赤美ちゃんのおじいちゃんは、桃から生まれたといわれた、あの桃太郎だったのです。
それを聞いた赤鬼は慌てました。
「い、いや、だから俺は硝子の靴を」
「確かに、わしの孫は可愛い。だが、誰がお前みたいなアホ面でブッサイクな体だけゴツい鬼のところへ嫁にやらにゃならんのだ!」
「俺はもう、こいつを嫁にしようなんて思ってない!こんなに怖い嫁は嫌だ。」
赤美ちゃんと同じ事を言われて傷ついた赤鬼は、涙を流しながらもそのことを言いました。
しかし、おじいちゃんはそんなこと、まったく聞いていないようで、
「鬼退治に行ってから五十数年たったが、まだまだお主らには負けんぞ!」
と、言い指を口に当てて≪ピィィィー≫と回りに響き渡る音を出しました。
すると、どこからか犬、猿、キジが現れました。
突然の出現に、赤美ちゃんと赤鬼が驚いていると、
「おう。相棒、どうした?」
と犬が言いました。次に猿が、
「今日は何か食べ物くれるのかぃ?」
と言いました。最後にキジが、
「桃太郎さん。お風邪をひいたと聞きましたが、大丈夫ですか?」
と言いました。
「心配かけてすまんな。わしは大丈夫じゃ。それより、この鬼を追い出して二度と来れないようにこらしめてくれ!」
「あいよ!」「まかせとけぃ!」「わかったわ!」
三匹がそれぞれ言うと、いっせいに赤鬼に飛び掛りました。
赤鬼は、それに驚き、急いで逃げようとしましたが、犬に足を咬まれて倒れてしまいました。
そこに、すかさず猿が木の棒を持って赤鬼の頭を≪バゴバゴ≫殴り、キジが口ばしで赤鬼の体を≪ブスブス≫突き刺しました。
赤鬼は、それに絶えられず、何とかして外に出ると、そこにはおじいちゃんが凄い迫力で赤鬼を見ていました。
その手には、刀が握られています。
赤鬼はそれを見ると、震える足に力を入れて一目散に逃げていきました。
その後ろでは、黒い笑みを浮かべながら硝子の靴を履きなおしている赤美ちゃんの姿がありました。
おじいちゃんは、赤美ちゃんの演技にまた騙されてしまったようです。
赤美ちゃんとおじいちゃんと犬と猿とキジは、一緒にパイを食べながらお話をし、楽しい時間を過ごしました。すると、
≪ゴ〜ンゴ〜ン≫
「あら、もうこんな時間。そろそろ帰らないと、お母さんが心配するわ。」
「そうか。気をつけて帰るんじゃよ。お母さんによろしくな。」
「はい。では、おじいちゃん、犬さん、猿さん、キジさん、さようなら。」
赤美ちゃんはみんなに手を振りながら帰っていきました。
それを、しばらく微笑みながら見送っていたおじいちゃん達は、唐突に厳しい顔つきになると、
「もう入ってきても良いぞ。」
と、言いました。
「どうだ?うまくいったか?」
そう言って、裏口から入ってきたのはなんと、さっきの赤鬼でした。
「えぇ、このとおり。」
キジの口ばしには、一枚の紙が咥えられていました。
「まったく。お前の孫が鬼ヶ島の宝の地図を拾っていたなんてな。」
と、犬が言いました。
「すんなり渡してくれるような子だったら、こんな事せんでもよかったんやけどねぃ。」
と、猿が言いました。
「仕方あるまい。もし、気づかれて、宝を盗られるのは嫌だろう?」
と、おじいちゃんが言いました。
それには、犬、猿、キジ、赤鬼も勢いよくうなずきました。
「でも、お前が地図をなくさなければ、こんな事にはならなかったんだがな。」
赤鬼がニヤリとしながら言いました。
「風で飛ばされてしまったんじゃから、仕方ないだろう。まぁ、返ってきたのだからよいではないか。」
さて、もうお分かりでしょうか?赤美ちゃんは、おじいちゃんがなくしてしまった宝の地図をたまたま拾って、それを知ったおじいちゃん達は、赤美ちゃんからこっそりその地図を取り返すために、赤鬼と一騒動起こし、どさくさにまぎれて赤美ちゃんから地図を盗もうとしたのです。
つまり、全て演技だったのです。その結果、地図は無事におじいちゃん達のところに戻ってきました。
「それにしても、実の孫を騙しといて、悪気というものがないのか?お前は。」
犬が言いました。
それを聞いたおじいちゃんは、赤美ちゃんと同じような黒い笑みを浮かべると言いました。
「ふん。孫だろうと誰だろうと、必要なときは利用し、騙す。そんな事当たり前じゃろ。」
それを聞いた犬、猿、キジ、赤鬼は、
(お前はそういう奴だよな。)
(お前さんはそういう奴だとねぃ。)
(貴方はそういう人よね。)
(お前はそういう奴だよ。)
と、思いました。
さて、この中で一番演技力があるのは誰なのでしょう。
終わりました。短かったですね。初連載がこんなのでよかったのか、かなり不安ですが、楽しく(?)読んでいただけてたらいいなと思います(^^;)
番外編も書こうと思っているので、良かったらそちらの方も覗いてみてください(笑)