赤美ちゃん(2)
≪コンコン≫
「誰じゃ?」
「赤美です。」
「おぉ、赤美か。入ってよいぞ。」
赤美ちゃんはその声にこたえてドアを開けました。そこには、ベッドから起き上がろうとしていた一人のおじいさんがいました。
「おじいちゃん、お体の具合はどうですか?何か不自由な事はありませんか?これ、お母さんが作ったパイです。よかったら食べてくださいね。」
さっきの赤鬼に対してとは、明らかに違う声が赤美ちゃんから出てきました。いえ、お母さんに対してもこんな声は出していなかったでしょう。
「赤美はいつも優しいのぉ。おじいちゃんの自慢の孫じゃよ。さぁ、さぁ、こっちにおいで。お前が来たら渡そうと思っていた物があるんじゃよ。」
赤美ちゃんは、それを聞いたとたん黒い笑みを浮かべました。しかし、それは一瞬のことで、おじいちゃんが赤美ちゃんの方を向いたときには、普通に笑っておじいちゃんの方に近寄って行くところでした。
おじいちゃんは、手に持っていたものを赤美ちゃんに渡しました。それは、真っ赤なキラキラドレスでした。
「まぁ!おじいちゃん、こんな高いドレスを頂いていいんですか?なんだか悪いわ。」
赤美ちゃんは申し訳なさそうに言いましたが、赤美ちゃんはそんな事を気にするような子ではありません。心の中では、こんなこと思っていたのです。
(やっと、キラキラドレスが手に入ったわv買ったのならさっさと持ってきてくれたらいいのに!危うく同じドレスを買うところだったじゃない!)
でも、おじいちゃんは赤美ちゃんの本性も知らずに、素直にその言葉を受け止めました。
「いいんじゃよ。この前、店の前でジッとそのドレスを見ていたじゃろう?お前は、欲しいわけじゃないと言っておったが、おじいちゃんの目は誤魔化せんよ。」
おじいちゃんは優しく微笑みながら言いました。
しかし、おじいちゃんは騙されていたのです。
店の前でジッとドレスを見ていた事も、欲しくないと言った事も、孫に甘いおじいちゃんからドレスをもらうための演技だったのです。その結果、見事にドレスをGETしている赤美ちゃん。
「おじいちゃんは凄いですね!尊敬します。本当にありがとうございます!」
「可愛い、可愛い赤美のためじゃ。おじいちゃんは何だってするぞ。」
「まぁ、おじいちゃんったら。嬉しいけど、体も大切にしてくださいね。」
赤美ちゃんは、心配そうな顔でおじいちゃんの顔を覗き込みました。もちろんこれも演技です。
「なぁに!今回は、すこ〜しばかり風邪をひいてしまっただけで、そんなに心配するような病気じゃないんじゃよ。ほれ、もう元気になったぞ。」
おじいちゃんは、肩をまわしたり、腰をひねったりしました。
「おじいちゃんの体が丈夫なのは知ってるし、健康なのもわかりました。でも、あまり無理をしないでくださいね。」
赤美ちゃんがそう言うと、おじいちゃんは感激したのか、少し目元を潤ませて何度もうなずきました。
こんな感動のシーンでも、赤美ちゃんの本音は・・・
(あんたにもしものことがあったら、私への貢物が減るじゃない。)
という、なんとも酷いものでした。