黒服の男
いつもの帰り道の街頭の下に全身黒尽くめの怪しげな男が立っていた。
何も見なかったように通り過ぎようとした時、
「君。」
と声をかけられた。
その声はあまりにも冷えきっていたので一瞬鳥肌が立ってしまった。
結構ビビりな面もあったので振り向くのに少し躊躇した。
「…あの、僕ですか?」
「そう君だよ君。」
男は全身をスーツでまとっているのか、この暑い中トレンチコートを着ている。
顔は暗くて良く見えなかった。(なぜか分からないがその男の周りだけ異常に暗かった。)
身長は180〜190cm前後の長身で体重は多分70くらいだろうか。
男にとって最も理想的な体格をしていた。
「失礼、いきなり声をかけてびっくりしただろう。私はとある『機関』に所属している者でね。少し君に用があるんだ。」
僕は一瞬身の危険を感じた。
組織と言うと、とっさにあの名前が浮かんだ。
「ある機関って、まさか『一号テロ』の…そんな」
男は首を傾げて、
「まあ、組織であることはあながち間違ってはいないが。あの愚かな組織よかもっと小さく世間では誰にも知られていない。」
一号テロの生き残りではないのか…。
(因みに『一号テロ』を実行したテログループは、その半年後にこつ然と姿を消していた。ニュースでは警察と防衛軍が犯行声明の際に鎮圧したと言っていたが、それ以外の事はニュースや新聞では全く語られていない。)
「…よく分かりませんが、その組織の方が僕に何の用があるのですか…」
恐る恐る質問してみた。もしかしたらここで殺されるのかなと思った。
しかし、予想外の答えが返って来た。
「君を我が組織に勧誘しに来たのだよ。」
「え…!?」
あまりにも意味不明なその返答に僕は頭の中が混乱してしまった。
当たり前だ。
誰だっていきなり知らない人間から誰も知らない組織に入ってくれなんて言われたら、頭の中がぐちゃぐちゃになるし、この人頭がおかしいのではないかと思ってしまう。
「どうした、何を迷っているんだ。」
「いや、迷ってるも何も…いきなりそんな事言われても訳が分かりませんよ。どうして僕がそんな組織に入らなくちゃいけないんです…?」
かなり動揺していた。新手のドッキリか何かかこれは?
色々整理した頭で次の質問をしようとした時、
「君の彼女だった人を生きかえさせてやるぞ。」
と、信じられない事を言われた。