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第六話 コモン・ザ・ストロング

アスタリスクと名乗った少女と並列世界が消えて、しばらく経った。



「里沙さん…さっきの子は、なんだったんでしょうか…?」



里沙さんは、いつもより険しい顔つきで言った。



「私にも…よくわからないわ

でも、あんな子を見るのは初めてだわ…」


「…そうですか」



里沙さんみたいなベテランであっても、管理人というのは一度も見たことがないらしい。


里沙さんは、額に手を当てて言った。



「あの子、本当に何者なのかしら?

あなたたちは私達と同じ気配がする…って言ってたから、適応者ではないみたいだけど…」


「あのアスタリスクって奴は…自分を管理人って言ってましたよ。

とりあえず、管理人という人種である事にしません?」



里沙さんは、ため息をついて言った。



「そうね、これは皆に報告しないと…

じゃあ、今日のパトロールはここまでね。

今日は戻って、黒川に報告しないと」



俺と里沙さんは急遽、逆茂木高校に帰ることにした。







高校に戻った俺は、黒川先輩に今まであったことを話した。



「なるほどね…

君達は、管理人に会ったのか」


「もしかして…知ってるんですか?」


「ああ、知ってるよ。

僕の知識を甘く見てもらうと困るよ」


「は、はあ…」



俺は、意外だと思った。

黒川先輩の頭はただ虫の事だけで一杯だと思ってた。



「今、僕が知っているのは…管理人は全員女子である事と、

浄化と称して化け物を殺している事だね…」



黒川先輩は、ペン回しをしながら言った。



「あ、確かアスタリスクがそんな事を…」


「…アスタリスク?

君が会ったという、管理人の名前かい?」


「多分、名前だと思います。

俺が何者かと聞いた時に…」


「ふーん、珍しいね…」



黒川先輩は、そんな事は聞いた事がない…というような様子だった。



「僕が知る限りだけど…管理人は、基本的に自分から人間と関わるのような事はしないらしいよ」


「…じゃあ、何で俺と里沙さんを助けたりしたんですか?」



黒川先輩は、苦笑いしながら言った。



「うーん、それはさすがにわからないな。

多分、君達が適応者だからじゃないかな?

適応者と管理人は、とても似た特性を持ってるし」


「あー、確かにそんなような事言ってた気がしますね…」



俺は、アスタリスクが言った言葉を思い出した。




《敵味方デ言ウナラバ…

今ハ、味方ヨ…アナタ達ミタイナ同胞ニハ…手出シハナイ》




何か引っ掛かる言い方だと、俺は思った。


今は見方という事は、何かあれば敵になるのだろうか?


同胞とは、どういう意味だろうか?



「あー、管理人か…

考える程益々分からないな…

あ、そうだ黒川先輩…

俺、今からここで寝ます。

とりあえず、4時になったら起こして下さい…」


「ええ!?寺岡ちょっと!!」




俺は、そう言った後、部室の机に俯せになった。

黒川先輩の反論の声が聞こえたが、眠いので別に気にしなかった。


そして、俺はあっという間に睡魔に負けて眠りに堕ちた。







「寺岡君…4時だから…

起きてくれないと…困る…」



俺は、どこからか聞こえて来る声で目を覚ました。

その声の主は、川村だった。



「あれ?何で川村が…?」


「実は…寺岡君を4時に起こすようにって…部長に…」


「あー、なるほどね…」



黒川先輩が…逃げやがった。

俺を起こすのが面倒になったから、逃げたに違いない。


俺はさっと起き上がり、体を伸ばした。



「うーん…よく寝たな。

ただの昼寝で待たせて悪かったな、川村」


「ううん、気にしないで…

私も…あんまり予定ないし」



川村は、微笑して言った。

どうやら、本当に何も予定がなかったらしい。


俺は、スッと立ち上がると鞄を持ち上げた。



「さ、もう遅いから帰るか…

あ、川村も一緒に帰るか?」


「ええ…ぜひそうさせてもらうわ…」



俺は川村を連れ、学校を出た。


そして、いつもの通学路を川村と二人で歩き始める。

俺が初めて並列世界に遭遇したのも、この通学路である。


歩いていると、川村が急に話し掛けてきた。



「寺岡君…誰が私達を尾行してるわ…」


「…何だって!?」


「寺岡君…どうする?

このまま走って…撒く?

それとも…返り討ちにする?」



俺はしばらく考えた後、結論を出した。



「よし…決めた。

正体も気になるし、返り討ちにしよう…」







俺と川村は、曲がり角に差し掛かると武器を構えて待ち伏せすることにした。

しかし、なかなか追尾して来た奴が現れない。


余りにも遅いので、俺は思わず呟いた。



「まさか…感ずかれたか?」



その時、背後で声がした。



「へえ、今回は気付いたか」


「なっ…!いつの間に!?」



俺達の背後に立っていたのは、茶髪で、同い年ぐらいの男だった。

そして、彼は薄笑いしながら俺に言った。



「あんた、中城といた適応者だろ?

フン…ずっと見てたぜ、中城と一緒に戦ってるところとかな」


「…!!」



俺は、そいつと距離を取った。

化け物ではないとはいえ、油断はできなかったからだ。



「お前は…何者なんだ?」


「おお、そういえば自己紹介がまだだったな。

俺の名は、冴祓渚さえはらなぎさ

滝川高校の隣にある、城谷高校2年の演劇部部員だ」



俺は距離を取りながら、質問した。



「もう一つ、聞こうか…

冴祓…お前はなぜ俺達を尾行していたんだ?」


「中城が新しい適応者に会うって言うから、どんな奴か拝みに来たか見るためだけだ」


「…それ以外の理由は?」



冴祓は、ため息をついた。



「なんでビギナーはこう警戒心が強いんだか…

いや、化け物を前にしたらこれくらいは当然か」



冴祓は俺達に向き直る。



「寺岡と…川村だったか、お前らちょっとついてきな」


「…どういうつもりだ?」


「いいから来いよ。

今から行いよ、今行かないと間に合わなくなるからな」







冴祓に言われて、川村と一緒について行ったら

いつの間にか周りは紅く染まっていた。

間違いない




「…並列世界!!」



「…どういう事かしら、冴祓さん」



川村がそう言うと、前を歩いていた冴祓が

顔だけこちらに向けて薄い笑みを浮かべながら返事をした。



「寺岡の戦い方は、この前見せて貰った。

とんでも無く危なっかしくて、隙だらけで、見てるこっちがソワソワした

多分、適応者でない川村なら尚更そうだろう。」



「…だから?」



「あまりにも危なっかしくて怖いから、基本中の基本だが戦い方を教えてやる」



「…え?」



「ほら、そうこう言ってるうちに、敵さんが出てきたぞ?」



薄い笑みを浮かべたまま前を見る冴祓。

何かと思い、俺たち二人も前を見据えると化物が出現していた。

もう何度も見た。木で出来たマネキンに手に2つ装着されたナイフ。

ダミー・カットラーだった。


けど前に戦った時とは決定的に違う点が在った。



「数が多いな…」



ガシャガシャと蠢く気味の悪い物体がこちらに向けて

なんと4体。

4体もこっちに向かっていた。


「数が多いわね…一度退いた方が…」



「退く?何言ってんだよ、むしろ好都合だ。

常に敵が一体な訳がねぇだろ。一人で複数を相手にする事もある筈だ。

手本を見せてやる」



「それにしたって4体も、あまつさえ武器も持たないで…」



「出来るさ、武器も常に持ってる訳もねぇ」



「そ、それは幾らなんでも無謀だろ!?」



どれだけ腕に自信があるかは分からないが、アレを4体も一遍に敵に回すのは

あまりにも危険だ。武器を持ってようといまいと関係ない。

アレは危険だ。



「良いからそこで黙って見てろ。こっち来んなよ。

足手まといは御免だからな」



そう言ってポケットに手を突っこんだまま、カットラーの元へと歩み寄る冴祓。

そして4体のカットラーがそれぞれ襲いかかる。



「良いか?こいつらの動きは鈍いうえに、攻撃が単調かつ直線的だ」



バラバラに襲いかかるカットラーの8本の刃を次々と難無く避けて行く冴祓。

縦横斜め突き、様々な攻撃を全て避けて器用に避けて行く。

上半身を逸らし、身体の重心を右に寄せ、左に寄せ、半歩退き器用に避けていく。



「冷静になって攻撃を見れば、予備動作でどう攻撃してくるか分かる」



そう言って、腕を振り下げて隙だらけになった1体のカットラーに狙いを定めて、

冴祓は顔面に、下に振り下げる蹴りを入れた。

するとなんという事か、群がってたからか蹴り倒された1体のカットラー以外のカットラーもドミノ倒しに倒れて行った。


冴祓の足元で蠢いてるカットラーと、


向こうで3体が蠢いているカットラーとで二手に分かれていた。



「そして幾らなんでも分かってるとは思うが、カットラーの弱点は頭だ」



頭を踏みつけてる足をもう一度宙に浮かせ、再び振り抜くと、

カットラーの頭が黒い液体を辺りに撒き散らしながら潰れた。



「こうすれば死ぬ」



まずは一体。

そう言いたげな薄い笑みで、淡々と説明していく。

そして冴祓は、足元で絶命したカットラーの両手首を踏み砕いた。



「獲物が無い時は、敵から奪う」



踏み砕いた手首のナイフを足先で弾き宙に浮かべ、手に取った。

何とも慣れたような手つき。

間違い無く手練だ。宙を舞う2本のナイフを手で掴むのに全く恐れも無く抵抗も無かった。


そして次は2体一遍に襲いかかっていた。

両手を振りまわし、攻撃してくる2体のカットラー。

それも難なく、次々と避けていく。




2体のカットラーは全く考えずに攻撃しているのか、振り回している腕同士が勢い良くぶつかった。



そしてそこで出来た隙を、冴祓は見逃さなかった。




獲物を狙う蛇の様な鋭い動きで、一体のカットラーの頭部に横からナイフを深々と突き刺した。呻き声を上げる間もなく、更にもう一体のカットラーを倒していた。



更にまだ突き刺していないもう一本のナイフで、止めを刺したカットラーの細い手首を切り落とした。


それを素早く手に取り、もう一体の隙の出来たカットラーの頭部に突き刺した。



「出来る限り、無駄な戦い方はしない。弱点を一撃で突く」



速すぎた。

あまりにも速かった。

5秒にも満たない間に、2体のカットラーを仕留めた。


−次元が違う−


そう思わざるを得なかった。





「そして最後に1つ。これは丸腰だと不可能だが…」





そう言って、片手を振ると手に持っていたナイフが消えていた。

そしてそのナイフの行方は…




「接近戦の相手には、遠距離武器で戦うのが望ましい」




消えたナイフの行方は、最後のカットラーの頭に突き刺さっていた。




ガシャンという音を鳴らしながらカットラーが崩れていった。


距離にして5メートル、素人がナイフを投げて刺さって当たる距離じゃない。


何度この場数を踏めばそこまでなれるのか、俺は疑問になった。




「まぁ、基本はこんな感じだな」



パンパンと手を払って、こちらを向く冴祓。


何事も無かったように、

まるでこれか日常だという様に、相も変わらず薄い笑みを浮かべていた。



「……恐くないの?」



俺の隣に居た川村が、何かを探る様に冴祓に尋ねていた。



「もう恐くねぇな。慣れたからな」



軽く笑い飛ばす冴祓。

そこに続け様に尋ねる川村。



「一体何度戦ってきたんですか…?


何でそんなに戦うんですか?」



それを尋ねた途端、一瞬冴祓の顔から笑みが消えた。

けど、また直ぐにまた笑みを取り戻した。



「さて、何でだと思う?当たったら300円やるよ」



軽口を叩きながら、軽く笑い飛ばして、直ぐ返事が帰ってきた。

けど、その返事を直ぐ返すことが出来なかった。


笑みが消えた途端、なんだか哀しいような感情を感じ取ったからだ。



「さて、帰ろうぜ。」



俺の何か釈然としない気持ちと裏腹に、

空は綺麗な夕暮れに変わっていた。


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