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第二話 レジスタンス

並列世界から生還した翌朝、俺は今だに現実を受け止められずにいた。


友人の一人が、自分の目の前で化け物に殺された事。


そして、その化け物を俺が殺した事。



「違う…あれは夢だ…

あんなの夢に決まってる…」



何度も自分に言い聞かせるが、あの鮮明な記憶は間違いなく現実のものだった。



あの生暖かい返り血。


友人の断末魔の叫び声。


内臓や骨がえぐり出された友人の変死体。


そして…化け物を殴り殺したあの感触。



いくら否定しても、すべて現実には変わりはなかった。





その後、俺は学校には行ったものの、ほとんど授業に集中できなかった。


そして、気が付いた時には放課後になっていた。

昨日と同じように俺は一人でいた。

けれど、今はクラスに馴染めないで一人で座り込んでいた時とは違う理由だ。



「寺岡君…どうしたの?」


川村ひよりが声をかけてきた。


「あ、川村…」


「…気分でも悪いの?

もしかして…私の話のせい?」


「………」



なんとなく気まずい空気が流れた。



「あ、やっぱりそうなのね…

昨日は変な事言って…」


「いや、違う…お前のせいじゃない。

並列世界には行ったけど…」


「…!!」



川村は不意をつかれたように驚いていた。



「て、寺岡君…貴方は死人なんかではないわね?」


「俺が死人だったら、こんなところなんかにいないよ」


「そ…そうね」



川村は俺が並列世界から生還した事に驚いているらしい。


まあ、あの状況で戦う発想がなければ死んでただろうけど。



「俺は死ななかったが、元クラスメートの北沢って奴が化け物に殺されてさ…

俺は思わず、その化け物を殴り殺した…」


「それなら…気分が悪くて当然ね…」


「まあな…」



それからいきなり、川村は真剣な眼差しで俺を見てきた。



「な、なんだよ…?」



川村に見詰められ、思わず目を逸らした。

女子に見られるのは、どうも苦手だからだ。



「その話…今から詳しく聞かせてもらえないかしら?」


「え、ああ、いいけど…?」



川村の顔がパッと笑顔になる。



「ありがとう…

じゃあ、私について来て」


「あ、ちょっと…どこに行くんだよ!?」



川村は、俺の手を掴んでぐいぐい引っ張っていく。



「…オカルト研究会の部室よ」


「だからって、そんな引っ張んなくてもいい…

……っ!!」



俺は重大な事実に気付いた。


女子と手を繋いでいる。

誰がどう見ても、間違いなく繋いでいる。

多分、女子と手を繋ぐのは幼稚園以来だろう。


要するに、とても恥ずかしいのだ。



「あのー、川村さん?」


「ん?寺岡君、何?」


「ちょっと手を繋ぐのは恥ずかしいんだけど…」


「えっ…!?きゃあっ!!」


「…うわっ!」



川村が、手を離すと同時に俺を地面に突き飛ばした。


俺は顔面から見事に着地。


川村の顔がみるみる真っ赤になる。



「あ…えーと、ご、ごめんなさい!!

私ちょっと話に夢中になりすぎて…」


「全然いいけど…

急に突き飛ばしたりするなよ」



俺は額からだらだらと血を出しながら答えた。

川村が心配そうに俺を顔を見つめている。



「ちょ…寺岡君、大丈夫!?」


「多少痛いが、大丈夫だ…」


「いいえ、駄目よ…

ちょっと動かないで…」


「え…か、川村…!?」



川村が俺の額に絆創膏を貼ってくれた。



「あ、川村…ありがとうな」


「ううん、気にしないで。

私が勝手にした事だから…」



川村はちょっと照れ臭そうに言った。



「じゃあ、オカルト研究会の部室に行きましょうか…」


「お、おう…」







「ここがオカルト研究会の部室よ…」


「へぇ…意外とちゃんとした教室なんだな…」



オカルト研究会の部室は、大きな空き教室だった。

使っていない多目的教室か何かだろう。



「一応、オカルト研究会は、生徒会公認の部だからね…」


「なっ、生徒会公認!?」


「生徒会長が部長のお友達らしくて…」


「おいおい、そんなんでいいのか生徒会!?」



友達が多いに越した事はないってよく言うけど、こんなところで役に立つとは…



「とりあえず入って…

こんなところで立ち話もなんだから」



川村が部室の部屋のドアを開けた。


中は予想に反して、普通の教室だった。


そして、見覚えがある二人組が居た。



「黒川先輩に、忍!?」


「あれ?寺岡じゃないか!

やっぱり、甲虫同好会に入る気に…」


「いや、違いますよ!!」



今俺と話しているのは、黒川白刄(くろかわしらは)先輩。

後輩を甲虫同好会に入れようと必死である、高校でも有名な変わった先輩だ。



「あ、光輝!

…なんでこんな所に?」


「ああ、こいつにちょっと呼ばれてな…」


「何?光輝って…こういう根暗な子が好きなの?」


「それも違う!!」



今、俺をからかっているのは、俺の数少ない女子の幼なじみの三波忍(みなみしのぶ)だ。


そういえば、この二人…オカルト研究会の部員だったんだな。



「あ、寺岡君…この二人とは知り合いなの?」


「まあ、そうだな。

小学校からの幼なじみと、

しつこく同好会に勧誘してくる先輩ってところだな…」


「あ…そうなの?」



川村が意外そうな顔をして言った。



「お互いに認識はあるみたいだけど…

一応、紹介はしておくわね…

部長の黒川先輩と、情報収集係の三波さんよ…」


「ぶ、部長!?

黒川先輩部長なんですか!?」



俺の記憶が正しければ…黒川先輩は、甲虫同好会の部長だったはずだった。


「え?僕は虫だけじゃなくて、オカルト関係も好きなんだが…それじゃ駄目なのか?」


「いやいや、駄目も何も…

先輩が立ち上げた、甲虫同好会はどうしたんですか!?」


「大丈夫、掛け持ちだし」


「か、掛け持ち!?」


「部員少ないし、先輩会長も認めてくれてるしね」


「また、生徒会長のお友達権力ですか…」



生徒会長の許可があれば、掛け持ちができるらしい。


あの必死な甲虫同好会の勧誘はなんだったんだか。



「ところで、忍はなんでオカルト研究会に?」


「あたしは、職業柄かな?

ほら、巫女としての知識を身につけるにはここがもってこいじゃない?」


「…神仏とオカルトは違うと思うぞ?」



忍は波川神社の神主の一人娘、言うならば巫女さんだ。

俺も小さい頃、何度もお参りに行ったのを覚えている。



「ところで…光輝はなんでここに来たの?」


「あ、すっかり忘れてた…」


「入部希望かい?

君ならもちろん大歓迎だよ!

ついでに、甲虫同好会でも入らないかい?」


「いや、入りませんよ!!

先輩は、もう一人寂しくゲーセンでムシキングでもやってて下さいよ!」


「そ、そんな…!?」



黒川先輩は異常にショックを受けていた。

高校三年で今だに、ムシキングやっている人は先輩ぐらいだ。

せいぜい中学生で卒業しろよ。



「あー、先輩のせいで話途切れちゃったな…」


「いいわ、寺岡君…続けて」


「実はな………」








「え、並列世界に行った!?」


「多分…そうだと思います」



黒川先輩は、少しの間をおいて言った。



「…そうか、これで4人目か」


「4…人目?」


「オカルト研究会が確認できてる、並列世界に行って生還した人間の数だよ」


「え、たった4人ですか?」



生還したのはたったの4人。

つまり、それ以外の人達は…


もし、帰って来れなかったらと思うとぞっとする。



「そして、最初に生還できたのは…他でもない僕なんだ」


「先輩がですか!?」



意外過ぎる。

黒川先輩なら、ぼけっとしててすぐ殺されそうだし。



「僕は寺岡と違って、逃げ続けてたら帰ってきてたんだよ。

それから、しばらくは外に出るのが怖くて嫌だったけどね…」


「はあ、そうですか…

という事は…先輩みたいに逃げ切る事も可能って事ですか?」


「多分、そうだろうね」


「それなら、逃げた方が楽そうですね!」



あんな化け物の相手をしなくていい程ありがたい事はない。



「確かにそうだけど、それはそれで問題があるんだ」


「問題って…?」


「僕の経験上の話だけど、

逃げ切った場合は、またすぐに並列世界に迷い込みやすくなるみたいなんだよ…」


「逃げるのも可能だけど、

それなりのリスクを負う…って訳ですか?」


「まあ、そうなんだけど…

逃げた以前に、一度迷うとまた並列世界に迷い込む可能性が高いみたいなんだ」


「うわ…マジすか?」


「そうだ。現段階では、戦い続けるしかないんだ」



思ったよりも、現状は深刻だった。

これから生存を賭けた戦いを続けないといけないなんて…



「だから、僕はオカルト研究会と称して並列世界対抗組織を創ろうと思ったんだ。

人数が多ければ、より多くの情報を、より多くの人間が知る事ができる。

並列世界から、皆で生き残るためにね…」


「黒川先輩…」


「だからさ、寺岡も並列世界に行った訳だし…

オカルト研究会に入ってくれないかな?」



俺の中の答えは一つだった。



「わかりました、一緒に戦いましょう!」



俺はこの人達と供に戦い、絶対に皆で生き残る。



「さすがは僕の後輩だ!

君がいれば、とても心強いよ」


「やった!光輝が仲間なんてうれしいよ!!」


「寺岡君…本当にありがとう」


「いやいや、皆しておおげさだな〜。

俺は大した奴じゃないって!」



こうして、俺は並列世界対抗組織の一員となった。


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