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第一話 パラレルワールド

外の景色は今、夕焼けの色に染まっている。

俺はいつものように、高校から自宅への帰り道を辿っていた。


いつもと違うのは…クラスメートの川村ひよりから並列世界の噂を聞いた事だ。




<私は並列世界は存在すると思う…

だから寺岡君、貴方も気をつけた方がいいわ…>


<今のは、私の勘…何の根拠もないわ…

でも、私は貴方が次の犠牲者になるような気がして仕方がないの…>




彼女から言われた言葉が、俺の頭をぐるぐると回っている。

なんだかとても落ち着けなかった。



「気をつけた方がいいって言われてもな…

何に気をつければいいんだ?」



俺は独り言を言った後、ため息をついて空を見上げた。

ただ赤い空が広がっている。




とても真っ赤な空が…




ん…?真っ赤な…空?

何かがいつもとは違うような気が気がする。




夕焼けで空が赤く染まる事は当たり前の事だけど、今日は何かがおかしい…




俺は気付いてしまった。

空が…いつもより赤過ぎる。




さらに、夕方頃だというのに、夜のように薄暗くなっているのにも気がついた。




しかも、夕方にしては人通りが全くない。

これは絶対にありえない…



「…ここはどこだ?」



すると、どこからか悲鳴が聞こえて来た。



「うわああああ!!

く、来るなぁぁぁぁ!!」


「…!!」



悲鳴が聞こえた方に顔を向けると、そう遠くないところに見覚えがある人間が怯えながら逃げようともがいていた。

元同じクラスメートだった、北沢治郎(きたざわじろう)だ。



そして、彼の目線の先には…

見たことがない化け物がいた。


一言で言うと、操り人形のような化け物だった。


木の体には、返り血のようなものがついていて、人間の顔に当たる部分には、大きな穴が一つ空いているだけだった。


そして、手には刃物らしきものが握られていた。


その時、俺の頭にある言葉が浮かんだ。




<噂では自分は見たことがある場所で、見たこともないような化け物に追いかけ回される…>




「まさか…これが川村が言っていた並列世界なのか?」



ここが並列世界で、川村が言っていた事が本当ならば…

あの見たことがないような化け物がいる事もつじつまが合う。



並列世界は本当に存在した…



それはそうと、北沢がどう考えても危ない。


「おい北沢!!大丈夫か!?」


俺は真っ先に声を掛けた。


「て、寺岡か!?頼む、助けてくれ!」


「ああ、もちろんだ!

早くこっちに逃げて来い!!」



しかし、北沢は立ち上がろうとした勢いで転んでしまった。


「うわっ!!」


その後ろで化け物の手が振り上げられた。



「止めろぉぉぉぉぉぉぉ!!」



容赦無く化け物は北沢の背中を引き裂いた。



「ぎぁああああ!!痛いぃ!!助けてくれぇぇぇ!!」



化け物はしつこく北沢の背中をえぐり続けた。

その度に、辺りに返り血と断末魔の叫び声が飛び交う。


返り血が俺の顔にかかった。

それは生暖かった。


間違いなく本物の血だ。


「そんな…嘘だろ、おい…」


北沢の背中からありとあらゆるものがえぐり取られてゆく。


「うっ…!」


俺は思わず吐きそうになった。

内臓やら骨やらが見えて来たからだ。


「て…らお…か…たす……け………」



段々血の吹き出る量と、叫び声が弱くなっていき…やがて、止まった。



化け物が握る刃物に滴る血。



背中から中身を掻き出された変死体。



これが意味するのは、目の前で仲が良かった知り合いが殺されたという事…



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

嘘だ!!絶対嘘だ!!

こんなの認めない、絶対に認めない!!」


しかし、目の前にあるのは間違いなく死体。

少し前まで生きていた友人に間違いない。


「くっ…なんで…なんでこんな事に…!?」



化け物がこちらを振り返った。

その顔には、穴が一つ。

そこにあるのは、ただ永遠と続く空虚な空間だけだった。


そして、その生気が感じられない化け物が、俺に向かって迫って来た。


俺は思わず後退った。



「お前…これ以上俺から何を奪う気なんだ…!?

俺に…俺にこれ以上近づくなぁぁ!!」



その足に何かが当たった。




…錆びかけた鉄パイプだ。




俺は咄嗟にそれを手に取った。

それと同時に、ある考えが浮かんだ。



「そうだ…あの化け物を…殺してやる」



俺の中から憎しみと殺意がどんどん湧いてくる。

俺は鉄パイプを構えて、その化け物に突っ込んでいった。



「覚悟しろよ…

この人形野郎ぉ!!」



俺は化け物の頭を思いっ切り殴りつけた。

殴られた化け物は、唸り声のような声を発してよろめいた。


攻撃が効くと確認できた俺は、何度も化け物を殴った。



「この…化け物め…!

くたばりやがれ!!」



化け物の傷口からは黒い液体が流れ出ている。

おそらく、人間の血にあたるものだろう。

だが、その時の俺はそんな事など気にも留めなかった。


目の前の化け物を殺す事しか頭にない。



「この!このぉぉぉぉ!!

許さねぇ!絶対許さねぇ!!」



響き渡る鈍い音、化け物を狂ったように殴り続ける自分の姿…

自分でも悍ましい光景がそこにはあった。


遂には、俺は化け物を殴り倒した。



「これで…終わりだ!!」



俺は化け物の顔に鉄パイプを突き刺した。

何かが裂けるような音と供に、黒い液体が勢いよく吹き出す。


俺は何度も化け物の顔をほじくり回した。

その度に化け物の体が痙攣するかのように振るえた。


やっと俺が手を止めた時には、もうその化け物が動かなくなっていた。

俺はひどく息が上がっていた。



「な、なんとか…倒せたみたいだな…」


周りを見ると、黒い液体が飛び散って真っ黒になっていた。

多分、全部化け物を殺した時に出たものだろう。


そして、無惨に切り裂かれた北沢治郎の死体がある。



「北沢…助けられなくて、すまなかった…」



俺は北沢の死体の前で、うなだれた。

今頃になって涙が出てきた。

なんだか罪悪感で一杯だった。



「うぅ…なんでだ、北沢!

なんでお前が死ななきゃいけなかったんだ…!!」



そんな中、化け物と北沢の死体が消え、夕焼けは元の自然な明るさを取り戻していた。


そう、俺は皮肉にも元の世界に帰ってきていたのだ。

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