~プロローグ~
「ねえ、並列世界って聞いた事ある?」
あまりクラスに馴染めないで一人で座り込んでいた時、長髪のクラスメートの女子の一人がこう言った。
それは、クラス替えをした日の放課後に入ったばかりの教室での出来事だった。
俺、寺岡光輝は帰宅部所属の得にこれといった取り柄も無い、平々凡々とした逆茂木の高校二年生だ。
こんな俺に話し掛けて来る奴はあまりいないし、しかも女子それがとなると嫌でも印象が強かった。
「あー、それは俺に言ってるのか?」
一応、確認してみる。
「ええ、もちろん寺岡君…貴方の事」
「…まあ、そうだよな」
今、この教室にいるのは、俺とこの女子と、他のクラスメート合わせて七人だった。
しかも、残りの五人は話に夢中になっていて、こちらに気付いてすらいないようだ。
「えーと…並列世界?聞いた事無いな」
その女子の期待を裏切ってしまったかもしれないが、俺は正直に答えた。
「じゃあ、教えてあげるわ」
「へ?」
「多分…貴方の救いになるだろうから」
「そ、そうか…?」
予想外の反応だった。
女子というのは話が合いそうもない異性には、結構冷たい態度を取るものだと思っていた。
とりあえず、俺は彼女の話を聞くことにした。
「並列世界は…ある日、突如として出現する、私達が住んでいる次元とは違う次元の世界の事よ…」
「えーと…俺達が住んでいる違う次元の世界?」
俺は、予想外の言葉返って来たので少し返事に困った。
この女子…俺の事をからかっているのか?
それとも、ただのイタい子なのか?
どちらにせよ、言っている事がよく分からなかった。
「そうよ。この並列世界の存在自体は噂なんたけど…」
「へ、へえ…そうなんだ」
信じる気にはなれらなかった。
俺はどちらかと言えば、噂とかは信じない方だから。
「噂では自分は見たことがある場所で、見たこともないような化け物に追いかけ回される…」
「…ば、化け物?」
「そう、この世にいるものとは思えないような生物…そう言われているわ…」
「うわ…マジで?」
「ええ、所詮は噂だけど…」
「…そうか」
なんだかんだいってもやっぱり噂か。
「絶対に並列世界が存在するなんて言い切れないけど、私は並列世界は存在すると思う…
だから寺岡君、貴方も気をつけた方がいいわ…」
「それは…俺が並列世界に迷い込むとでも言いたいのか?」
「今のは、私の勘…何の根拠もないわ…
でも、私は貴方が次の犠牲者になるような気がして仕方がないの…」
「犠牲者?どういう意味だ?」
「気にしないで、こっちの話だから…」
その女子はその場から立ち去ろうとした。
俺は、今思った事を率直に聞いた。
「待て、一つだけ教えてくれ!
お前…何者なんだ?」
その女子は少し笑って答えた。
「そういえば、言ってなかったね…
私はオカルト研究会の副部長であり、貴方のクラスメートの川村ひより(かわむらひより)…」
そう言った彼女は、俺の前から立ち去った。
彼女の後ろ姿は、あっという間に廊下に吸い込まれて行った。
「オカルト研究会の川村ひよりか…」
外を見ると、もう夕方頃になっていた。
「よし、帰るか…得に用事もないしな」
とりあえず俺は暗くなる前に家に帰る事にした。
だが、この時の俺は知らなかった…
川村ひよりの勘が当たってしまう事になるとは…
増してや、それがこの後にすぐに起こるなんて…知るよしもなかった。