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第十五話 アブソール・ワールド・バインダー


冴祓と話していた俺は、後方からの悲鳴のような声に気が付いた。


さらに、その声は、連絡ができなかった忍の声に似ていた。



「おい、どうしたんだ!?

忍でも見付かったのか?」



そう言って振り向くと、予想外な光景が広がっていた。


そこにいたのは、今まで見たことがないような化け物。

そして、その体を纏っている鎖の一部に、行方が分からなかった川村が捕まっていた。


その様子を、里沙さんと柳川が、それぞれの武器を構えて睨んでいる。



「川村っ!!」



何も考えず、化け物に近づこうした俺の肩を、川村と同じく、行方が分からなかった忍が掴んだ。



「光輝、落ち着いて!」


「えっ、忍!?」


「そう、あたしだよ!」



そして、忍は俺の肩を後ろに引っ張って言った。



「とりあえず、むやみに前に出たら駄目!

あんなのに捕まったら、もうやられたも同然だよ!」


「くっ…分かったよ…!」



俺は、思うように攻撃が出来ない事が、もどかしくて仕方なかった。


里沙さんも同じような状態らしく、ライフル銃の『エキスパート・ストライカー』は展開しているものの、微妙な表情で化け物を睨んでいる。



「これは、迂闊に打てるものではないわね…

どうしても、川村さんに当たる可能性が…」



その時、こちらの異変に気付いた冴祓とシグマが、すごい勢いで走ってきた。



「おいおい、俺らを差し置いて何をしてるんだ?」


「…冴祓!!」



シグマは、化け物を見るなり言った。



「とうとう、現れたな…『アブソール・ワールド・バインダー』!!」


「なっ…『アブソール・ワールド・バインダー』!?」



そう、この化け物が『アブソール・ワールド・バインダー』…

アスタリスクが言っていた、並列世界出現を支配する、元凶にして最強の化け物らしい。


その最強の化け物が、今、俺達の目の前にいる。

しかも、川村が捕らえられている。


…どうすればいい?

いや、それは最初から決まっている。



「川村を助けて、確実奴だけを殺す…それしか無い!」



無茶な事だが、可能性に賭けるしかない。


いくら最強の化け物でも、いくら不利な状況でも、諦める事はしたくなかった。



そんな俺の台詞を聞いて、シグマは、ハンマーを構えて俺の横に並んだ。



「テラオカコウキ…本当にやる気なのか?」


「ああ、当たり前だ。

お前みたいに諦めて、希望を捨てるなんて御免だからな」



シグマは、少し驚いたような顔をした後、やれやれという風に言った。



「本当…君達の行動には本当に驚かされるな。

君がそこまで言うなら…僕も戦わさせてもらう!」


「シグマ!」



それを聞いていた冴祓は、横でニヤニヤ笑っている。



「ほう…少し前まで敵だったお前が、今度は見方気取りで真っ先に戦いに協力するなんて…

どういう心境の変化だい?」



シグマは、少し動揺しながら言った。



「い、いや違うんだ…!

君に負けたから、ただ嫌々従っているだけで…

か、か、勘違いするなっ!!」


「はいはい、分かりました。

とりあえずは、そうゆう事にしといて…」



会話を遮るように、『アブソール・ワールド・バインダー』が、こちらに向かっていきなり鎖を飛ばしてきた。



「二人とも、話は終わりだ!

もう、来てるぞ!!」


「ああ、分かってる!」



俺達は、一斉に後ろに下がって、攻撃をかわした。



最初に、冴祓が『アブソール・ワールド・バインダー』に攻撃を仕掛けた。


冴祓は、全力で『アブソール・ワールド・バインダー』に近づき、刀を構えた。



「まずは…そいつを返して貰おうか!?」



冴祓はそう言うと、『アブソール・ワールド・バインダー』も格段に速い速度で、川村を捕らえている鎖を刀を切り付けた。


しかし、鎖は刀を弾いて、軋んだ音を立てるだけだった。



「そんな馬鹿な…

鎖が日本刀を弾くだと!?」



冴祓は咄嗟に後退し、刀を構え直して、迎撃体制を取った。



次に、シグマが『アブソール・ワールド・バインダー』に突っ込んだ。



「切断武器が駄目なら…

僕の打撃武器はどうだ!?」



シグマが『アブソール・ワールド・バインダー』を殴ろうと、ハンマーを振り上げた。


しかし、『アブソール・ワールド・バインダー』の鎖が、シグマの手足と、ハンマーに絡み付いて来た。



「くっ…!離せっ!!」



『アブソール・ワールド・バインダー』は、シグマに向かって金属の爪を突き刺そうとした。



「そうは、させない!!」



俺は、専用武器の『フリー・シフト・カッター』を右手に展開すると、その刃物でシグマ鎖を捕らえている鎖を切り付けた。


今度は、鎖が綺麗に真っ二つに切れた。



「な…鎖が切れた!?」


「今だ!!

シグマ、そこから逃げろ!!」


「あ、ああ!」



鎖から解放されたシグマは、後ろに退避した。



『アブソール・ワールド・バインダー』は、急に乱入してきた俺に向かって、手に付いた刃物を向けてきた。


俺が攻撃した直後の、わずかな隙を狙って攻撃してきたのである。



「…っ!!」



このままだと、無防備な状態で切り裂かれてしまう。



(このままじゃ、殺られる!

せめて、このナイフの長さがもう少しあれば…!!)



『アブソール・ワールド・バインダー』の刃物が、俺の頭上から降ってきた。



「くそ…!」



俺は、成す術もなく攻撃に飲み込まれた。







「寺岡っ!!」


「そんな…!!」



冴祓とシグマは、寺岡が地面にたたき付けられるのを見て、思わず叫んだ。



「テ、テラオカコウキが…やられてた!?」


「あの馬鹿!

さっさと動かないからやられ…」



すると、『アブソール・ワールド・バインダー』の爪の下にできた瓦礫から、声が聞こえて来た。



「人を…勝手に殺すなっ!!」



瓦礫を跳ね退けて、顔に大きな傷ができた寺岡が出て来た。


そして、彼の片手には、専用武器の『フリー・シフト・カッター』が握られていたのだが…


その形態が、大きく変化していた。



柄の部分が広くなり、ナイフのような刃渡りが、以前よりも格段に長くなり、片手持ちの剣のようになっていた。


そして、以前と大分違うのは、長さが違う二枚の刄が合わさって、一つの刄のようになっている二枚刄という事だ。


その様子を見て、驚いている冴祓とシグマに向かって、寺岡は声をかけた。



「おーい、何突っ立てるんだ?

まだ、戦いは終わっちゃいないぜ?」



すると、寺岡の復活に気付いた『アブソール・ワールド・バインダー』が、再び爪型の刃物を寺岡に向けてきた。



「おっと…」



寺岡は身を翻して、『フリー・シフト・カッター』を上手く使って、攻撃を避けた。



「同じ攻撃なんか…度も喰らうかよ!!」



寺岡は、冴祓とシグマの隣まで来て、武器を構え直した。


それと同じ時、柳川と里沙とアスタリスクがこちらに走って来た。


「助けに着ましたよ、寺岡先輩!」


「寺岡君、大丈夫!?」


「あ…柳川、里沙さん!

とりあえずは、動けます」



アスタリスクは、専用武器の『スマッシュ・ジャベリン』を片手に言った。



「コイツガ『アブソール・ワールド・バインダー』…

トウトウ姿ヲ現シタワネ…」



その横にいたのは、お祓い棒を持った、何だか頼りない雰囲気を醸し出している忍だった。



「し、忍!?」


「あ、あたしだって戦うよ!

川村さんを助けるって、や、約束したから!」



しかし、忍の体は小刻みに震えている。



「あのー、忍…

一つ、言わせてくれないか?」


「…な、なに!?」


「忍…お前さ、ちょっと無理してないか?

お前は大した強くないし、あんまり…無理すんなよ?」


「ち、違…!

そ、そんなの…よ、余計なお世話だよっ!!」



忍は、図星だったのか、動揺して、顔が真っ赤だった。


あんまり弄っても可哀相と思った寺岡は、いつものメンバーが揃ったという事で、部長として仕切る為に、声をかけた。



「よし、みんな…

まずは、川村の救出。

次に、『アブソール・ワールド・バインダー』を倒す…

異論は無いな!?」



全員が頷く。

オカルト研究会+管理人が、団結した瞬間だった。



「よし、みんな行くぞ!!」



そこにいる全員が、『アブソール・ワールド・バインダー』に攻撃を仕掛けようとしたその時だった、『アブソール・ワールド・バインダー』が川村を全身で覆った。



「なっ…!?」


「か、川村さん!!」



そう叫んだ時には、川村の体はすっかり鎖に埋もれ、『アブソール・ワールド・バインダー』の体の形もぐちゃりと崩れ、ただの鎖の塊のようになってしまった。


そして、その鎖の中から、出て来た物を見て、全員が息を飲んだ。



「「「「「「「「…!?」」」」」」」」



『アブソール・ワールド・バインダー』の立方体の仮面を被り、鎖を全身に纏った川村が出て来た。



「川…村さん…」


「先輩…何で…」


「ど、ど、どういう事だ…

川村は…川村は…」


「マサカ…奴ハ人間ノ身体ヲ、乗ットル事ガ出来ルノ!?」


「馬鹿な…そんな事、僕ですら知らないぞ!?」


「だとすれば…カワムラヒヨリは、『アブソール・ワールド・バインダー』の一部に…」


「っ…こんなの冗談だろ!?」


「そんなぁ…!

川村さん!川村さぁん!!」



そこにいた全員が、目の前の出来事を受け入れたく無かった。


川村ひよりは、『アブソール・ワールド・バインダー』と化した。



アスタリスク曰く、化け物の中には、人間を取り込んで、自分を強化する化け物がいるらしい。

人間を取り込むと、格段に能力が上がり、危険度が一層増す。



そして、その取り込まれた人間が無事であるはずもなく…

化け物の身体から引きはがしても、心が死んでいたり、言葉が話せなくなるという精神面で何らかの障害が生じる。


そして、この状態になった場合は…管理人なら、大概は仲間が息の根を止める。


要するに、化け物として存在するぐらいなら、一思いに殺してやる…というのが管理人の考えなのだ。



そして、それは…川村に関しても同じ…

川村を自分達の手で殺さなければならない…



「くそ…!

川村…こんなの嘘だって言ってくれ!!」


「………」



川村からは、無言の返事しか返って来ない。



「おい、俺達仲間だろ!?」


「………」


「お前は、川村ひよりだろ!

…俺達の仲間だろ!?」


「………」


「いい加減に返事しろっ!!

川村ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああっ!!!!」



寺岡が絶叫すると、『アブソール・ワールド・バインダー』に取り込まれた川村に、変化が起こった。



「………す…」


「…え?」



川村の唇が微かに動いた。

寺岡は、その瞬間を見逃さなかった。



「川村…今、何て?」


「……す…す…」


「す…?」


「……………………す…………………す………………す……………す……………す……………す…………す………す……す…すすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすす」


「…!?」


「ころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころす」


「…!!?」


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!」


「…川村ぁっ!!」



そして次の瞬間、金属の爪が俺の身体に突き刺さった…


寺岡の身体に今までに無いような激痛が走る。



「あぐぁっっ…!!

川村…何で…」


「しぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」








ザクッ…という、肉が裂ける音がした。



壊れた川村が押し黙る。



そして、その濁った目線の先には………

































































首がもぎ取られた、寺岡光輝の変死体があった…



そこにあるのは、壊れた心と、壊れた身体と…大きすぎる絶望だけだった…



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