表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/20

第十三話 レジスト/アクセプト

俺こと寺岡光輝は、現在後輩の柳川と先輩の里沙さんのパトロールに付き合っている。


前回とは違い、今回の里沙さんは割と大人しく、パトロールに専念していた。

どうも後輩が二人いるせいか緊張しているらしい。


本人が少し前の時、年下好き属性(ショタコンは何だか罪悪感を感じるから、なるべく使わない事にしよう)から早く抜けだせるようにしていると言っていたから、それが原因かもしれない。



そして、里沙さんがある程度の範囲を見回った時に、こう言い出した。



「ちょっと疲れたし、どこかでご飯でも食べない?」



そう言われると、確かに小腹が空いてきたような気がした。

今回も色々と(主に里沙さん関係のアクシデントに)エネルギー使ったからだろう。



「ああ、いいですよ。

柳川もいいよな?」


「はい、構いませんが」


「よし!それじゃあ二人共、早速行きましょう!」



いつもよりも、かなりご機嫌な里沙さんである。

そんなに後輩が好きなのか。



その時、俺の背筋に寒気が走っり、俺は思わず立ち止まった。

里沙さんと柳川も同じ気配を感じたようだった。



「寺岡先輩…今のは!?」


「へえー、お前にも分かるんだな…」



たちまち、周りの景色が赤く染っていく。

間違いなく並列世界の出現だった。


柳川は、目をまるくして周りを見渡して言った。



「これが…並列世界!?」


「その通りよ。

最近はなかなか出現してなかったけど…」



そして、里沙さんは辺りを見渡して言った。



「しかも、今回は出現範囲が広そうね。

進入部員の柳川君でも気配を感じるとなると…」


「せ、先輩…!!

何か来てますよ!?」



柳川が指さす先にいたのは、沢山の毒々しい色をした蛇のような化け物だった。



「こいつは、トーテム・スネイク…!」


「二人共、噛まれないように気をつけて!

トーテム・スネイクは神経を麻痺させる毒を持っているわ!」



俺は『フリー・シフト・カッター』を展開し、トーテム・スネイクを切り付ける。


里沙さんも柳川を庇うように、専用武器の『マテリアル・ドライバー』というショットガンを乱射している。


切っても切っても、次から次へとトーテム・スネイクが沸いて来る。



「くそっ…キリないな…

里沙さん、ここは一旦退いた方が…」


「そうね…

二人共、逃げるわよ!」


「は、はい!」



俺は逃げようとトーテム・スネイクに背を向けたその時、背後で柳川の悲鳴が聞こえた。



「あぐぅっ!!」



見ると、柳川は転んで足を押さえている。

一匹のトーテム・スネイクが柳川の足を引っ掛けたようだ。


そして、その首筋を目掛けてもう一匹のトーテム・スネイクが近付いて来ていた。



「柳川、早く逃げろ!」


「早く、柳川君!」


「わ、分かってますよ!」



柳川は足をくじいたらしく、ずるずると足を引きずって逃げている。


トーテム・スネイクはもう柳川の目の前に迫っていた。

このままだと、確実に噛まれてしまう。



「わ、うああぁぁ…!!」


「柳川っ…!」



俺は柳川に向かって走った。

そして、柳川に近付いているトーテム・スネイクをナイフで突き刺した。



「今だ、早く!」


「す、すいません…オレの足はまだ…」



その時、俺の首筋に痛みが走った。

トーテム・スネイクが首に噛み付いて来たのだった。



「っ…!離れろっ!」



無理に首からトーテム・スネイクを引きはがして、地面に叩き付ける。


俺に噛み付いていたトーテム・スネイクは、逃げるように穴のようなところに逃げて行った。

そして、それに続くかのようにトーテム・スネイクの大群は元いた穴のようなところに逃げていった。



俺はさっき噛まれた部分に手を当てる。

痛みどころか感覚すらあまり感じない。


手の平を見ると、大量の血がべっとりと付いていた。


完全に感覚が麻痺していた。



「あ…ああ…」



柳川が青ざめて俺を見ていた。



「柳川、大丈夫…か?」


「は、はい…

それよりも寺岡先輩…首が…」


「ああ、ちょっと油断した…」



里沙さんも俺の近くに駆け寄って来る。



「寺岡君、大丈夫!?」


「はい、何とか生きてます…

ただ…首の感覚が麻痺してるみたいです」


「やっぱりね…

とりあえずは止血しないと。

放って置くと、後々面倒臭い事になるわ」


「そうなんですか…」


「そう、だから安静にしてて」



いつもより里沙さんが頼もしく見える…のは俺の気のせいだろうか?



「そういえば…寺岡君、止血に使える何か布のようなものは持ってない?」


「うーん…制服の下に着ているワイシャツぐらいしか…」



ふと、里沙さんが自分のワイシャツに目をやる。


という事は、まさか…



「私のでもいいよ…

私、寺岡君なら体見られ(ry」


「あー、いやいや!

自分ので結構です!!

自分ので大丈夫ですから止めて下さい!!」


「うふふ、やっぱり、寺岡君はかわいいわね!」


「大怪我してる人をからかうのは止めて下さいっ!!」


「うふふ、ごめんね。

でも、それだけ元気ならまだまだ大丈夫ね!」



それから里沙さんは、柳川に向かって言った。



「柳川君、何か持ってない?

何も無かったら、私のワイシャツになっちゃうけど」


「か、勘弁してくださいよ!

そういう風になるなら、オレのを使って下さい!」



柳川は、自分の制服を急いで脱ぎはじめる。

柳川の服なら何の問題もない。



…と思っていた俺が馬鹿だった。



「「…!!?」」



柳川がワイシャツを抜いた姿を見た時、俺と里沙さんは呆気に取られた。


柳川が下に着ていたのは、女物の下着だった。

そして、今気付いたが、胸に少し膨らみが…



里沙さんは、この世の物とは思えない物を見たような顔をしている。

多分、俺も同じような表情をしているのだろう。



「あ…ああ…あがが…」


「な、な…何で…女物の…」



柳川はこちらの反応を見て、意外そうな顔をしていた。



「あ、あれ?オレが女って事知りませんでしたっけ?」


「「…知らないよ!!」」



なんと、柳川は女子だった。

何処となく女子に似ている気はしなくは無かったけど。



「それで…何で男子の格好してたんだ?」


「実は…オレ、心が男の子気味なんですよね。

俺は女の子だけど、心は女の子じゃない。

ならば、せめて格好だけでも男の子という感じで…」


「そ、そうか…」



もう、どこをどう突っ込めばいいか分からない。


そんな事より、里沙さんの精神的なダメージを受けているらしく、口を押さえて涙目になっている。



「わ、わ、わ私のもう一人の後輩が…

お、お、おお女の子だなんて…」


「里沙さん…大丈夫ですか?」


「だ、だ大丈夫ぅ…

私は…へ、へ、へ、平気よ…」


「全然大丈夫じゃなさそうですね…」







その後、俺は結局自分のワイシャツを破って応急処置をしてもらった。


柳川と里沙さんは、何かがっかりしているようだったが…



「寺岡君、私の…嫌いなのかしら?」


「寺岡先輩、オレのワイシャツ使えばよかったのに…

やっぱりオレの…見るの嫌なのかな?」



…と、二人がブツブツ言いながらこっちを見ている。

何か雰囲気が怖い。


女子と話すのは少し慣れたけれど、やっぱり生き物として理解するには、まだまだ時間が掛かりそうだ。



それはそうと、今だに並列世界は消える気配を見せなかった。


多分、この並列世界は、今まで一番最大の規模の並列世界だろう。

そして、里沙さんですら体験したことがない滞在時間、四時間が経過していた。



「おかしいわね…

これだけ時間が経っても並列世界が消えないなんて」


「やっぱり、今回の並列世界は異常ですよ。

出て来る化け物の数が異常に多過ぎるし…」



そう言った俺はバランスを崩して、倒れそうになった。

慌てて柳川が、バランスを崩した俺を受け止める。



「て、寺岡先輩…首、大丈夫ですか?」


「悪い…大分麻酔が回ってきたらしい…

もう、ほとんど全身の感覚が無いんだ…」


「…!

すいません…オレのせいで…」



柳川の表情が暗くなる。

自分に責任があると、自分を責めているみたいだった。


俺は、できる限りの明るい表情で、柳川に言った。



「…そんな事気にするなよ。

大事な後輩なんだ…守って当然だろ?」


「寺岡先輩…」



柳川は、潤んだ瞳をこちらに向けて来る。

俺は思わず、目を背ける。


おい、そんな目で俺を見るな。

元男子の女子にそんな目で見られると、どう反応すればいいか分からないから。



すると、里沙さんはわざとらしく咳ばらいをした。



「ゴホン…寺岡君?」


「は、はいぃっ!?

何ですか…?」



急に話し掛けて来たので、声が裏返ってしまった。


里沙さんはため息をついて言った。



「はあ…まだここは並列世界なんだから、もっと緊張感を持ってくれないと困るよ?」


「は、はい…

すいませんでした…」


「ちゃんとしてね?

寺岡君はもう二年生なんだからそこら辺はちゃんとして…」



里沙さんがそう言いかけた時だった。


目の前に黒装束の女の子が吹っ飛んで来た。

黒装束…つまり、管理人だ。



「なっ…管理人!?」



俺の言葉に、その栗色の髪の管理人がガバッと起き上がり反応した。



「もしかして、貴方は…テラオカコウキ!?」


「え…」



いきなり名前を呼ばれて、俺は不意を突かれた。



「まあ、そうだけど…」


「…やっぱり!!

私の名前はアディア・ブロックウェイ。

君の噂は、アスタリスクからよくよく聞くよ」


「は、はあ…どうも」



俺は、何だかどう反応すればいいか分からないから、とりあえず挨拶した。


そして、アディアは俺の手を掴んで言った。



「お願い!助けて!!

アスタリスクが危ないんだ!

ほら、行くよ!!」


「え、ええ!?

今から行くのか!?」


「そうだよ、早く!!」



アディアは、俺の手を掴んだまま走り出した。


そして、呆然としている里沙さんと柳川にこう言った。



「貴女達も来て!

今回はかなりまずいから…」



何か言いたそうな二人を余所にして、アディアはさらに走るペースを上げた。







その頃、アスタリスクは、激しい戦闘を続けていた。


相手は、正体不明の管理人。

専用武器は、この巨大なハンマーだろう。



「ほら、背中がお留守だよ!」



背中を思いっ切り殴られ、アスタリスクは廃ビルにたたき付けられる。



「クゥッ…!!」



アスタリスクは体勢を立て直すと、槍を構えて突進した。



「ハアァッ!」



アスタリスクの槍を、その少女がハンマーの金属部分で受け止める。



「ナ…!?」


「全然甘いよ!」



その少女は、槍を弾き返すと、アスタリスクの頭を殴り付けた。



「アグッ…」



殴られたアスタリスクは、地面にたたき付けられた。


少女は薄笑いを浮かべながら、アスタリスクに鉄槌を振り下ろす。


その時、ある人物の声が響いた。



「その辺にしておきな!」


「…!?」



思わず、少女の手が止まる。

その視線の先に居たのは、冴祓渚だった。



「お前らの敵は化け物じゃないのか?

なのに、仲間同士で何をしてるんだ?」


「君には関係ないよ…サエハラナギサ!!」



少女はそう言うと、いきなり冴祓に攻撃を仕掛けた。


冴祓は、それを簡単に避けた。



「おおっと、危ない危ない…

全く、お前らはよく分からない奴らだな!」



攻撃を外した少女は、アスタリスクに対する殺意を冴祓に向けた。



「僕の邪魔するなら、たとえ君でも容赦しないよ!」



冴祓はため息をついて、刀を構えて身構える。



「やれるなら、やってみな。

シグマ・レイティーナ…!!」



二人は同時に、武器を構えて突進する。



辺りに響いた金属音が、戦いの始まりを告げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ