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第十二話 クラブ・ルーキー

俺が入院してからしばらく経った。

その後も対抗組織の集まりや、部長としての仕事がいくつもあり大変だった。



そして、時は流れて俺は退院していた。



退院後、俺は正式にオカルト研究会の部長となった。


黒川先輩の仕事を引き継ぐ事になった俺は、以前よりも劇的に忙しくなった。

生徒会長に事情を説明したり、部活の部長会議に出たり…


そして何よりも大変なのは、部員をまとめる事だった。

川村は得に問題ないとして、忍の無断欠席、冴祓と里沙さんの乱入と対処に困る事ばかりが起こる。


つくづく、黒川先輩がどれだけすごい人なのか思い知る。

ぼーっとしているようで根はしっかりしてたんだな…



そして、今日もまた部長としての活動が始まった。








今日も俺は放課後誰よりも早くオカルト研究会の部室の前まで来て、部室の鍵を開けて中に入ってぼーっとして時間を潰していた。


と、その時だった。

背後から聞いた事がない声が飛んできた。



「寺岡先輩ーーっ!!」


「ん?」



ズドガッ…!!



「いっ、痛あぁぁっ!!

…ったく、なんなんだ!?」



痛みが走った背中を押さえながら、さっき声がした方に振り向いた。

そこにいたのは痛みで頭を抱えている男子だった。

赤い校章バッジを付けているから多分一年生だろう。



「痛たた…オレとした事が、勢い余ったよ」


「いや、勢い余ったとかそんなレベルじゃないだろ!?」



俺はさっきこの男子が背中にぶつかった時、勢い余ったというよりも、タックルのような気がしてならなかった。

くそぉ、マジで背中痛てぇ…



「あ、ごめんなさい!

オレ、ドジっ子なんで許して下さい」


「うわぁ…この人、自分の事ドジっ子って言ったよ…」


「テヘ☆」


「いやいや、『テヘ☆』じゃねーよ!!」



俺は、体勢を最初来たのように戻し、その一年に向き直った。



「それで…?

お前、俺に用があるのか?」


「はい、寺岡先輩にお願いがあります!」



その一年は、キリッとした表情になって言った。


それにしても、なんで俺の名前を知ってるんだろう。

まあ、心当たりはいくつかあるんだけど…



「で、お願いって何?」


「寺岡先輩、我が甲虫同好会の部長になって下さい!」



思わず吹いてしまった。

まさか、あの黒川先輩が部長をやってた同好会の話だとは。



「なんで俺なんだ…?」


「いやー、寺岡先輩が黒川先輩のお墨付きと聞きまして…」


「うわ…またか…」



俺が部長になってから、このパターンのお願いはもう五万とされてきた。

これも黒川先輩の無駄に広い人脈のせいだ。

死んで部長を任せておいて本当にいい迷惑だ。



まあ、ほとんどのお願いは断って来たわけだが。

もちろん、今回も引き受ける気はない。



「悪いが俺は忙しいんだ。

代わりなら、他にたくさんいるだろ?」


「そ、それは困ります!

だって、甲虫同好会の部員は、黒川先輩を入れてたったの二人しかいないんです!!」


「えー…」



つまり、今はこの男子一人だけという事になる。


まあ、暇だからムシキングばっかりやってる同好会だから当然といえば当然だが。



「もちろん、ただとは言いません。

寺岡先輩が部長になってくれれば、オレはオカルト研究会の部員になります!」


「…!!

そ、それは本当か?」


「はい、もちろん!」


「うーん、甲乙つけがたくなったな…」



実は、オカルト研究会も存続の危機にあった。

黒川先輩がいなくなり、部活動規程人数を下回って、このまま行くと廃部になってしまう状態にあった。



「それに、黒川先輩と約束したんですよね?」


「な、なぜそれを知ってるんだよ…!?」


「噂で聞きましたよ」


「うっ…断りずらくなった…」



というか噂流したの誰だよ。

本当の高校生の噂というのは恐ろしいな…


そして、俺は覚悟を決めた。



「…仕方ないな。

今回は引き受けてやるよ」


「本当ですか!?」


「お前が約束を果たしてくれるなら…だけどな」


「もちろんです!

こき使ってくださいよ!」


「なんか語弊がありそうな言い方だな…」



ふと、俺は肝心な事に気がついた。



「ところで、名前は…?」


「あ、自己紹介してませんでしたね」



その男子は、堂々と胸を張って言った。



「オレの名前は、柳川(やなぎかわ) 瑞穂(みずほ)です。

寺岡先輩、これからよろしくお願いします!」


「柳川な…よろしく」



こうして、俺は甲虫同好会の部長にもなり、部員を増やす事に成功した。


俺は、また多忙な生活が始まる予感を感じ取り、ため息をついた。



「はあ…また面倒な事が起きそうだな」







それから少しして、オカルト研究会の部員が少しずつ入ってきた。


部室に最初に入ってきたのは忍だった。



「おいっす、光輝って…アレ?

横にいる人は誰なの?」


「ああ、こいつは新入部員の柳川だよ。

俺が甲虫同好会の部長もやるという条件で入ってもらった」


「へー、新入部員…

いるには越した事はないけど、今更って感じだよね」



柳川は今の一言で涙目になっていた。

結構ショックだったらしい。


仕方ないからフォローするか。



「そんな事言うなよ。

今は部活存続の危機にあるんだ、これで回避できるから充分ありがたいだろ?」


「あー、そうだね。

柳川君、あたしは三波忍。

これからよろしくね!」


「は、はい!

よろしくお願いします!」



柳川は相変わらずの敬語だ。

俺はなかなか礼儀正しい奴だと思った。

まあ、一人称は『オレ』のままだけど…



そうしている内に、川村が入って来た。

川村は、すぐに柳川に気付いたようだ。


そして、そのまま柳川をじっと見つめた。

柳川は急に見られたせいか、怯えたような表情をしていた。


わずかな沈黙の中、ついに川村が口を開いた。



「貴方…新入部員?」


「は、はい!

や、柳川瑞穂という者です!

よろしくお願いします!」


「そう…柳川君ね…

私は川村ひより…よろしく…」



そういった川村は、俺達の前から歩み去った。


柳川は、俺の方を向いた。

顔を見ると涙目になっているのが分かる。



「て、寺岡先輩…

川村先輩がオレに対して、何だか冷たい気がします…」


「気のせいだって。

川村は、大体の奴にああゆう態度だからな」


「あー、そうですか。

はぁ、何かびっくりした…」



柳川は、その場に座り込んでため息をついた。

相当気にしていたらしい。


俺は思わず柳川に言った。



「柳川さ、もろ男口調なのに気が弱いよな…」


「そ、そんな!

口調と性格は関係ないじゃないですか!!」



覇気はないが、柳川はかなりお怒りのようだ。



「あー、そうだな…

悪いな、変な事言って」


「そうですよ、先輩だからって何を言っても許されるなんて思ったら大間違いです!」


「はいはい、分かったよ。

分かったから落ち着け!」



このやり取りの間に、第三の訪問者が入って来た。


この気配は多分…里沙さんだ。

背中越しだが、物凄い視線を感じる。


いつもとは違う声で、里沙さんが話し掛けてきた。



「寺岡君…?」


「は、はい!?」


「その横にいる子は誰…?」


「こ、こいつは新入部員の柳川ですよ!」



何だか分からないが、今日の里沙からは謎のプレッシャーを感じる気がする。



「新入部員ね…

貴方、一年生よね?」


「は、はいぃ…」



謎のプレッシャーに圧倒され、柳川は縮こまっていた。

まあ、無理もないが…


すると、里沙さんの表情がいきなり明るくなった。



「…私の後輩が二人に!!

うふふ…うふふふふふ…」



里沙さんは、顔がニヤけっぱなしのまま向こう側に行ってしまった。


一部始終を見ていた柳川は、目を点にしている。



「寺岡先輩…あの人は?」


「滝川高校の三年の中城里沙さんだよ。

まあ、この学校の生徒じゃないんだが気にしないでくれ」


「そ、そうですか…」



柳川と俺は、里沙さんに視線を向ける。

里沙さんは鼻歌を歌いながら、教室をスキッブしながらうろうろしている。



「…中城先輩、何であんなに上機嫌なんでしょうか?」


「あー、きっとお前が来て喜んでるんだよ。

あの人、年下好きだからさ」


「もしかして…ショタコンですか?」


「はい、そうです。

シー・イズ・ショタコン」


「うわ…そうなんですか」


「でも、本人に言ったらダメだからな。

ああ見えて本人は結構気にしてるんだ」


「わ、わかりました…」



里沙さんゴメン。

俺、後輩に貴女がショタコンって事をバラしました。


そう思っていると、里沙さんがこちらにやってきた。

まさか、読心術を使ってこちらの思った事でも読み取ったのだろうか。


しかし、里沙さんは予想外の言葉を発した。



「寺岡君、柳川君…二人ともパトロール行かない?」


「「…え?」」



まさかのパトロール。

また同じ方法で俺と柳川を口説くのか。

もう俺には通用しないぞ…とは言えない。


正直な感想、かなりドキドキしてました。

本当にアレはきつかった。



「あ、オレは特に用事がないので構いませんよ」



オイ、柳川!!

ちょっとぐらい空気読め!!

今、ちょっと遠慮したいとか思ったばっかりだからさ!



「寺岡君もいいよね?」


「…はい」



こうして、俺の精神的な戦いが始まった。







その頃、並列世界ではアスタリスクとアディアが化け物と戦っていた。



「喰らえっ!」



アディアは専用武器の『クローズ・ギロチン』という斧をダミー・サターンに投げ付けた。


その斧はダミー・サターンを真っ二つにし、円を描いてアディアの元に戻って来る。

これがアディアの専用武器の特性である。



「さて、化け物はこれで全部みたいだね」


「今回モ、現実世界ニハ被害ハナイトイイノダケド…」


「そうだね、それに越した事はけど…」



二人の足元に、二人の男女の死体が転がっている。

きっとデートの最中に襲われたのだろう。



「また犠牲者が出ちゃったね…

あー、この戦いはいつまで続くんだろうね?」


「アブソール・ワールド・バインダーガ死ヌカ、私達ガ死ヌマデヨ…」



アスタリスクの言葉を聞いたアディアは、顔をしかめた。



「アブソール・ワールド・バインダー…

あいつが並列世界を現実世界に出現させてる元凶だからね…」


「ソウ…ソノ元凶ヲ絶テバ、全テ解決スルワ…

私達ガ並列世界カラ、解放サレルカ分カラナイケド…」


「管理人は管理人らしく閉じ込められるかも知れないって事だよね?

そうだとしたら、皮肉な運命だね…」



その時、二人の目の前にもう一人の黒いコートを着た少女が現れた。

少し前に、アスタリスクを見ていた少女だった。


そして、おもむろに口を開いてこう言った。



「管理人のアスタリスク・クエイクボーダー、アディア・ブロックウェイ…排除する!!」


「「…!?」」



二人に目掛けて、その少女はハンマーを振りかざして来た。


アディアは斧で、その攻撃を何とか受け止めた。

強い衝撃がぶつかり合い、お互いの武器が軋む。



「くっ…!!

何なんだよ、お前!?」


「これから死ぬ奴が、知る必要がある?」



少女の悪意のある笑みが不気味な程生き生きしていた。



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