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第十一話 リメイン・パーソナル

俺こと寺岡光輝は今、夕日が差し込む病院のとある一室の隅でうずくまっていた。

この何ヶ月で学校関係で色々とあり、精神が疲れ切っていた。


並列世界で死んだはずの友人が襲ってきたり、

仲間の妹が敵として現れて黒川先輩を半殺したり、

挙げ句の果てには、黒川先輩が出血多量で病院に搬送されたが死亡、

自分は胸部の複雑骨折で即入院中という散々な日々だった。


入院してからはや二週間、しばらく対抗組織の面々と会っていなかった。


お見舞いぐらい来てくれないのかと思うが、きっと彼等なりの理由があるのだろう。

確か、黒川先輩の死因やらで警察沙汰になっていた。

きっと事情徴収など(俺は怪我で動けないが、何度か警察の人が直々に来ている)で放課後も時間が無いのだろう。



コンコン…



色々と考え事をしていると、突然病室の扉を誰かがノックしてきた。

俺はとりあえず、ノックに返事をする。



「はい、何か用ですか?」


「あ、光輝いる?

今、入っていいかな?」



その声は、幼なじみの忍だとすぐに分かった。



「ああ、いるよ。

遠慮しないでさっさと入れよ」


「う、うん…お邪魔します」



忍がベッドの隣にあった椅子に座る。



「久しぶりだな。

もう二週間ぐらい会ってなかったっけ」


「うん、黒川先輩の事情徴収とか、お葬式があったから忙しくてね…」


「そうか、黒川先輩の葬式か…

あんまり実感湧かないな」



俺は黒川先輩が救急車に運ばれる前に言われた事を思い出していた。




『寺岡、話したい事があるんだけど…いいかい?』


『はい、いいですよ』


『じゃあ一言で言わせてもらうよ…

僕にもしもの事があれば、オカルト研究会の部長は君に任せたよ』


『え、俺っ…ですか!?』


『そう、君になら任せられる』


『なんで俺なんかにオカルト研究会の部長を…』


『そろそろ三年は部活を卒業する時期だし、いいかなと…』


『…俺なんかでいいんですか』


『ああ、もちろん!

グフ…僕もそう長くはなさそうだしね…

今の内に約束しないと、死んでも死に切れないよ』


『く、黒川先輩…

俺、頑張ってみますよ!!』


『おお!オカルト研究会と甲虫同好会のみんなを頼んだよ!』


『こ、甲虫同好会も!?』




そんな感じで会話した後、黒川先輩は搬送され、搬送先で死亡した。


これをきっかけに、俺は自然とオカルト研究会の部長になる事となってしまった。

あと、甲虫同好会も…



「光輝は勢いでそんな事言ったみたいだけどさけどさ、本当にこれでよかったの?」


「うーん…確かに部長に自信は無いけど、先輩にできたんだから何とかなるんじゃないか?」


「うわー、なにその自信…」



忍は湿った目でこっちを見ている。

そんな目で俺を見るな。



「寺岡君…いるかしら?」



うわ、扉から音を立てずに川村が部屋に入ってきた!!



「あー、川村も来たのか」


「あ…三波さんもお見舞いに来てたの…?」


「ま、まあね」


「そう…」


「…」



誰も喋らず、何だか気まずい空気になった。

俺はこの白けた空気が嫌いだ。


ふと、忍は口を開く。



「あ、ちょっと質問していい?」


「おう、なんだ?」



忍は窓の外を指差して言った。



「あれ、里沙さんと冴祓君じゃない?」


「「…え?」」



以外すぎる質問に俺と川村の声が重なった。

というか、俺自身への質問じゃないのかよ。


それは置いておくとして、俺と川村は窓の外へと視線を向ける。

確かにあの二人が並んでこちらに向かって来ている。



「おーい、そこのお二方!

光輝はここにいますよー!!」



忍は窓から身を乗り出して二人に手を振っている。



「おい、そんなに身を乗り出したら危ねえぞ」


「そんなの分かってるよ!

おーい、こっちこっち!」



忍はさっきと変わらず手を振っている。

うわー、この人俺の忠告無視したよ。



「また…うるさくなるわね…」


「はあ、全くだ。

大人しく寝かせてくれよ…」



俺は深いため息をついた。

その後、病室が騒がしくなるのは言うまでもないだろう。







「あー、疲れた…」



つい何分か前に対抗組織の面子から解放された俺は、ベッドでぐったりとしていた。


なにせ三時間も冴祓の愚痴を聞いたり、出番が少なかった事をネタに弄られる里沙さんを慰めたりとなかなか面倒な事をこなしていた。


気が付くと、夕日が綺麗に輝いていた外の景色はすっかり夜の闇に包まれている。



「さてと、腹も減ったし食堂にでも行くか」



俺はベッドから起き上がると、病院の食堂に向かった。




その姿を、窓の縁に座っているアスタリスクが見ていた。



「テラオカコウキ…私達ノ唯一ノ希望」



夜の空の色が赤く光っている。

さらに、さっきまで寺岡が寝ていたベッドの下から犬型の化け物が沸いて来た。


つまりは、今此処に並列世界の出現したという事だ。



「ダカラ…貴方ハ私ガ守ル!」



アスタリスクは専用武器の『スマッシュ・ジャベリン』を出現させると、目の前の化け物に切り掛かった。







俺は、食堂で食事を終えて病室に戻ってきた。

そして、目の前の光景を見てぞっとした。


病室中に犬型の化け物の死体と黒い液体が飛び散っていたからだ。



「ダミー・ハウンドの死体!?

…俺がいない間に何があったんだ?」


「コイツラハ私ガ始末シタ…」



その機械的な声の先にいたのは槍を片手に持ったアスタリスクだった。

夜闇に暗さに対抗するかのように赤い目と白い肌が不思議に光っている。



「アスタリスク…!!

一体何があったんだ?」


「マトモニ動ケナイ貴方ノ代ワリニ戦ッタダケ…」



アスタリスクは相変わらず無表情で答える。

こんなアスタリスクが笑う事なんてあるのだろうか。



「あー、要するに助けてくれたんだな。

ありがとな、アスタリスク」


「…!!」



アスタリスクは、驚いた顔をしていた。

初めて仏頂面ではないアスタリスクの顔を見た気がする。


だが、アスタリスクの顔はすぐに仏頂面に戻った。



「貴方ヲ監視スル上デ当タリ前ノ事ヲシタダケ…

気ニスル事ハナイ…」


「そ、そうか?」



怪我で思うように動けないとはいえ、俺にもプライドがある。


だから、アスタリスクに守ってもらうとなると気が引けた。

自分の身は自分で守れると言えない自分が情けない気がして仕方がないのだ。


色々考え込んでいるとアスタリスクが口を開いた。



「貴方ノ専用武器…見セテクレナイ?」


「え?…ああ、いいぞ」



俺は専用武器のナイフを思い浮かべる。

機械的なデザインのナイフが出現する。


アスタリスクはナイフをしげしげと眺めて言った。



「ナルホド…『フリー・シフト・カッター』…」


「『フリー・シフト・カッター』…?」


「コノ武器ノ名前ヨ…

コノ部分ニ書イテアル」



アスタリスクは柄を指を指して言った。

柄には英語で文字が書かれている。



「あ、本当だ…」



俺はその文字に全く気付かなかった。

いつも握っている部分だからあまり見る事はないからだろう。



「因ミニ私ノ武器ハ『スマッシュ・ジャベリン』…

触ルダケデ切レル特殊ナ衝撃波ヲ放ツ事ガデキルノ…

貴方ノ武器ニモ特殊ナ能力ガアルハズ…」


「は、はあ…そうなのか」



俺は『フリー・シフト・カッター』を眺めてみた。

特殊な能力があるようには見えなかった。



「うーん、全然そうは思えないが…」


「今分カラナクテモ…ソノウチ分カルト思ト思ウ。

貴方カラハトテモ強イチカラヲ感ジルカラ…」



アスタリスクは俺に背を向け、窓の縁に立った。



「私、モウ行カナイト…

忘レナイデ。モシモ、貴方ガ私ヲ必要トスルナラ…直グニ私ハ駆ケ付ケル…」



俺は今にも窓から飛び降りそうなアスタリスクに聞いた。



「おい、一つだけ教えてくれ!

どうして俺をこんなに助けてくれるんだ!?」



アスタリスクは、少し顔をこちらに向けて言った。



「貴方ハ…期待サレテイル。

管理人ヲ並列世界カラ解放スルチカラヲ持ッテイル人間トシテ…」


「管理人を解放する力…?」


「アブソール・ワールド・バインダーヲ倒ス強大チカラ…

貴方ニハソノ才能ガアル…羨マシイグライニネ」



そう言ったアスタリスクは窓から飛び降りた。



「ちょ、アスタリスク!!

アブソール・ワールド・バインダーってなんだよ!?」



俺は窓に駆け寄って、窓から外を見下ろした。

そこには四階の部屋から見える夜景だけが存在し、アスタリスクの姿はもう見えなくなっていた。



「ったく、行っちまったか…

管理人を解放する力を俺が持っているって?

はあ、なんだか面倒な事になったな…」



俺は再び気の向くままにベッドに顔を埋めた。







その頃、アスタリスクは並列世界のとある廃墟になったビルに入って行った。


古びた階段を上がり、六階の部屋に入ると、そこにいたのは壁に寄り掛かったアスタリスクと同じ黒いコートを着た少女だった。



「アスタリスク・クエイクボーダー、偵察ご苦労様」


「イエ…コレグライハ大シタ事デハナイワ…」



アスタリスクに声をかけてきたこの少女の名前は、アディア・ブロックウェイ。

アスタリスクとは一風変わった姿をしている。

黒いコートを羽織り、中に白いランニングシャツを着ていて、

十字架のアクセサリーを首から下げていて、あまり長くない栗色の髪の毛が生温い風になびかせている。



「トコロデ…アディア…

貴女ノ担当ノ…ナカシロリサノ方ハドウナノ?」


「ああ、彼女も中々センスがあるね。

現段階で最強の適応者かもね」


「ソウ…」



アスタリスクはそう言って部屋にある古いソファーに座った。

このソファーが彼女の数少ない落ち着ける場所だった。


それに対してアディアは壁から体を起こし、あくびをした。



「ふあぁ…眠いが中城里沙の様子でも見に行くか。

そんじゃアスタリスク、留守番頼んだよ」


「エエ…分カッタワ」


「じゃーね、アスタリスク」



アディアは窓から外に出て行った。

いつまで経っても部屋の出入口から出ようとしない。



「アディア…相変ワラズネ」



アスタリスクは、そう呟くと眠気に身を任せた。



そのアスタリスクの様子を見ている、もう一人の黒いコートを着た少女がいた。

フードを深く被っているので顔はよく見えない。


その少女がぼそっと呟いた。



「アスタリスク…僕らはアブソール・ワールド・バインダーの前ではただの人形に過ぎない。

無駄な足掻いを止めないなら、僕は君の希望を絶ってやる…」



その少女は、そう言ってどこかに向かって飛んで行った。


アスタリスクがこの少女と対峙するのは、そう遠く日の話である。

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