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第九話 ダーク・ファクト

俺は、荒れた果てた学校の門の前に立っていた。


昨日までは、ここは逆茂木高校だったはずだ。

しかし、逆茂木高校なら、ここまで校舎は荒れてなかったはずだ。


窓ガラスは割れて、地面に崩れ落ちている。

ガラスどころか、校舎全体がひび割れているように見える。


そして、窓ガラスの所々に返り血ようなものがついていた。



「一体、どうなってるんだ…

並列世界が校舎自体にも浸食してきたのか…?」



そして俺は、部室の事が気にかかった。

以前も部室に並列世界が出現したので、今回も何かあったかも知れないからだ。


俺はそう考えて、校舎内に入った。


校舎内では何人もの生徒と教師が逃げ回っていた。


それを追い掛けている無数の化け物。


そして、この学校の生徒らしき人間の死体。

無惨に切り裂かれて、目を向けられないような状態になっている。



「くそ…数が多過ぎてあいつらを助ける暇がない!

今回の並列世界は規模はヤバいぞ!!」



俺は仕方なく化け物から逃げながら、部室までたどり着いた。

そして、勢いよく扉を開けた。



「おい!誰か……っ!?」



そこにいたのは、返り血で赤くなったダミー・サターンと、見覚えのある人間の死体だった。



右肩から左の腰にかけて大きな傷口がある川村の死体。


手足がバラバラにされた黒川先輩の死体。


腰から下が完全に無くなっている忍の死体。



「そんな…どうして…」



その時、三人の死体が動き始めた。

傷口が消え、手足等が木製のものに変わっていく。


そして、いつも自分達が戦ってきた化け物に似た姿に変わってしまった。


そう、死んだはずの三人が、化け物として復活したのだ。



「おい…冗談だろ…

嘘だ…こんなの嘘に決まってるって…」



元々川村だった化け物がナイフを構えて突っ込んで来た。



「川村…止めてくれ…!

俺は…お前の仲間じゃないのかよ!?」



俺の声も虚しく、川村は俺の頭に向かってナイフを振りかざした。



「くそ、川村…止めろ!

止めてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」



そして、俺の目の前が真っ黒になった。



………



「はっ…!!」



気が付くと、俺はベッドから勢いよく起き上がっていた。



「さっきのは…ゆ、夢だったのか?」



今だに心臓が壊れんばかりに、激しく動いている。


全身から、大量の冷や汗をかいていた。


夢にしては、現実と思えるぐらい鮮明だった。



「嫌な夢だったな…

まさか、予知夢なんかじゃないよな…

いや、悪い方に考えるな。

ただの悪い夢に決まってる…」



俺はそう呟いて、学校へ行く準備を始めた。







高校の自分のクラスに着いた俺は、自分の机にぐったりと倒れ込んだ。

今日みたいに、朝から疲れているのは久しぶりだ。


俺が机でうなだれていると、川村が話し掛けてきた。



「寺岡君…朝から疲れてるみたいね」


「あ、川村か…

今の俺って、やっぱりそういう風に見えるか?」



川村は静かに頷いた。



「だって…いつもよりも元気がないもの…

いつもの貴方なら…もっと生き生きしてるわ」


「まあ、いつも元気って訳ではないがな…」



俺は、ため息をついて川村を見た。



「それにしても、朝から俺のよく気づくよな…」



川村は、ちょっと焦ったようになって言った。



「そ、それはいつも貴方を見てるから…」


「あ、ああ…そんなんだ」



俺は、なんか余計な事聞いてまったと思った。



「ま、まあ…

授業受けたあとでな」


「うん…また後で…」



何だか微妙な空気で、話が終わってしまった。







俺は放課後なると、いつも通り部室に向かう。

今日はアスタリスクと会った事を冴祓に話さないといけない。


そして、部室の前までたどり着いた。



「おいっす、冴祓いるか?」


「おお、寺岡か。

あれから何かあったのか?」


「ああ、話さないとならない事があってな…」



それから俺は、冴祓に昨日知った事を話した。



「なるほどな…

化け物は、負の感情を抱いて死んだ人間なんだな」


「アスタリスクによるとそうらしいぜ。

もしそうだとしたら、化け物は並列世界にあり余るほど溢れかえってるよな」



冴祓は、頭をかいて言った。



「ま、俺達は生きる為に戦うまでだ。

例えそいつが、知り合いだったとしてもな…」


「そうならないといいな…」



俺の頭の中では、夕べに見た夢が浮かんでいた。


惨殺された仲間の死体が、体の一部が木に変わって復活し、自分を襲ったあの夢が…


段々と、あれは予知夢なのかもしれないと思えてきた。

もし、そうだとすれば…川村は俺の敵として立ち塞がるのだろうか。


俺は、そんな余計な心配をするなと自分に言い聞かせた。



そんな時、忍が部室に駆け込んで来た。

全力で逃げて来たのか、息が上がっていた。



「はあっ…はっ…

誰かあたしと来てくれない!?

今、ちょっと大変な事がおこったの!」


「忍!どうしたんだ!?」


「川村さんが、死んだはずの北沢君と戦ってるの!

あたしじゃ戦えないから、代わりに助けてあげて!!」



俺は、心臓が跳ね上がったような気分だった。



「なっ…北沢!?

わかった、俺が行く!!」



俺は考えるよりも先に、忍と勢いよく部室から出た。



「寺岡、待て!

お前一人が助けに行ったところで…っ聞いてるのか!?」



その後ろで、冴祓の声がする。

しかし、俺はその声を無視して忍と走った。



「それで…川村はどこにいるんだ!?」


「ここから近くの公園!

ほら、いつも帰りに寄るところだよ!!」


「ああ、あの公園か!

急ぐぞ、忍!!」



俺は、さらに走るペースを上げて走り出した。


自分の目で、現実を確かめるために。







俺と忍は、公園の前までやって来た。

公園の遊具が不気味に赤く光っている。


そこは、間違いなく並列世界だった。



「川村!どこだ!?」



どこからか、川村の声が返ってくる。

どうやら、遊具の後ろで戦っているようだ。



「寺岡君…!?

どうして…きゃああっ!」



悲鳴と供に、川村が俺の目の前に吹っ飛んで来た。

俺は、川村の側に駆け寄った。



「川村…!大丈夫か!?」


「大丈夫…ちょっと隙つかれてを掠っただけだから…

寺岡君、私よりも…あの化け物を何とかして…!」



そう言って、川村が向こうを指差した。


その指差した先にいたのは…

体の一部が木に変化している北沢治郎だった。


俺の目の前で死んだはずの友人が、今目の前にいる。


ただ、あの時の北沢とは違い、両手に巨大なボクシングのグローブのような物が装着されていて、虚ろな目をしている。

背中の傷も、まるで足りない部分を補うかのように木で修復されていた。


俺は北沢に話し掛けるように言った。



「北沢…まさか、お前が敵になるなんてな」



すると、北沢が俺の言葉の返事ように言った。



「ああ…お前が…お前が助けてくれないかったから…!!」


「…北沢っ!?」



北沢は物凄い速さで、殴り掛かってきた。


俺は咄嗟にナイフ出現させると、北沢の攻撃を横移動して回避した。

殴られた地面に大きくえぐられた。



「くそ、こいつ速い…!」



俺は攻撃を回避した後、ナイフを北沢の頭に向けた。



「ちょっと気は引けるが…

化け物もどきなら、頭を狙えば倒せる!」



しかし、北沢の攻撃はまだ終わっていなかった。

北沢の殴った地面から岩の鎖のような物が出てきて、俺の足に絡み付いた。



「くっ…動けない!?」



その隙に、北沢は俺の体に向かって拳を突き上げた。

俺は殴られた勢いで、10メートルぐらい吹き飛ばされた。



「…ぐはぁっ!!」


「あっ、寺岡君っ…!!」


「しっかりして光輝ぃ!!」



俺は、滑り台に体を打ち付けられた。

胸部に今まで感じた事がない激痛が走る。

今の衝撃で、四本ぐらいの肋骨が折れたようだ。



「くそ…すごく痛ぇ…

このままだとあいつに…!!」



化け物と化した北沢が、じりじりと近寄ってくる。

俺は何とか痛みを堪えながら、後ずさる。



「寺岡…お前のせいで…お前のせいで…!!」



北沢がそう叫びながら、どんどん近付いて来る。



「おい…北沢!止めろ…止めてくれぇ!!」


「何で…あの時助けてくれなかったんだ…!?

あの時…!あの時…!!あの時…!!!あの時…!!!!」


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」







その時、化け物になった北沢の胴体を日本刀が貫いた。


冴祓が、日本刀で北沢を刺したのだ。







「あ、あ、あの時…あ、あ、あ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ…」



北沢の目から段々光りが失われ、声も小さくなっていく。


弱っていく北沢は、俺に向かってこう言った。



「て…寺…岡……ご………め………ん…

お前……は何も…………悪く…………………な………い…」



そう言った北沢の体はどんどん崩れ落ち、黒い灰になってしまった。


冴祓が、日本刀を鞘に納めて言った。



「寺岡、さっきのは結構危なかったな。

まさか、この前死んだお前の友人が襲って来るなんてな」



俺はすっかりうなだれて、瞳から涙が出ていた。



「くそぉ…あの時、俺が北沢を助けられていれば!!

こんな事にはならなかったかも知れないのに!」



俺は、やり切れない気持ちで一杯だった。

自分のした行動を心底後悔していた。


すると、冴祓はこう言った。



「ったく…馬鹿だな。

あいつが最後に言った事を忘れたか?」


「最後に…言った言葉?」


「言ってただろ?

俺に刺された後、『お前は何も悪くない』ってな」


「…!!」



俺は、北沢が最後に言った言葉を思い出した。



「でも、北沢は…本当にそう思っていたのか?」


「死ぬ前ぐらいは正直になるだろうさ。

きっと化け物になって、少しだけ気が狂ってただけだろう」


「そうか…そう信じたいな…」



川村が、俺に駆け寄って来た。



「寺岡君…大丈夫なの…!?」


「今は…ちょっと大丈夫じゃないかもな。

肋骨が四、五本折られたみたいだから…」


「今…三波さんが黒川先輩と、救急車を呼んでるから…

もう少し…頑張って…」


「ああ、それぐらいは全然大丈夫だ」



その時、黒川先輩と忍が公園に入って来た。



「寺岡っ!大丈夫か!?」


「ああ、何とか生きてます…」



黒川先輩は俺の姿を見ると、落ち着いて言った。



「激しく動かなければ、得に問題はなさそうだね。

まあ、もう少しで救急車が来るから…」



その時、俺はある事に気が付いた。


空や遊具がまだ赤く染まっている事に。



「なんで…まだ並列世界が消えないんだ?」



この廃墟のような景色が、元に戻る気配がまるで無かった。


その時、向こう側から何かが近付いている音がしてきた。


地面と金属が擦れるような音がどんどん近付いて来る。



「まさか…まだ化け物がいるって事か!?」



黒川先輩は、焦っていたようだった。



「そんな馬鹿な…!?

僕がこの公園に来た時、

この並列世界は化け物が何体も出て来るような規模じゃ無かったはずだ!!」



忍もパニックになっていた。



「でも、実際にこっちに向かってるじゃないですか!!」



そう言っているうちに、冴祓が刀を抜いた。



「おい、おしゃべりはそこら辺にしておけ。

さっきの奴が…来るぞ!!」



そして、公園にその化け物が入って来た。


それは今まで見てきた化け物中で、一番大きな化け物だった。


20メートルぐらいの巨大な白いクラゲのような物の上に、人間の女性の上半身がくっついているような化け物だった。



「な、何だこいつ!?

こんな化け物…見たことがないぞ!!」



黒川先輩は、化け物をじっと睨むと言った。



「多分…寺岡の友人と同じタイプの化け物だね。

上についてる、あの女の子が本体ってところじゃないか?」



その時、冴祓の表情がガラッと変わった。

だんだん顔が青ざめていくのが分かる。


ついには、日本刀まで取り落としていた。



「そんな…嘘だろ…」


「おい、冴祓どうしたんだ?」


「嘘だ…なんで…乙佳が…」


「…イツカ?」



冴祓は、暗い表情で言った。



「俺が並列世界に初めて行った時に、化け物に殺された冴祓さえはら 乙佳いつかさ…」


「え、冴祓って…?」


「つまり、俺の妹だ…」


「な、妹…!?」



俺達の前に立ち塞がった化け物は、なんと冴祓の妹だった…

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