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第八話 エネミー・バイ・ナチュラル

オカルト研究会にトーテム・ウィッチが出現した事件が起こった次の日、臨時で三つの対抗組織による会議が開かれた。


その会議には、各組織の代表が集まって開かれた。



逆茂木高校の黒川白刃。


滝川高校の中城里沙。


そして、城谷高校の冴祓渚。



各代表の判断で、並列世界の出現に備え、部員は武器を持ち歩き、なるべく二人以上で行動するように義務付けられた。


そして、並列世界に遭遇した場合は、無理をせずに冷静に対処するようにという事だった。


そして、その会議内容は、世界各国の対抗組織の支部にデータ化されて送られた。


対抗者達は、全国体制で並列世界に対する危険意識を高めていった。







その会議の時、俺は忍と近くの公園のベンチに座っていた。



「会議長いな…

もう二時間は経ったよな?」


「うん、もう二時間はとっくに過ぎてるよ」


「まあ、そうだよな。

ちょっとぐらいなら、こんなに疲れたりしないよな…」



俺と忍は、すっかり待ち疲れてしまっていた。



「川村は、家で待機してるって帰ったからな…

あー、暇でしょうがないな」



すると、忍はこちらを振り向いて言った。



「あたしは、別にいいけどな。

光輝と久しぶりに、二人っきりになれたし…

むしろ、嬉しいかな?」


「え…?そ、そうなのか…」



忍が言った言葉に、俺はちょっと驚いた。

昔の忍ならこういう事はわなかったからだ。


忍は、雲が行き交う青空の方を向いて言った。



「ねえ、光輝…

最近のあたしって、足を引っ張ってばっかりで、何の役にも立ってないよね?」


「いやいや、そんな事ないぜ。

あの化け物を目の前にしたら、誰だって…」



忍は、首を横に振った。



「ううん、やっぱりあたしは足を引っ張ってるよ。

だって、あたしは一度も化け物殺した事ないんだもん。

みんなを面倒な事に巻き込む…とんだトラブルメーカーだよ」



それを聞いた俺は、忍にはっきり言った。



「忍…それは違うぞ!」


「え…?違うって…」


「確かにお前は、逃げてばかりで化け物と戦った事なんてないし、みんなを面倒事に巻き込んでいるかもしれない。

…だけど!お前は足を引っ張ってなんかいない!!」


「光輝…」



俺は忍の肩を掴んで言った。



「いいか、お前は俺が絶対守るから。

だから…絶対に変な事しようと考えたりするな!」


「え…うん、分かった…」


「よし、それならいいな」



すると、忍は何か落ち着きなさそうに言った。



「こ、光輝…」


「ん?どうした?」


「さっきから、顔がすごく近いんだけど…」


「え…!?ああ、悪い!」



俺はガバッと忍から離れた。

何だか気まずい空気になってしまった。


俺はこの流れを変えようと、違う話題を振った。



「なあ、忍。

今度暇があったら、お祓いしてくれないか?」


「え、何で急にお祓いなの?」


「いや、これから並列世界で戦いが増えそうだからさ…

簡単に死んだりしないように、忍のお祓いを受けた方が心強いなと思って」



これを聞いた忍が、くすくすと笑い出した。



「ふーん、お祓いなんて珍しいね…

どうせ、光輝の事だからあたしの巫女服の姿をみたいだけじゃないの?」


「なっ…違うって! 」


「やっぱり図星じゃないの?」


「だーっからっ!!

そういう目的じゃないって!」



忍は、いつもの表情に戻っていった。



「いやー、やっぱり光輝を弄るのは楽しいわー」


「…ったく、どうしようもない幼なじみだな」


「まあ、話は分かったよ。

先輩達の会議はまだしばらくかかりそうだからさ、今から波川神社に行ってお祓いしよっ!」


「え、今からか?」


「もちろん!さっさと行こ!」



忍が、俺の手を掴んで走る。



「ああ、ちょっと待てよ!」



忍に連れられて、俺は波川神社に向かった。







俺は今、波川神社のある一室で忍のお祓いを受けている。

忍は、俺の目の前で舞うような動きをしている。


それにしても…お祓いは長い。

もう45分はこうして座っている。

華やかな忍は見飽きたりしないけど、なかなか暇だった。


忍に話し掛けようにも、あまりにも真剣なので、俺は話し掛ける勇気がなかった。


そうこうしている間に、忍の動きが止まった。

集中していたせいか、忍は汗だくだった。



「はあ…終わったよ!

光輝、長らくお疲れ様!」


「はあ、疲れたぜ…

それにしても…お前、汗すごいぞ?」


「あはは…そうかな?

光輝のお祓いだから、ちょっと張り切っちゃってね」



忍は、恥ずかしそうに笑った。

何だかいつもよりも可愛く見える気がする。


俺は鞄から持っていたタオルを取り出すと、忍に渡した。



「ほら、使えよ。

俺もまだ使ってないし」


「あ、ありがとう。

それじゃあ、あたし着替えてくるね!」


「おう、後でな」



さっさと部屋から出た忍だったが、すぐにこの部屋に戻ってきた。



「ん?どうした?」


「着替えようとしたら、他の人がその部屋を使っててね…

あの…ここで着替えていい?」


「な…なんだって!?」


「ちょっと後ろ向いててくれればいいんだけど…

もし嫌なら、空くの待つよ」


「いや…嫌ではないが…」



この時の俺は葛藤していた。

汗だくで、巫女服を着た、幼なじみの着替え…


この思春期の健全な男子、女性の魅力にとても耐えられるとは思えない。


だが、ここで女の子の頼みを断るのも腑に落ちない。


迷っても仕方がないので、俺は無理に答えをだした。



「…仕方ないな。

頼むから、さっさと済ませてくれよ…?」


「うん…分かった」



忍は、服を脱ぎ始めた。



「ん…しょっと」



俺は後ろを向いて、何も考えまいと必死だった。


昨日見たお笑い番組、学校の先生の説教、並列世界の化け物…いろいろ考えた。


しかし、汗が滴る体、荒い息遣いで服を脱ぐ巫女の格好をした幼なじみが頭を過ぎる。


どうしても、考えが忍の着替えに戻ってくる。



「れ、冷静になれ…

俺の全ての煩悩は消すんだ…」



俺はそう呟きながら、必死に待った。


時間が経つのが、とても遅い気がする。

忍は、俺をいつまで待たせる気なんだろう。


その時、救いの声が聞こえた。



「光輝、終わったよ」



カバッと俺は振り返った。

そこには、いつものよう私服の忍がいた。



「スゲー長かった気がする…」


「あたし的には早めに終わらしたんだけどな…

もしかして、あたしの着替えがずっと気になって仕方がなかったから?」


「違うっ!俺はあんまり待つの好きじゃないからだって!!」


「ふーん、そう?

まあ、今日のところはそういう事にしておいてあげる」



正直なところ、図星だった。

むしろ、男子なら気にならない訳がないと思う。


それから、俺は立ち上がって言った。



「まあ、いいか…

そろそろ学校に戻るか」


「あ、そうだったね。

そろそろ戻ろうか…」



何だか微妙な雰囲気でお祓いは終わってしまった。







高校の部室に戻ると、黒川先輩と冴祓がいた。

俺は二人に声をかけた。



「あ、終わったんですね」


「ああ、たった今終わったばかりだよ」



ふと、俺は里沙さんがいないことに気づいた。



「あれ?里沙さんは?」


「ああ、涙目で帰ったよ」


「何したんですか!?」



冴祓がわざとしくため息をついて言った。



「俺が昨日みたいに会議でちょこちょこショタコンって言い続けたらさ、涙目になったと思うとダッシュで帰っちまったんだよ。

いやー、参ったね」


「冴祓…お前、悪いと思ってないな」


「おいおい、俺は先輩に一定以上の敬意を払っているぞ」


「お前の敬意ってのは、一体何なんだよ…」


「ま、会議の内容は伝わったみたいだから問題ないだろ」


「なんでそんなに偉そうなんだよお前…」



その後、俺は二人から会議の決定事項を聞いた。



「なるほど、とりあえず並列世界の危機感を高めようって事ですね?」


「そんなところだね。

冴祓と中城の抵抗組織にも同じ対策をするように言ったよ」


「ああ、滝川高校の書道部と、城谷高校の演劇部ですか…」



対抗組織の部活は学校によって違い、滝川高校では書道部、城谷高校なら演劇部と各高校バラバラである。


ふと、黒川先輩が言った。



「寺岡、ちょっと頼んでいいかい?」


「え、何ですか?」


「俺の代わりに、中城に謝ってくれないかな?」



俺は思いがけない言葉に、思わず吹いてしまった。



「ちょっ、黒川先輩も里沙さんに、何したんですか!?」


「実は、中城に一緒に帰る人いるのかって聞ちゃってさ…」


「先輩、それ里沙さんの前で、その言葉は禁句です…」


「あはは…そうなんだ。

だから、謝ってくれない?」


「ったく、わかりましたよ…」


「おお!寺岡、頼むよ」



黒川先輩はそう言って、部室を出ていった。

残ったのは、俺と忍と冴祓の三人になった。



「寺岡、ちょっと聞きたいんだがいいか?」


「ああ、別にいいけど」



冴祓は、椅子に座った。



「そんじゃ、遠慮なく聞くか。 お前、この前管理人に会ったらしいな」


「ああ、アスタリスクって奴に会った」



冴祓はいつもよりも真面目な表情になる。



「そいつから、何か化け物の事を聞かなかったか?」


「えー、確か…化け物を浄化するのが自分達の役目とか言ってたけど…」


「その言い方、何か引っ掛かると思わないか?

殺すと言わずに、なぜわざわざ浄化と言うのか」


「あ、言われてみれば…」



確かに、アスタリスクは管理人がやっている事を浄化と言っていた。

今まで、深い意味はないと思って気にしていなかったが。


そして、冴祓の話は続く。



「俺も少し前に管理人に会った時は、それと同じような台詞を言っていた。

まあ、俺の場合は適応者じゃないから大した聞けなかったが」


「つまり、どの適応者も化け物を殺す理由は…おそらく同じって事だな?」


「そういう事だな。

まあ、一番は本人に聞ければいいんだろうが…」



そう冴祓が言った時、忍が会話に割り込んで来た。



「ちょっと!あたしすごく暇だから早く話を終わらせてよ」


「おっと、悪かったな。

寺岡の隣に、三波がいるの事忘れててな」


「あー、冴祓君って結構酷い事をサラっと言うね…」


「すまない、俺はそういう性格だからな」



冴祓は立ち上がると、鞄を持って言った。



「さて、俺は帰るかな…

もし、アスタリスクか管理人にに会ったら、さっきの事聞いておいてくれ」


「ああ、分かった。

聞けたら、聞いておくよ」



冴祓は、部室から出て行った。



「さて、あたしらも帰ろ!

光輝と帰るの久しぶりだなぁ」


「おい、まだ俺は帰るなんて一言も…」



忍が、いきなり俺の足に蹴りを入れて来た。



「…痛っ!なんだよ!?」


「黙って一緒に帰んなさい!

どんな理由があろうが、拒否権はないよ!!」


「うわー、いつものお前に戻っちまったな…」



こうして、俺は仕方なく忍と帰る事になった。







俺は別れ道で忍と別れて、一人で歩いていた。


別れてしばらく経った頃、背後に気配を感じた。

俺は専用武器のナイフを展開すると、後ろを振り向いた。



「なっ…お前…!?」



振り向くと、そこにはアスタリスクが立っていた。

今、この場所は並列世界にではないはずなのに。



「アスタリスク…なんでお前がここにいるんだ?」



アスタリスクは、相変わらずの機械的な声で答えた。



「貴方ハ、私ト会ウ事ヲ望ンダカラ…」


「何でそれが分かったんだ?」


「私達ハ、貴方達適応者ヲ監視シテイル…時ガ来ルマデ」


「時ってなんだよ?」



アスタリスクは、表情を変えずに言った。



「貴方達ハ、イズレハ私達ノ仲間トナル…

ソウ…適応者ハ、管理人ニナル運命ナノ」


「て、適応者が管理人になるだって!?」


「ソウヨ…私達モ昔ハ適応者ダッタ…

アル日突然、元ノ世界ニ帰レナクナリ…私達ハ管理人トシテ生キル事ニナッタノ…

ソレハ、貴方達モ同ジヨ…」


「そんな…俺達はいずれは管理人になるなんて…」



俺は、アスタリスクに言葉を返せなくなっていた。



その後、アスタリスクの話は続き、彼女が発する言葉は、容赦なく現実を語り続けた。



適応者として生まれた以上、管理人になる運命から逃れられない事。


適応者は、並列世界に長時間滞在するか、並列世界で死ねば管理人になる事。


逆に、普通の人間が並列世界で死ねか、負の感情を抱いて死ぬと化け物になる事。


管理人は、負の感情の殻に篭った魂である化け物と、死ねまで続けなければならない事。



アスタリスクは、他にも色々と話した。

それを聞いた俺は、ただただ驚くばかりだった。



「コレデ並列世界ノ事ハ、大体話シタ…

他ニ何カ知シリタイ事ハ…?」


「いや、もう充分過ぎるぐらいだ…

一つ聞くとすれば、並列世界に束縛されているお前が、なぜここにいれるのかって事だな」


「ソレハ私達ヤ化ケ物ノ能力…空間転送。

化ケ物ト違ッテ、私達ハ狭イ範囲シカ転送デキナイ…

ダカラ、ココニ立ッテイルノガ精一杯…」


「そうか、なるほどね。

だからそこから微動だにしないのか」



アスタリスクは、遠くを見て言った。


「モウ、私ハ戻ラナクテハイケナイ…

貴方ノ幸運ヲ祈ッテル…」



そう言って、アスタリスクは影のように消えた。



「化け物は、負の感情を抱いて死んだ人間の魂…か。

俺達は、元々人間だった奴らを殺してたのか…」



俺は内心、アスタリスクが話した事実に愕然としていた。


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