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第七話 シングル・ウォー

俺は、長い寄り道を経て、無事家に帰って来ていた。


家についてもなお、あの帰り道で出会った異常な強さを持った人物の事が頭から離れない。


冴祓渚。

あの人間の強さは異常だった。

しかも、本人が言うには、適応者ではないらしい。



「冴祓は、本当に適応者じゃないのか?

チェーンソーを使ってる俺と大差ない気がするが…」



俺はベッドに寝転がると、自分の武器を展開した。


里沙さんが言うには、適応者には専用武器があるらしい。


だが、俺は殺した化け物のチェーンソーを使っている。

自分の専用武器は、まだ何か分からない。



「やっぱり俺ってダメだな…

せめて、専用武器でもあれば違うのにな…」



俺はチェーンソーを消して、目をつぶった。



「もう、今日は寝ておこう…」



こうして、激動の一日が終わった。







次の日から、放課後に中城里沙と冴祓渚がオカルト研究会によく来るようになった。


何度も会う度に、二人の事もかなり分かってきた。




中城里沙さんは、滝川高校の3年の書道部。


元陸上部で、インドア派でありながら体力は書道部で一番。


年下で名前で呼んでくれる人が好きらしい。

冴祓よりも、俺みたいな奴がいいとの事。


武器は、ハンドガンとスコープ付きライフル、ショットガンにマシンガンと多彩。


今のところ、適応者で唯一の遠距離武器の使い手。




一方の冴祓渚は、城谷高校2年の演劇部部員。


数えるだけでも100を超える戦闘回数に、極めて高い身体能力で次々と功績を上げる。


主力武器は日本刀。

持っている武器と戦い方の為に主に単独殲滅を好む。

日本刀はバットケースに入れてカモフラージュし常に持ち歩くようにしている。


不良に見えても見た目は良いので、何度も演劇部で主役を務める。


里沙さんによると、過去に並列世界の化物に妹を目の前で殺された経験をしており、 普段表には一切出さないが、化物に激しい憎悪を抱いているらしい。




これが俺が知った二人の大まかな特徴だ。


ただ一つだけ、冴祓の妹の名前等の詳しい事は分からない。

里沙さんでもこういう話は聞いてないらしい。


ただ何となく分かる、あの異常な強さは、妹の復讐のために手に入れたに違いない。

並ならぬ努力で適応者と同等、またはそれ以上の強さを手に入れたんだろう。




そして、二人に会ってから、三週間が経った。

今は、二人がオカルト研究会に来るのが当たり前の光景になって来た。


今日も、里沙さんが早々とやって来た。



「寺岡君!遊びに来たよ!」


「あ、里沙さん。

いっつも来てますが、書道部とか行かなくていいんですか?」



里沙さんは、どこか遠くを見て言った。



「別にいいの…私、同級生の女子にも、男子にも相に手されないから…」


「あー、何かすいません…」


「…謝る必要なんて無いわ。

寺岡君が居てくれれば…」



その時、部室に勢い良く冴祓が入って来た。



「よお、中城。

今日も寺岡に求婚か?」


「求婚っ…!?

そ、そんなんじゃないわよ!」



珍しく、里沙さんは顔を赤くしている。

いつもは俺がこんな感じだが…



「まあ、仕方ないか。

中城は年下としかハッスルできない寂しい三年生だったな」


「ひどい…!

冴祓君、もう少し私が先輩って事を意識できないの!?」


「いや、できないな。

年下の男子しか興味が無い奴が先輩とは…片腹痛いな」



さすがの里沙さんも、この一言にはカチンと来たようで、顔がさらに真っ赤になっていた。



「…もう、許さないわ!!

表に出なさい!!」


「ほう、やるかい?

ショタコンが俺に勝てるなんて思うなよ?」



そう言って二人はドカドカと部室を出て行った。

そして、俺は二人に取り残された。



「里沙さん…行っちまった」


「何?気になるの?」



忍がいきなり俺の前に現れた。

不意をつかれた俺は思わず倒れそうになった。



「うわっ!脅かすなよ!!」


「ゴメンゴメン!

だって、光輝がずっと里沙さんの事ばっかり一人で言ってるからさー」


「いや、そうでもないが…」



すると、忍はつまらなそうな様子だった。



「なーんだ、面白くない。

後でみんなに広めて、楽しもうと思ってたのにさ…」


「余計な事しようとするな!

また、俺の変な噂が流れたら困るから!!」



忍は、昔から何かと俺の噂を広めたがる。

そのせいか、日常生活で色々と誤解される事も多かった。


ふと忍は、また別の話をし始めた。



「まあ、里沙さんの事はもういいや!

それよりも、光輝って適応者なんだよね?」


「そうらしいぜ。

ああ、確かお前には直接言ってなかったな」



思い返せば、つい最近まで忍とは最近部活で会っていなかった気がする。


ここ何週間、里沙さんとのパトロールや、冴祓から模擬戦で戦ったりと予定があった。

多分、会えなかったのはそのせいだろう。



「じゃあさ、光輝は専用武器とか出せる?」


「いや、まだ出せてない。

里沙さん曰く、専用武器を出すには、強い感情が必要なんだってさ。

里沙さんの場合は、化け物を前にして、死にたくないと思ったら出せたらしいよ」


「ふーん、そうなんだ。

でも、できてないんでしょ?」


「そうなんだよ…

現実には、強い感情って言われても難しいんだよな…」



俺は思わず、ため息をついた。

自分の強い感情って言うのがよく分からない。


ため息をついた俺を見て、忍が言った。



「そんなに悩む事じゃないよ。

あたしなんて、適応者でも何でもないんだよ?

光輝と違っていつ殺されるか分からないんだから… 」


「そ、そんな事ないって!

俺だって、毎回殺されないかヒヤヒヤしてるし」



忍は、いつもよりも顔色が悪かった。

いつの間にか、忍の手が震えていた。



「あはは…あたしどうしたのかな?

急に怖くなってきちゃった…」


「忍…」



段々忍の様子がおかしくなる。



「あたし死にたくない…

殺されて死ぬなんていやだ…」

いやだ、いやだ!いやだ!!いやだ!!!いやだ!!!」


「おい、どうしたんだよ!?」


忍は、頭を抱えて絶叫した。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



その後ろで、部室の景色が揺らいだ。

段々と、部室の風景が赤く染まっていく。



「なっ…並列世界!?

なんで学校なんかに…!?」



忍は机にしがみついて、唸っている。



「ううう…うう…」


「おい、忍!!

何してんだ!?逃げるぞ!」


「う、うううう…!!」



忍は急に気を失ってしまい、俯せの状態で机に倒れ込んだ。



その時、妙な声を上げて、派手な色をした化け物が教室に入ってきた。


毒々しい色使いの偶像のような化け物だった。

ダミーと違って、顔の穴は空いておらず、指紋のような模様が描かれていた。

そして、人間と同じ五本の指の手を、忍に向けていた。


俺は、モンスターブックでその化け物を知っていた。



「こいつは…トーテム・ウィッチ!!」




『トーテム・ウィッチ』


《ダミー系の亜種だと考えられる化け物。

武器を持たないトーテム系の化け物で、呪術を使ってくるのが厄介。


呪術をかけられた人間は、負の感情に侵され、精神崩壊のような状態にされてしまう。

その隙に、この化け物はその人間の首を絞めて殺す。


弱点はダミー系と同じ頭だと考えられるが、実際の所は正しいか分からない。

しかも、呪術は防ぐ方法が今だに不明なので接近は難しい。

ただ呪術の対象は一人だけなので、囮を使って接近することはできる。

しかし、一人で倒すには依然として難しい相手である。》




トーテム・ウィッチは、忍に向かって歩いて来ている。

このままでは、確実に忍は殺される。


俺はチェーンソーを出現させると、トーテム・ウィッチに突っ込んだ。



「喰らえ!!この化け物ォォォォ!!」



トーテム・ウィッチは、俺の存在に気付いたらしく、俺に手を向かって翳した。



「く…なんだ…!?

くそ…体が…重い…!」



そのせいで、俺はチェーンソーにうまく操作できなくなり、自分が動くのが精一杯になってしまった。


その間にも、トーテム・ウィッチは、どんどん忍に近づいていく。



「くそ…!たった一人で…どうすればいいんだ!?」



俺は為す術も無く、ついにはチェーンソーを取り落としてしまった。


トーテム・ウィッチは、もう忍の目の前だった。



「くそ…!俺は幼なじみの一人もを助けられないのかよ!?」



その時、俺の手の平に何かが出現した。

それは、機械的な外見の小さなナイフだった。


それと同じ時、トーテム・ウィッチの手は、忍の首を締め付けようとしていた。



「俺の大事な幼なじみに触るんじゃねえぇぇ!!



俺は咄嗟にそのナイフを、トーテム・ウィッチに向かって投げ付けた。

前に冴祓がそうしたように。


そのナイフは、トーテム・ウィッチの頭に向かって一直線に飛び、見事に頭を突き刺した。


トーテム・ウィッチはよろめきいて、忍から手を離した。


俺はその隙に、トーテム・ウィッチに体当たりをした。

トーテム・ウィッチの体が地面に叩きつけられる。


俺は、トーテム・ウィッチの頭からナイフを引き抜いた。

トーテム・ウィッチの頭から、黒い液体が吹き出してくる。


俺はナイフを手に取ると、トーテム・ウィッチの体のありとあらゆる場所を刺しまくった。



「このっ、この化け物ぉぉぉぉッ!!」



化け物の体を刺す度に、黒い液体が返り血のように俺に体にかかった。

そんな事では、俺の手は止まらなかった。


俺がやっと手を止めたのは、化け物が完全に動かなくなるのを確認できた時だった。



「なんとか…一人でも勝てたみたいだな」



その時、近くで声がした。



「あ…痛たた…」


「あ、忍!お前大丈夫だったのか!?」


「うん、大丈夫だよ。

強く掴まれて、ちょっと喉が痛いぐらいだから」


「そうか、ならいいんだが…」


「光輝、あたしを助けてくれたんだね…ありがとう」


「気にすんなって、幼なじみを助けて当然だろ?」



忍が無事で本当によかった。

もし、ここで忍を助けられなかったら、一体どうなっていたのか…考えるだけで恐ろしい。


ふと、忍が俺が握っているナイフを見て言った。



「光輝、そのナイフはどうしたの?」


「ああ、いつの間にか持ってたんだ。

一体、何だろうなこれ?」



忍が、何か思いついたように言った。



「もしかして、それが光輝の専用武器じゃない?」


「これが…俺の専用武器?

もっと強そうな物だと思ってたんだが…」



忍と話していると、いつの間にか現実世界に戻って来ていた。


そこにはいつもの部室の風景がある。

まるで何事もなかったかのように。



「並列世界が出現したという事は、この部室も安全じゃないんだな…」


「そうだね…あたし達どうすればいいんだろう?」




新たな化け物。

新たな並列世界の出現場所。

そして…俺の専用武器。



これらの出現は、俺達に新たな戦いを予感させた。



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