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彼女にはちょっとした自傷癖があった。
以前僕が髭を剃るのに使っていた切れ味の良いI字剃刀は、今は専ら彼女が自らを損なうための道具になってしまっていた。だらしなく伸びた無精髭はしばらく置き去りにされていた。
彼女は刃を突き立て、健康的な深紅を無尽蔵に垂れ流す。彼女の細い左手首の周辺には、絶えることなく生傷が存在していて、僕はその新雪のように白い肌に新しく増えた切り傷を発見する度、その痛々しい裂傷、そして彼女自身から目を背けたくなってしまうのだ。
そんな僕に、彼女はまたやっちゃった、なんて言いながら消え入りそうな微笑みをむけるのだった。彼女は一体、何と戦っているのだろう、と僕はそのつど思う。