好きな人に対して素直になれず意地悪してしまう幼馴染に辟易しているので、陰謀に巻き込んでやりました
※ヒロインの性格が非常に悪く、不快な表現がありますのでご注意ください。
伯爵令嬢ルクレツィア・ヴェーラ・ディ・ボルゲーゼには悩みがある。
それは、幼馴染である伯爵令息ウリッセ・コジモ・ディ・バリオーニのことだ。
ある日の夜会にて。
「よう、ルクレツィア」
「……ご機嫌よう」
ルクレツィアはウリッセに声をかけられ表情を少しだけ顰め、タンザナイトのような紫の目を曇らせる。
「そのドレス……相変わらずちんちくりんだな。髪飾りも全っ然似合ってない」
ウリッセはルクレツィアの姿を見てニヤニヤとしている。
ルクレツィアはこの夜会に隣国であるナルフェック王国の質の良い絹糸を使った淡い桃色のドレスを身にまとっている。現在このアリティー王国で流行しているドレスなのだ。
栗毛色の髪には、ルクレツィアの目の色と同じタンザナイトの髪飾りを着けている。
ボルゲーゼ伯爵家の両親や兄達にはとても似合っていると言われたし、友人達にも評判が良い。
しかし幼馴染のウリッセだけは、似合っていないとルクレツィアを貶すのだ。
「ルクレツィア、お前は雑草でも頭に生やした方がお似合いだぞ」
やや小馬鹿にするような表情でそう言うウリッセ。
幼少期から彼はルクレツィアに対してこうなので、もう辟易としていた。
関わりたくなくても、ウリッセの方から絡んで来て大迷惑なのだ。
両親や周囲曰く、ウリッセはルクレツィアが好きなのだが素直になれないらしい。ルクレツィアからしたら、そんなの知るかという感じである。しかし周囲はルクレツィアに笑って許してあげなさいと言うのだ。
(どうして私がウリッセを許さないといけないのよ)
ルクレツィアは盛大にため息をついた。
そしてこの夜会が終わった後、ウリッセと極力関わらないようにする為に王宮に行儀見習いに行くことにした。
アリティー王国王宮の行儀見習いのスケジュールはかなり詰め込まれており、朝から晩までマナーの勉強等をすることになっている。
王宮の行儀見習いを終えた年上の令嬢達は、厳しく自由時間が取れないが教養が身に付きとても為になると言っていたのだ。
(それだけハードなスケジュールなら、ウリッセに会う時間もなくなるでしょう。それに、教養が身に付くのなら一石二鳥だわ)
ルクレツィアは王宮へ行儀見習いに行く日が楽しみだった。
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ルクレツィアが王宮へ行儀見習いに行き、数ヶ月が経過した。
確かに言われた通り色々と詰め込まれた厳しいスケジュールだが、教養が身に付いている実感がある上何よりウリッセとほとんど顔を合わせなくなったので快適だった。
更に、思わぬ出会いもあったのだ。
「ルクレツィア嬢」
「アンドレア様」
名前を呼ばれたルクレツィアは表情を明るくする。タンザナイトの目はキラキラと輝いている。
アンドレア・マッシモ・ディ・マラスピーナ。マラスピーナ侯爵家の長男だ。長身でブロンドの髪にラピスラズリのような青い目で、端正な顔立ちだ。年齢はルクレツィアより一つ年上で十七歳である。
「休憩かい?」
「ええ。アンドレア様はどういったご用で王宮に?」
「王宮の図書館に借りた本を返しに来たんだ」
「左様でございましたか。どのような本をお読みになったのです?」
ルクレツィアの声は明るく弾んでいた。
こうしてアンドレアに会えることが楽しみになったのだ。
「希少金属についての本だよ。ほら、君も知っているだろう? バリオーニ伯爵領で希少金属が採掘されることを」
「ええ……」
バリオーニ伯爵家の領地の話になりルクレツィアは少しだけ表情を引きつらせた。
バリオーニ伯爵家はウリッセの生家なので、彼の顔が一瞬脳裏をよぎってしまったのだ。
(もう最近はほとんどウリッセと顔を合わせていないじゃない。私の貴重な時間をウリッセに使いたくないわ)
ルクレツィアはウリッセを脳内から追い出した。
「サヴォイア王家は新たに希少金属を取り扱った事業で利益を得たいみたいでね」
「ええ。ヴァレンティーナ王女殿下が仰っておりましたわ」
ルクレツィアはふふっと笑い、アンドレアと談笑する。
「あら? 私がどうかしたの?」
そこへ、品の良いソプラノの声が聞こえた。
「「ヴァレンティーナ王女殿下……!」」
ルクレツィアとアンドレアは王女の登場に驚きつつも、カーテシーやボウ・アンド・スクレープで礼を執ろうとしたが、「そのままで良いわ」とヴァレンティーナに止められた。
ヴァレンティーナ・ダニエラ・ジョヴァンナ・ディ・サヴォイア。アリティー王国を治めるサヴォイア王家の第二王女である。
夕日に染まったようなストロベリーブロンドの髪に、エメラルドのような緑の目は、サヴォイア王家特有のものだ。彼女はまるで美術品のような美貌の持ち主である。
年齢はルクレツィアよりも一つ上の十七歳。アンドレアと同い年だ。
「アンドレアとルクレツィア、二人共仲良くなったのね。とても良い雰囲気よ。もしかして、もう婚約間際とか?」
クスクスと悪戯っぽく、かつ品良く笑うヴァレンティーナ。
「殿下、揶揄うのはおやめください。僕としては嬉しいことですが」
「そんな、アンドレア様と婚約だなんて畏れ多いですわ。って、え……!?」
ルクレツィアとアンドレア、二人揃って赤面する。
そしてルクレツィアはアンドレアの言葉にタンザナイトの目を大きく見開いた。
実質告白されたようなものである。
「あ……!」
アンドレアもそれに気付き、ラピスラズリの目を大きく見開く。
「仲睦まじいこと。とりあえず私は邪魔でしょうから、後はお二人で楽しんでちょうだい」
ヴァレンティーナは相変わらずクスクスと悪戯っぽく、かつ品良く笑い立ち去るのであった。
残されたルクレツィアとアンドレアは頬を赤く染めて少しだけ気まずそうに互いに目をそらしてしまう。
「えっと……ルクレツィア嬢、こんな形で申し訳ないけれど、僕は……君が好きなんだ。……僕との将来、考えてくれると嬉しいな」
ラピスラズリの目が、真っ直ぐルクレツィアに向けられる。
ルクレツィアは頬を赤く染めたまま、コクリと頷く。
「私で良ければ、喜んで」
「……! ありがとう、ルクレツィア嬢……! 近々、ボルゲーゼ伯爵家に挨拶に行くよ」
「お待ちしておりますわ」
好意を寄せていたアンドレアと想いが通じ合ったルクレツィアは、幸せいっぱいだった。
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しかしアンドレアと想いが通じた数日後、王宮にて再びウリッセが再びルクレツィアの前に現れた。
「久し振りだな、ルクレツィア」
「え……!? どうして……!?」
王宮の廊下にて、絶対に会いたくなかった人物が目の前にいることにルクレツィアは絶望した。
「王宮の騎士団に入ったんだよ。お前が行儀見習いに行ってるから、王宮の騎士団も緩いのかなって思ってさ」
ニヤニヤと笑うウリッセ。
どうしてそんな考えになるのか理解不能である。
「というか、お前が王宮で行儀見習いって、絶対落ちこぼれになってるだろ。身の程知らずだな」
ウリッセはルクレツィアを小馬鹿にしたように笑う。
(せっかくの休憩時間なのに。ウリッセの相手なんかしたくないわ)
ルクレツィアは不機嫌を隠さずにその場を立ち去ろうとする。
「おいルクレツィア、どこ行くんだよ?」
「もう休憩時間が終わるのよ。次はヴァレンティーナ王女殿下とのお茶会なの。私に遅刻しろと? 王女殿下に失礼を働けと言うのかしら?」
刺々しい声だった。
王族の名前を出したら流石のウリッセも諦めたようで、ようやくルクレツィアは解放されるのであった。
(まあ、ヴァレンティーナ王女殿下とのお茶会は嘘ではないけれど)
ルクレツィアはため息をついた。
時々行儀見習いに来ている令嬢達はヴァレンティーナとのお茶会がある。このお茶会はマナーや所作の確認の場にもなっているのだ。
「ルクレツィア、あれはバリオーニ伯爵家のウリッセね?」
「ヴァレンティーナ王女殿下……!」
突然ヴァレンティーナが現れ、ルクレツィアは驚いてビクリと肩を震わせた。
「そういえば、ボルゲーゼ伯爵領とバリオーニ伯爵領は隣接していたわね。もしかして、ウリッセと交流があるの?」
グイッとヴァレンティーナから顔を近付けられ、ルクレツィアは思わず後ずさりしながら頷く。
「ええ。……一応幼馴染ですが」
「そう。でも、ルクレツィアはあまり彼のことが好きではなさそうね」
「まあ、幼い頃から暴言を吐かれたりしていましたから。周囲はウリッセが私を好きで、素直になれないだけだから許してやれと言われていますが、絶対許せるはずありません。むしろ、関わりたくないです。……あ、申し訳ございません。王女殿下にこんなこと……」
「気にしないでちょうだい」
ヴァレンティーナは上品かつ優しい笑みを浮かべた。
それにルクレツィアはホッと胸を撫で下ろす。
ヴァレンティーナはゆっくりと腕を組み、右手を頬に当てる。
「なるほど、ルクレツィアはウリッセが嫌い……。これは丁度良いわね」
ヴァレンティーナは何かを企んでいるような悪い笑みを浮かべていた。
「ねえルクレツィア、少し協力して欲しいことがあるのだけど」
「……何でございましょうか?」
ヴァレンティーナの悪い笑みに、ルクレツィアはゴクリと唾を飲み表情を硬くした。
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数日後。
ルクレツィアは書類を抱えて王宮の廊下を歩いていた。
「よう、ルクレツィア」
騎士団は休憩中らしく、ウリッセが声をかけて来た。
しかし、ルクレツィアはウリッセを無視して歩いている。
「おい、無視するなよ」
無視されたことで苛立ったのか、ウリッセの声には棘があった。
ウリッセはルクレツィアの進行方向に立ち塞がる。
「退いてちょうだい」
「嫌だね。ルクレツィアの分際で俺を無視するんじゃねえよ」
「私は急いでいるの」
「どうせ大した用事じゃないだろう? お前なんか、行儀見習いの令嬢達の中でもきっと落ちこぼれだろうし」
いつものルクレツィアを小馬鹿にするような表情だ。
無視して再び歩き出そうとすると、今度はウリッセから無理やり腕を掴まれた。
「きゃっ……!」
それによりルクレツィアはバランスを崩し、転んでしまう。
抱えていた書類は四方八方に舞い散ってしまった。
ルクレツィアはキッと鋭くウリッセを睨む。
「何だよ? お前が鈍臭いのが悪いんだろう?」
ウリッセはやや怯みながらも、ニヤニヤと笑っている。
その時だ。
「一体何をしているの!?」
鋭く、かつ品のあるソプラノの声が響き渡った。
ヴァレンティーナである。
ヴァレンティーナはルクレツィアの元へ駆け寄った。
「王女殿下」
「ルクレツィア、怪我はないかしら?」
「ありがとうございます。大丈夫です」
「なら良かったわ」
ヴァレンティーナはホッと胸を撫で下ろしたようだ。
そして、ウリッセに絶対零度のような視線を向ける。
「貴方、バリオーニ伯爵家のウリッセね。ルクレツィアに何をしたの? ルクレツィアは私が必要としている書類を運んでいたのよ。遅いから何かあったのかもしれないと見に来たら、この状況」
「えっと、その……」
ヴァレンティーナに詰められてしどろもどろになるウリッセ。
「ルクレツィアの邪魔をしたということは、王族である私の邪魔をしたと同然。王族の邪魔をする。これは国家反逆罪に値するわ!」
ヴァレンティーナの品の良いソプラノの声が周囲に響き渡る。
それにより、近くにいた騎士団の者達などがヴァレンティーナに忖度し、ウリッセを拘束する。
ウリッセはまさかこんなことになるとは思っておらず焦る。
「国家反逆だなんて、違います! 俺はただルクレツィアと話をしようとしただけで!」
「ルクレツィアから聞いているわ。貴方は彼女に暴言を吐くだけの価値のないゴミだと」
「ルクレツィアが……!? ルクレツィア、嘘だよな……!?」
ヴァレンティーナの言葉に、ウリッセは絶望したような表情を浮かべルクレツィアに縋るように目を向ける。
「嘘ではないわ。正直、ずっと貴方には辟易していたのよ。もう二度と顔を見たくないもの」
ルクレツィアは冷たくそう言い放った。
「そんな……。俺はただ、ルクレツィアが好きなだけなのに……」
ウリッセの声はルクレツィアに何も響かない。
「ウリッセの癖に何を言っているのかしら」
ルクレツィアは冷たいタンザナイトの目でウリッセを見ている。
「さあ、早く反逆者の処刑の準備を。バリオーニ伯爵家も取り潰し確定ね。バリオーニ伯爵領はマラスピーナ侯爵家に管理させること。国王陛下の許可も出ているわ」
ヴァレンティーナの言葉に、周囲は迅速に動き出す。
これから処刑されることになったウリッセは何かを叫んでいる。
「さっさと処刑されて死ねば良いのに。ウリッセが死ぬの、楽しみだわ」
ルクレツィアは今の状況が面白くて仕方なかった。
「私に不快な思いをさせるウリッセは死んで当然」
それがルクレツィアのウリッセに対する思いだった。
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「それにしても、こんなに上手く行くとは思わなかったわ」
ウリッセの処刑が終わった後、ヴァレンティーナはクスクスと笑っている。
「ウリッセが死んで、アンドレア様の生家マラスピーナ侯爵家が希少金属事業を始めることが出来てサヴォイア王家の利益にもなる。まさに一石二鳥ですね。バリオーニ伯爵家が取り潰しになったことでウリッセを生み育てた伯爵夫妻にも責任を取っていただけましたし」
ルクレツィアは晴れやかな表情だ。
「ルクレツィア嬢のご両親は驚いていたけれど、僕らの結婚が認められて良かったよ」
アンドレアは上品な動作で音もなく紅茶を啜る。
現在ルクレツィアはアンドレアと共に、王宮にあるヴァレンティーナの私室に招かれているのだ。
「バリオーニ伯爵家は領地経営が凡庸で、希少金属が採掘される領地なのに上手く利益を出せていなかったのだもの。それだったら、マラスピーナ侯爵家に領地経営してもらった方が、サヴォイア王家やアリティー王国全体の利益になるわ。私は来年、ウォーンリー王国の王家に嫁ぐことになるけれど、その前に国や生家の為に動けて良かったわ」
ヴァレンティーナは相変わらず品の良い笑みを浮かべている。
実はサヴォイア王家は、王家や国の利益の為にバリオーニ伯爵領をマラスピーナ侯爵家に管理させようと画策していたのだ。
無理矢理乗っ取れば、サヴォイア王家への批判が強まり王家に刃向かう貴族や平民が増えることは必至である。
そこで、サヴォイア王家はマラスピーナ侯爵家と共に、自然な理由でバリオーニ伯爵家を潰す方法を画策していた。
そんな時期に王宮の行儀見習いとしてやって来たルクレツィア。
ウリッセがルクレツィアに暴言を吐き、ルクレツィアがウリッセを嫌っていることを知ったヴァレンティーナは二人の関係を使おうと考えた。
そこで、ルクレツィアに事情を話し、協力を要請した。
ウリッセが嫌いなルクレツィアは最初はその陰謀に驚いたが、ウリッセを処刑出来るので喜んで協力したのである。
ちなみに、ルクレツィアとアンドレアが出会い、仲を深めたのは単なる偶然だった。
「それにしても、ウリッセは僕の愛しのルクレツィアが好きだったなんて。本当に愚かだよね。好きなら優しくしたら良かったのに。好きな人に優しくできず意地悪をしてしまうなんて、病気なのかな? 頭がおかしいとしか思えない。そんな奴は死んで当然だ」
呆れたような表情で椅子に深く椅子にもたれるアンドレア。
「アンドレア様、ウリッセの話はやめましょう。私、もっと楽しいお話がしたいですわ」
ルクレツィアはそう笑った。
暴言を吐く鬱陶しい幼馴染から解放されたルクレツィア。本当に愛する人と結婚出来るので心底幸せなのである。
読んでくださりありがとうございます!
少しでも「ウリッセざまぁ!」、「ルクレツィア、性格悪過ぎ!」と思った方は、是非ブックマークと高評価をしていただけたら嬉しいです!
皆様の応援が励みになります!
ちなみにこちらはこの物語のと同じ国で、孫世代の物語です。
『このパーティーは国民の血税で開催しています。それを婚約破棄という個人的な理由で台無しにした責任は取ってもらいますわ。』
https://ncode.syosetu.com/n7603id/
『毒蜘蛛は可憐な蝶を欲する』
https://ncode.syosetu.com/n2614io/




