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異世界で見つけた、父になる理由  作者: おこげ


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5/12

初めての仕事

高橋は商人の男――ガルドの屋台の横に立ち、緊張しながら説明を聞いた。

「まずは品物の数を確認し、値段を計算するんだ。正確さが一番重要だ」

広場の喧騒が少し遠く感じられる。

屋台にはパン、野菜、果物、乾物などが整然と並び、ガルドが指示を出すたびに客がやってくる。

初めての仕事に、高橋の手は少し震えていた。

「じゃあ、君。リンゴを三つ買う人が来たら、いくら払うのか計算してみろ」

高橋は静かにコインを思い浮かべ、頭の中で計算する。

「三つで五デナール…一つなら二デナール…なるほど」

声には出さず、指で空中に数をなぞるようにして確認した。

するとガルドが頷く。

「よし、その調子だ。次は実際に計算してみる」

客が近づいてくる。小さな女の子と母親だ。

「パンを二つください」

女の子が母親の手を引きながら言う。

高橋は頭の中で数を確認し、口に出す。

「二つで六デナールです」

女の子の母親が小さな銅貨を差し出す。

高橋は少し手が震えながらも、正確に受け取り、パンを渡した。

その瞬間、胸の奥に小さな達成感が広がった。

観察していただけでは得られない、実際に役立つ感覚だ。

ガルドは横で微笑み、声をかける。

「悪くない。君には計算の才能と、冷静に数字を扱う能力がある」

高橋は自分でも驚いた。

知らない町に突然放り込まれ、まだ状況を完全に理解できない中で、こうして役割を与えられることが、思った以上に心地よい。

時間が経つにつれ、少しずつ客の対応にも慣れてきた。

リンゴの束、パン、野菜――物の種類によって、コインの数を計算する手順を覚えていく。

数を間違えそうになることもあるが、ガルドがすぐに助けてくれる。

広場の通りを見渡すと、子供たちが遊び、犬が駆け回り、屋台の掛け声が響く。

高橋はその中で、静かに役割を果たす自分の姿を感じた。

「観察しているだけじゃ、何も始まらない…こうして動くことで、この町の生活が少しずつ理解できるんだ」

夕方になり、広場の光が柔らかく傾いてくる。

高橋は手元の計算用具を片付け、ガルドと一緒に屋台を整理する。

一日の終わり、疲れはあるが、心地よい充実感が胸に残った。

初めての仕事を通じて、この町で生きるための感覚を少しずつ掴んだのだった。


夕暮れの広場。屋台の整理を終えたガルドは、高橋を静かに見つめた。

「ところで、君はどこから来た?」

高橋は少し戸惑った。

この世界で自分のことを話すのは初めてだ。

「ええと…私が住んでいたのは…遠く離れた国で、現代の世界、地球と呼ばれるところです。職業は会社員で…妻と子供が二人います」

ガルドは眉をひそめることもなく、静かに頷いた。

「ふむ、なるほど。外国から来たのではなく、他の世界から来た者、というわけか」

高橋は息を整える。

「でも…どうして、ここに?」

ガルドは軽く笑った。

「それは誰にも完全にはわからん。だが、こういうことはまれにある。異世界から人が来ることは、まれだが、まったくないわけではない」

高橋は驚く。

「まれに…?」

「そうだ。君のように、他の世界の者が突然現れることは、過去にも何度かあった。皆、最初は戸惑い、すぐには生活に馴染めなかったが、時間をかけてこの町の生活を学び、生きていった」

高橋は静かに頷く。

自分が異世界に来たことが、決して完全な異常ではないと知り、少し安心した。

ガルドは広場を指さした。

「さて、君が生きていくには、まずこの町を理解することだ。ここはリューネン、城下町の外れにある小さな町。人口は三千ほどで、市場や井戸、橋、掲示板など、日常生活に必要な設備は揃っている」

高橋は町を見渡す。石畳、木造の建物、行き交う人々、屋台――

「なるほど…この町には生活のリズムがあるんですね」

ガルドは頷き、続ける。

「通貨はデナール。銅貨は日用品、銀貨は高価な取引に使う。夜間は門が閉まること、井戸や橋の使用は順番があること、掲示板の情報は必ず確認すること――生活の基本はこのルールに従う」

高橋は頭の中で整理する。

自分がどこから来たのか、なぜここにいるのかはまだ完全には理解できない。

しかし、ガルドの言葉と目の前の光景を照らし合わせることで、異世界での生活の土台が少しずつ見えてきた。

「まれに異世界から来る者…自分もその一人として、この町で生きるために学ぶしかないんだ」

高橋は深く息を吸い込み、夕暮れの広場を見渡した。

異世界リューネンでの生活はまだ始まったばかりだが、町の名前と基本を知り、生活の仕組みを理解したことで、少しずつこの世界に順応する実感が芽生えたのだった。

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