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異世界で見つけた、父になる理由  作者: おこげ


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3/12

異世界の静かな朝

高橋は目を覚ました。

見慣れぬ天井が頭上にある。

木目が荒く、ところどころに節があり、見慣れた自宅の天井とは全く違った。

「……ここは…?」

呟いた瞬間、全身に小さな震えが走った。

布団の感触は柔らかく暖かい。だが、それ以上に胸の奥がざわつく。

体を起こすと、周囲にある家具はどれも簡素で、形も粗く、生活感はあるものの自宅のものとは似ても似つかない。

椅子の作り、窓の鍵の形、床板の感触――すべてが自分の知っている世界の常識と微妙に違っていた。

「なんで…こんな場所に…俺は…?」

言葉が喉で詰まる。

昨日の夜の記憶をたどろうとする。

会社、雨、帰宅――その先が、途切れた。

覚えているはずの家のドアやリビングはない。

いつもと同じはずの自宅にいると思ったのに、目の前の景色はまったく知らない空間だった。

高橋は布団から体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。

心臓が早鐘のように打ち、手のひらが少し汗ばんでいる。

窓の外を見ると、柔らかい朝の光が差し込むが、木々の葉の揺れ方や影の落ち方が、自宅の窓辺とは違っている。

空気もどこか冷たく湿り、呼吸するたびに、頭の奥で違和感がくすぶる。

「どういうことだ…これは夢…なのか…?」

頭を振っても答えは出ない。

自分の手を見下ろす。正常だ。体も痛みはない。

だが、心の中は混乱の渦で満たされていた。

ここは誰の家なのか、どうして自分がここにいるのか――

考えようとすればするほど、疑問が次々と浮かんでくる。

歩みを進めると、家の外から鳥のさえずりや、遠くで水を汲む音が聞こえてきた。

建物は木造で、屋根の形も独特。小道は石畳が敷かれ、舗装された道路とは違う。

どこか懐かしい雰囲気もあるが、それは決して知っている町の景色ではなかった。

心の奥で、小さな過去の記憶がざわつく。

母子家庭で育った自分。

母は働き詰めで、抱きしめてもらった記憶は少ない。

学校から帰ると、誰もいない部屋で一人宿題をする日々。

「愛情」を感じるのは、時折作ってくれるお菓子や、寝る前の「おやすみ」の言葉だけだった。

その記憶が、今の胸の奥でじわりと疼く。

愛情を知らない子供時代、そして家庭を持ってもまだ与えきれない父親としての自分。

目の前の不思議な景色は理解できないが、心のどこかで、自分の足りないものと向き合わされている気がした。

高橋は石畳の道に足を踏み出す。

まだ自分がここで何をすべきか、どこに向かうべきかはわからない。

ただ、違和感の中にある冷たい空気や、見知らぬ景色を確かめるように、一歩一歩踏みしめながら歩くしかなかった。


石畳の道を歩きながら、高橋は周囲を見回す。

木造の家々はどれも小さく、煙突から煙がゆらりと立ち上る。

屋根の色や形も統一されておらず、同じ町の中で微妙に違う。

窓からは、誰かの声や生活音がかすかに漏れてくるが、言葉は聞き慣れない響きだ。

道の両側に並ぶ家々の間には、小さな庭や花壇があり、色とりどりの花が咲いている。

水路が家の脇を流れ、石の橋がいくつもかかっていた。

足元に敷かれた石畳は滑らかだが、少し不揃いで、歩くたびに小さな音を立てる。

高橋は立ち止まり、深く息を吸う。

空気の匂いが、自宅のそれとは明らかに違う。

湿った土の香り、木の香り、草や花の香り。

風に乗って遠くからパンを焼く匂いのようなものも漂い、五感が刺激される。

「…夢なのか、それとも…」

疑問が頭を巡る。

昨日までの生活、雨、駅からの帰宅――その記憶と、この見知らぬ町の光景が重ならない。

まるで、自分だけ時間や場所を置き去りにされたような感覚。

だが、体は確かにここにあり、痛みも疲労も現実的だ。

歩きながら、ふと足を止める。

道端の小さな石に手を触れると、冷たく硬い感触が指先に伝わる。

水路の水は澄んでいて、指先に触れるとひんやりとした感覚が広がる。

その一瞬、現実世界の水道の水と比べて違いを感じた。

高橋は自分の胸の奥に、微かに芽生えた不安を押さえ込むように歩き続ける。

この世界で何をすべきか、どう行動すればいいのか、まったく見当もつかない。

ただ、目の前の景色を確かめ、体を動かすことで、少しでも現実感を得ようとしていた。

町を歩くうちに、徐々に生活音が増えてくる。

遠くで馬車の車輪が石畳を転がる音。

井戸で水を汲む音。

屋根の上で鶏が鳴く声。

見慣れない音に神経が研ぎ澄まされ、心臓の鼓動が早くなる。

ただ、高橋の足は自然と町の中心へ向かっていた。

広場のような場所に近づくと、遠くに人影や屋台のようなものが見える。

まだ誰とも接触せず、声もかけられない。

だが、体の緊張は少しずつ解け、歩くこと自体が、この世界で生きていく第一歩のように感じられた。

小道を曲がるたび、視界に新しい景色が飛び込んでくる。

木の香り、石畳の冷たさ、遠くで水を汲む音。

すべてが新鮮で、胸の奥のざわつきと混ざり合い、異世界にいることを徐々に実感させる。

高橋は自分に言い聞かせる。

「焦るな…まずは、この世界を知ることだ…」

混乱と戸惑いの中、ゆっくりと歩き続ける。

足元の石畳を踏みしめるたび、少しずつ自分の存在が、この世界に紛れ込んでいることを意識させられる。


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