第1話 無能力者として召喚された日
目を開けたとき、天井が高すぎると思った。
白い石でできた天井。
知らない紋様。
空気が、少し冷たい。
「……ここ、どこ?」
声は、ちゃんと出た。
それだけで、少し安心してしまった。
前の世界での私は、
声を出す前に息切れしていた。
足腰が弱く、長く立っていられない。
働けず、社会の役にも立てず、
部屋の中で時間だけが過ぎていく毎日。
誰かに迷惑をかけないように。
何も期待されないように。
ただ、静かに生きていた。
だからだろうか。
この見知らぬ場所で目覚めても、
恐怖より先に「大丈夫かもしれない」と思ってしまったのは。
周囲には、同じくらいの年の子たちがいた。
緊張した顔、興奮した顔、不安そうな顔。
全員が、祭壇の奥を見ている。
そこに立つ大人たちが、はっきりと言った。
「勇者候補の召喚は、成功した」
胸が、きゅっと縮んだ。
勇者。
そんな言葉、私には似合わない。
順番に、能力を測られていく。
水晶が輝き、歓声が上がる。
剣の適性、魔力の数値、希少なスキル。
私の番が来た。
水晶に手を触れる。
……光は、ほとんどなかった。
「ステータス、最低値」
「スキル、確認できず」
「戦闘適性なし」
誰かが、気まずそうに視線を逸らした。
不思議と、頭は真っ白にならなかった。
むしろ、胸の奥が――少しだけ、軽くなる。
ああ、戦わなくていいんだ。
その判断は、早かった。
「戦力外は、王都に置けない」
「郊外の村へ回そう」
淡々と決まり、淡々と告げられる。
紙に名前を書かれ、
最低限の持ち物を渡された。
「仕事は、雑用程度だ」
「期待はしない」
それで、十分だった。
馬車に乗せられるとき、
振り返って城を見る。
ここで英雄になる未来は、
最初から私にはなかった。
でも。
村、と聞いて。
胸の奥が、少しだけ温かくなる。
誰にも期待されない場所。
誰かの後ろで、静かに生きられる場所。
それなら、きっと。
私は、そこで生きていける。
馬車が動き出す。
遠ざかる城を見ながら、
初めて、深く息を吐いた。




