表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

名探偵コナン二次創作小説『米花町クリスマス事件』(クリスマス限定特別短編)

掲載日:2025/12/25

※本作は『名探偵コナン』の二次創作であり、原作者、出版社、公式とは一切関係ありません。本作の制作にあたり、左記の事項を遵守します。


一、本作は非営利とします。

二、本作は原作のイメージを損なわない内容とします。

三、本作は原作へのリスペクトを持って執筆します。


【あらすじ】

十二月二十四日、クリスマスイブ。いつものように米花町を歩いていたコナン、元太、歩美、光彦、灰原たちは、町の人々に次々と善行を繰り返す一人の老紳士と出会う。だが、その老紳士の不可解な行動に、何か重大な陰謀があると推理するコナンは、老紳士の後を追うのだった。



 【本文】


松明に灯された二枚扉が勢いよく開く。「米花町クリスマス事件」と、音楽とともにコナンが叫ぶ。


十二月二十四日、クリスマスイブ。米花町の商店街は、凍てつくような寒空の下、それ以上の熱気に包まれていた。広場には宝石を散りばめたような巨大なクリスマスツリーが鎮座し、街路樹のイルミネーションが人々の頬を色鮮やかに照らしている。香ばしいチキンや甘いケーキの香りが漂い、ショーウィンドウには子供たちの夢が詰め込まれていた。

「今日はクリスマスイブですね〜」

「だな〜」

光彦と元太が、弾むような声で歩く。その後ろを歩美が続き、夢見るような瞳で言った。

「わたし、サンタさんに欲しかったお人形さんとプリンセスのドレスをお願いしているの〜」

「オレは、仮面ヤイバーの限定フィギュアに、カードデッキ、ドローン、それから……うな重だ!」

「元太くん、そんなにサンタさんに欲しいものお願いしちゃダメですよ~」と、光彦が苦笑いするが、元太はどこ吹く風だ。

「いいじゃねぇか! だってよ、クリスマスは一年に一度、サンタに自分の欲しいものをもらえる日なんだぜ!」

「そうよ、光彦くん」と、元太に同調する歩美。

「そう言う光彦も、サンタに何か欲しいものお願いしているんだろ?」と、すかさず元太が光彦に反論する。

「えぇ……まぁ……えっとー」と、光彦は照れ隠し。

「ねぇ、光彦くん、何をお願いしたの?」

「まぁ、一応科学の本二冊と『ドラドラクエスト』のゲームをですね……」

「光彦も結構あるじゃねぇか!」

「元太くんほどじゃないですよー! 第一、サンタさんにうな重をお願いする人なんていないですよ!」

「いいだろ別によ! 去年のクリスマスもちゃんとサンタにうな重もらったんだからよ」 

元太の話に少し引いている光彦と歩美。そんな賑やかな三人の後ろを、コナンと灰原が冷めた目で見つめながら歩いていた。

「まったく、子どもたちは浮かれていていいものね」 

灰原の皮肉に、コナンが応じる。

「オメェも子どもなんだから楽しめよ。欲しいものをお願いしたら、どっかのサンタさんがくれるかもしれないぜ?」

「あら、じゃあフサエブランドのブローチをお願いしようかしら」 

コナンは、白いひげの恰幅のいいおじさんを思い浮かび上がらせる。

「(それは……たぶん無理だろ……)ったく、それ以外に本当に欲しいものとかねぇのかよ?」

コナンが何気なく問いかけると、灰原は足を止め、隣を歩くコナンを横目でじっと見つめた。その瞳には、いつもの冷徹さとは違う、切ない熱が宿っている。

「……あるのはあるんだけど。鈍い誰かさんのせいで、それは無理かもしれないわね」

「鈍い誰かさん?」

「(そう……あなたよ、工藤くん)」

灰原は小さくため息をつき、顔を薄く赤らめた。だが、コナンは静かに眼鏡を光らせる。

「なぁ、灰原……俺も前から薄々気づいてはいたんだけどよ……オメェ、最近いつもスマホでフサエブランドの腕時計ばかり眺めていただろ。つまり、オメェが今一番欲しいのはそれだろ。どうだ、当たりだろ?」

「はぁ~?」

キザな笑みを浮かべるコナンに対し、灰原はあきれ果てた。

「(私が本当に望んでいるのは、あなたとこのままずっと一緒に、できるだけ側に居られることなのに……)」 

寂しい気持ちをコナンに見せないように、灰原はすぐさま態度を変える。

「それじゃあ江戸川君、あなたの欲しいものは何よ!」灰原の急な問いに、コナンは自信たっぷりに目の前の灰原を指差した。

「あぁ、あるぜ。そこにな」

「えっ……!(急になんなの……!)」

再び動揺し、顔を真っ赤にする灰原。コナンはにっこりと微笑み、手のひらを灰原に向かって差し出した。

「試作品の解毒薬。ストックがもうねーんだよ。最近オメェ、妙にイライラしてたから、なかなか言い出せなくてよ~ちょーだい」 

灰原の顔から一気に血の気が引き、次の瞬間、激しい怒りがこみ上げた。

「妙にイライラって……別にしてないわよ! あのね、もう今年は絶対にあげないんだから!」

「ええっ~そんな~! クリスマスなんだから特別にくれよ~!」

「イヤったら、絶対にイーヤ!」

「なんだよ、また機嫌悪くなってよ~」

「江戸川君、あなたもちょっとね、女の子の気持ち考えた方がいいわよ」

「女の子って……オメェ……」

二人が言い合っていると、後ろから蘭と園子がやってきた。

「は〜ぁ〜い、ボーイズアンドガールズ」

「あら、コナン君、哀ちゃん」「あっ、蘭ねぇちゃん!」

 蘭の元へ嬉しそうに駆け寄るコナンたちの温かな光景。灰原はその光景を見ながら、一人両手に息を吹きかけ擦り合わせた。少年探偵団と蘭たちは、広場の巨大ツリーを見に行くことにした。

道中、話題は「サンタへのお願い」になる。


「ねぇ、みんなはサンタさんにはもうプレゼント何かお願いしたの?」 

蘭の問いに、元太・歩美・光彦は自信満々に答える。

「おう! そんなのもうとっくに!」

「お願いするもの決めちゃっているもんね〜」

「サンタさんに渡す手紙ももう書き終えてます!」

「そうなんだ、それはよかったわね」と、蘭は笑顔で返す。

「なんたって、俺たちはよーいのシュートだからな」

「元太くん、それを言うなら用意周到です」

「ちなみに園子お姉さんは、サンタさんに何をお願いするのー?」

歩美の純粋な問いに、蘭と園子は互いを見て笑みを浮かべる。

「なんだよ、教えろよ!」と、元太。

「今後の参考までに教えてください」と、光彦。

「そうねぇ〜。私が今欲しくてお願いしたいのは、今日のクリスマスイブにしか買えない限定のジゴバのブラックチョコタルトかな。まぁ~でも、パパがそこのオーナーと知り合いだから毎年もらえるんだけどね」

「へぇ〜いいな〜」と三人は声をあわせた。

「ブラックチョコタルト、大人の味ってやつだな」

「元太くん何言っているんですか……」

「やっぱうな重じゃなくて、俺もチョコタルトにしようかな〜」

「チョコタルトなら食べたいです〜」

「蘭お姉さんは?」と、歩美。

「えっ、私?」

「そーだ、蘭ねぇちゃんの欲しいものって何だ?」

「ねぇ、教えて~」

「園子お姉さんのより気になります!」

「(このガキンチョども……)」


三人からの純粋な問いに、蘭は少し戸惑いながらも、ふと心の中で新一のことを思い浮かべた。すかさず園子が茶化す。

「私が今一番欲しいのは新一、あなたの愛、ただそれだけよ……なんつって!」

「もう、園子ったら!」

赤くなって反論する蘭。コナンもまた、夕日のせいにはできないほど顔を赤くしていた。



そこへ、一人の老紳士が通りかかった。名を三田みたという。

「ほぉ〜、この町のクリスマスはまた一段と盛り上がっていますね」

感動して立ち尽くす三田に、歩美が話しかける。

「ねぇ、おじさん、この町の人?」

「いやいや、私はちょっとした用事でこの町を訪れただけなんだよ」

後ろから顔を出すコナン、灰原、元太、光彦、蘭、園子。

「おじさん、ここは米花町って言う町なんだよ」

「あぁ、米花町。もちろん知っているよ! 有名な町だよね」

「えー、米花町ってそんなに有名なんですかー?」と、驚く光彦。

「よくテレビのニュースで見かけるからね」

「(まぁ、よく事件が起きるし、そりゃそうなるわな)」と、コナンは呆れ笑い。

「君たち、クリスマスは好きかい?」と、急に三田がみんなに尋ねる。

「もちろんだぜ!」

「大好きー!」

「毎年楽しみです~」元太・歩美・光彦は笑顔で答えた。

「そうかいそうかい! それはよかった。 あっ、そうだ! 君たち、よかったらこれをプレゼントするよ」

三田は、手に持っていた袋の中から、小さなリボン付きのプレゼント箱をみんなに手渡す。

「えーいいのか!」

「もらっていいのー!」

「うれしいです~!」

と、三人は飛び跳ねるように喜んだ。

「ええ、いいですよ。今日はクリスマスイブだからね。それよりこんな独り身のジジイとおしゃべりしてくれてありがとう」

「おじさん、良い人だな」 

元太の言葉に、三田は少し表情を曇らせる。

「そんなに良い人ではないですよ私なんて……はい、君たちもどうぞ! メリークリスマス!」

コナン、灰原、蘭、園子も三田からプレゼントを受け取った。

「箱の中はなんだろう?」と、歩美。

「開けてごらんなさい」

「えーいいのー?」

「いいですよ」

「ボクらも開けてみましょう」

嬉しそうに箱を中を開け、中を確認する元太、歩美、光彦。

「うわぁ〜チョコタルトだ!」

「ホントだ〜」

「さっきから食べたかったんです〜嬉しいです〜」

園子が何かに気づく。

「ちょっと待って、これってさっき話してたジゴバのクリスマスイブ限定チョコタルトじゃない!」

「本当だ〜凄い偶然」と、蘭。

「私も一度食べたかったの。嬉しいわ」と、灰原。

「(みんなチョコタルトもらったくらいで……)」と、コナン。みんなは三田に感謝を伝えた。

「なぁ、灰原、あの人もしかしたら、相当な大金持ちかもな〜」

「え? どうしてそう思うの?」

「見てみろよ、おじさんが腰につけている車のキー、あれは高級車のエンブレムだし、それに手首につけているあの腕時計、きっと相当価値なブランド物の腕時計だろうな」

「あれって、フサエブランドの男性ものの腕時計じゃない!」

「あんな物身に着けて、みんなにはちょっと話したくらいで限定品の高級チョコタルトをくれるなんて……きっと、金持ちの施しってやつだな……」

そう冷静に推理するコナン。プレゼントを配り、微笑んでいる三田。

「ねぇ、おじさんは、クリスマスはサンタさんへ何か欲しいものをお願いするのー?」と、またもや歩美からの純粋な問い。

「えっ、僕がかい?」三田は少し困ったような、だが慈愛に満ちた顔で答えた。

「ああ、もちろん欲しいものはもう考えているよ。秘密だけどね」

「えーなになに? 教えてー」

「やっぱ、うな重か?」

「元太君じゃないんですから……」

笑い合う一同。ここで三田が腕時計で時間を確認する。

「もうこんな時間……では、私は次があるのでこの辺で失礼しますね」

みんなは改めて三田感謝を告げ、さよならをした。

「それじゃあみんな、素晴らしきクリスマスを!」 

三田が去った後、みんなともそこで解散した。

コナンと蘭は二人で帰り道を歩き出した。

途中、蘭がチキンとケーキを受け取りに店に入っている間、コナンはふと、先ほどの三田を見かけた。「(あのおじさん……やっぱり何か怪しい)」

コナンはみんなと解散した場所へ戻ると、近くに三田の姿を発見。

三田は、通りかかる子供たちにプレゼントを配り、お年寄りの横断を助けたり、寒さに震える男性にマフラーを譲るなど善行を繰り返していた。

「(あのおじさん、一体何が目的でこんなことを? きっと何か裏があるかもしれない)」

探偵の血が騒ぎ、コナンは三田を尾行し始めた。


ここで、松明に灯された二枚扉が勢いよく閉まり、前編が終了する。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



しばらくして、松明に灯された二枚扉が勢いよく開き、後編が動き出す。


コナンは尾行の末、広場のツリーの下で三田に追いついた。

「ねぇ、おじさん、ちょっと待って」

「あれ? 君は、確かさっきの……」

「江戸川コナン。探偵さ」

「探偵? 君、探偵なのか?」と、目を丸める三田。

「うん、まぁね」

「へぇ〜今の時代、君みたいな子どもでも探偵をやっているんだね。おじさん感心しちゃうな。それで探偵の君が私に何か?」

「聞きたいことがあるんだ。おじさんがこの町に来た本当の目的を。そして、さっきから絶え間なくやっているその善行の意味を。なぜだか知りたくなったんだ」 

コナンにそう告げられ、三田は荒れた呼吸を整える。

「なるほどね……あまり言いたくはないけど、実は私……サンタなんだよ」

「おじさん、ボクは探偵だよ」

「そうだったね。小さな探偵くん。ごめんよ……でも、君の質問に答える前に、先に私からも一つ質問を良いかな?」

「別にいいけど」 

三田は重いひざを曲げ、コナンの目線に合わせて向き合った。

「コナンくん、君にとってクリスマスってどんなものか教えてくれないか?」

「クリスマス? どんなものって……キリストの誕生日とか?」と、三田の質問の意図もわからぬまま、真面目に答えるコナン。

「大人みたいな考えだね」 

思わず苦笑いのコナン。

「まぁ……あとは……そうだな……」コナンは過去を回想する。

クリスマスの日、プレゼントに喜んだ幼少期。蘭を待たせてしまい、それでも笑顔でプレゼントをくれた高校時代。阿笠博士から発明品をもらったとき、灰原からアポトキシン4869の試作品をもらったとき、元太の「欲しいものをもらえる日」という言葉。


「……欲しいものを貰える日」


三田は頷き、静かに語り始めた。

「確かに、クリスマスはみんな何かを貰えたりすることができるとても楽しみな日だよね。でも、私はあるとき思ったんだ。クリスマスというものは、みんな貰えてばかりではなくて、誰かに優しくしたり、何かをしてあげたり、そういった 思いやりの気持ち を一年に一度くらい思い出して考えようよ、と。そう気付かされたんだ」


三田からのその言葉は、コナンの胸に深く突き刺さった。


「(思い出してみれば、俺はいつもみんな前では自信たっぷりに振舞ったり、無茶なことして心配もかけて、迷惑もかけた。相手に対してキツイことも言ったり、時には酷いこともした。変に恥じらってカッコつけたり、相手の気持ちも分かろうともしていなかったり、それで寂しい思いもさせた。特にあいつには……。俺はこれまで自分の恵まれた環境に今まで感謝をしてきただろうか……)」


数々の回想が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。


 俯くコナンは、三田に向き合う。

「おじさん、色々と大切なことを教えてくれて、気づかせてくれてありがとう。やっぱりおじさんって優しい良い人なんだね」ところが三田は表情を曇らせる。

「そうなろうと自分でも努力はしているんだ……」

「おじさん?」

「コナンくん、実は私、若い頃は君と同じで探偵をやっていたんだよ」

「えっ、探偵?」

「もうずいぶん昔だけどね……あるとき、自分の推理で犯人を突き止め、今まで何人も犯人を逮捕してきたし、おかげで大金も稼いだ。でも、それが段々と自分の中で快感となってしまって。その結果、私は金の事と自分の事しか考えない、相手の気持ちも分かろうともしない傲慢で、暴力的で、非常な探偵になってしまったんだ。勝手な決めつけと誤った強引な推理で罪のない大勢の人を傷つけてしまった。ある日、自分の過ちを償うため自殺しようと雪の降る十二月二十四日の夜、私は米花町のとある橋の上に行った。そして、橋の上で俯いているとあるおじいさんが声をかけてくれて。その方は丸メガネに白い髭を生やし、赤いセーターを着た方で、見ず知らずの私に優しく声をかけてくれて、私の背中に降り積もった雪をはらい、自分の差していた傘を私にくれました。その後、その方は名前も名乗らず、何の見返りも求めず去って行かれました。こんな私にも優しくしてくれたのです。私はとても嬉しかった。その方はまさしくサンタのような聖人でした。そして大切なことに気付かされ、心を救われました。その日、雪の降るクリスマスイブ。私はこの町のこの大きなクリスマスツリーの前で誓いました。このまま自分自身変わることができぬままどうしようもなく、ただ歳をとるだけの大人にはなりたくない。これからは自分もあの聖人のように思いやりの気持ちを持って生きよう! 誰かのために優しくしたり、何かをしてあげようと! もし、そのような思いやりの気持ちを時に忘れてしまいそうになったとしても、年に一度のクリスマスには必ずその気持ちを思い出しにこの米花町のクリスマスに来ようと……。話が長くなってすまないね。これがさっきの君の質問の答え、真実かな」 


三田の話を真剣に受け止めたコナン。


「君はそんなこと言われなくっても大丈夫だね。子どもでも、しっかりした良い探偵のようだし」

「それはどうかな……」と、コナンはメガネを曇らせた。


すると、遠くからチキンとケーキの袋を抱えた蘭が駆け寄ってきた。

「ごめーん、コナン君〜待たせちゃったね」

「蘭姉ちゃん。実は今まで……」

コナンは、三田の方を振り返るが、三田の姿はなくなっていた。

辺りを見回し探すが、三田はどこにもいない。

「あれ? さっきのおじさんは?」

「え? 誰かと一緒にいたの?」

「う、うん……あっ」

「雪、だね」 

雪が降り始めた。ホワイトクリスマスだ。

荷物で両手のふさがっている蘭に、コナンはそっと傘を差し出した。

「はい、蘭姉ちゃん」

「あ、ありがとう。用意してくれてたんだ。さすが探偵ね」

蘭は微笑み、コナンを自分の方へぎゅっと寄り添わせた。

「いつもありがとね、コナン君」

「こっちこそ……いつもありがとう、蘭ねえちゃん」



その夜、毛利探偵事務所。コナンは一人、暗い事務所の窓際で変声機を手にした。スマホの向こう、三階にいる蘭を呼び出す。

「……あ、蘭か」

「どうしたの? 確かクリスマスも事件の捜査で手が離せないって」

「まぁ……そうなんだけどよ……ごめんな、蘭。ここ最近ずっと会いに行けなくって……」

「新一……。うんうん、でも電話かけてきてくれて嬉しい」

「正直、オメェに会いたかったんだけどよ……」

「……わかってるよ。だって、私も会いたかったんだもん」

「(蘭……)」新一は、コナンの声を心の中でこぼした。


二人の電話は続く。


「あのさ……蘭……いつも、本当にごめんな……」

「えっ」

「オレ、いつもオメェには心配かけてばかりでよ……」

「なに〜急に改まっちゃって。どうかしたの?」

「まぁ、色々と考えることがあったというか、気づかされることがあったというか……」

「……聞くよ、新一」

「……俺ってさ、蘭から見たらどうなんだ? どう見えているんだ?」

「えっ……新一がどう見えているか? うーん……そうだね〜新一は、いつも私の前じゃカッコつけていて、キザで、自信満々で、推理オタクで、自分勝手で、無茶なことして心配させてばかり……しかも大事な時にいてくれなかった時も……」

「やっぱ、そうだよな……」と、落ち込む新一。

「なに? 今頃気づいたの?」と、笑いがこぼれる蘭。

「蘭……俺はオメェの彼氏になれたのに、オメェの気持ちをちゃんと考えられていなかったと思う……ごめん、蘭。俺は彼氏失格かもしれないな……」


電話越しにうなだれる新一。

蘭は新一のことが心配になっていたが、暗い気分を変えるように新一に言った。

「でも、新一がそんな風に思って反省しているなんて。なんか新一の新たな一面が見れちゃったな〜これって彼女の特権ってやつよね〜」

「えっ……蘭、おまえ……」

 新一は思わず顔を上げた。

「気づけただけでも成長なんじゃない? 私には新一の気持ちはちゃんと伝わっているよ! まぁ、正直言うと自信満々のときの新一、私はカッコよく見えて好きなんだけどさ」


「蘭……ありがとな」

「私も新一の彼女として失格じゃない? 大丈夫かな〜?」「なに言ってんだよバーロ。オメェは俺には勿体無いくらいの彼女だって。優しいし……一緒にいて楽しいし、料理も美味えしよ」

「あら、嬉しいわね!」

「あと、空手は強いけど怖がりだし」

「空手は強いけど怖がり?」

「あ、いやいや!」

会話がだんだんおかしくなり、電話越しに笑い合う新一と蘭。


雪降る中遠くで輝く商店街の大きなクリスマスツリーの夜景、毛利探偵事務所の二階と三階でその夜景を見ながら笑い合うコナンと蘭。



夕飯時、テーブルに並んだチキンやケーキ、蘭の手料理などのご馳走。三人で食べきれる量でもないご馳走を見て驚くコナンと小五郎。

「なーんか、嬉しくなっちゃってついつい作りすぎちゃったわ〜」

「す、すごい豪華だね、蘭ねえちゃん」

「おいおい、こんなに作って、食べきれんのかよ……」

そこへ、玄関のベルが鳴る。「えっ? 誰だろう……」

「ボク出るよ」と、コナンが玄関を開ける。


すると、そこにいたのは、赤いセーターを着た阿笠博士と灰原だった。

灰原はお裾分けの、甘い匂いのレモンパイが入ったカゴを抱えていた。

「メリークリスマスじゃ〜!」

「博士! それに灰原まで」と、驚くコナン。

灰原は、手に持っていたレモンパイのカゴをコナンに向かって差し出す。

「はいこれ! レモンパイ作ったの」

「みんなにお裾分けと思ってのぉ〜」

「哀ちゃん、これって私がこの間作り方教えたレモンパイ?」

「ええ、おかげで上手に作れたと思うわ」

「ホントだ! 上手にできてる! 焼き目もとっても綺麗〜」

灰原はもう一度、レモンパイのカゴをコナンに向かって差し出す。

「お裾分けよ。別にあなたの好物とは知らず、たまたまだから」

「灰原……オメェ……」

コナンにレモンパイを渡すと、振り返ってそそくさと、ビルの階段を下りていこうとする灰原。

「灰原」と、コナンが灰原を呼び止める。

振り返る灰原。


「よかったら、寄っていけよ。今夜は一緒にクリスマス過ごそうぜ!」


「えっ……」顔が火照りだす灰原。

「いいわね! 哀ちゃんも、博士も、みんなでクリスマス楽しみましょ!」

「えー! ワシらもいいのかー!」

「おう、今日はたくさんご馳走もあるし、二人とも食べてけ食べてけ〜」と、部屋の奥から既に酔っぱらった小五郎が顔を出す。

「すまんの〜う。そうじゃ、クリスマス用にクイズを用意しておるぞ〜」

「あー! 博士、またダジャレクイズ? ってか、博士その赤いセーターとても似合ってる〜」

「こう見えて、ダジャレもオシャレも頑張っとるぞい」

「蘭姉ちゃーん、ビールお代わり〜」と、部屋の奥から再び小五郎。

「はーい、もう酔っ払ってるし……まぁ今日は仕方ないわね〜」


食卓へ向かう阿笠博士と蘭。

玄関前で見つめ合うコナンと灰原。


すると、コナンは灰原の手を引いた。

「行くぞ! 灰原」「えぇ」 


灰原の冷たくなっていた手が、心が、温かさを取り戻した。





クリスマス、米花町のあちこちで、小さな思いやりが芽吹いていた。


皿洗いを手伝う歩美。

もらったチョコタルトを母親と分けて食べる元太。

勉強中の姉にココアの差し入れをする光彦。

両親にプレゼントを贈る園子。

妃法律事務所に届くジゴバの限定チョコタルト(小五郎より)。

そして、残業中の高木刑事を手伝う目暮警部や白鳥警部、

宝塚について調べている平次と、甲子園について調べている和葉。

アイドルライブ中の風見に電話で呼び出そうとするが、やめてあげる安室。

タバコを吸いたいがライターが見当たらず困っているウォッカに、暗闇からマッチの火をそっと灯してくれるジン。

高級マンションの一室、カルヴァドスと書かれたラベルのリンゴの蒸留酒をグラスに注ぎ、天に捧ぐように乾杯し飲むベルモット。

怪我をした鳩を丁寧に介抱する怪盗キッドの姿までも。



コナンは、賑やかな笑い声の中で心に誓う。


クリスマス。みんなも誰かに優しくしたり、何かをしてあげたり、そういった相手に対する思いやりの気持ちを一年に一度くらいは思い出して考えてみよう。俺も今日それを学ぶことができ、気づくことができ、考えることができた。思いやりの気持ちで溢れる世の中になれますように。メリークリスマス!



米花町の聖夜に、祝福のようなウィンターベルが鳴り響く。


          (fin)





【著者について】

江川知弘えがわともひろ 

作家(日本児童文学者協会 所属)

1996年、熊本県八代市生まれ。東海大学卒。


【作品】

・中編『さよなら、黄昏のブリックロード』(2021年・デザインエッグ社)


・短編小説集『お母さんの煮しめ』(2023年・デザインエッグ社)

 ※第17回ノースアジア大学文学賞 奨励賞 

 ※第4回短編小説コンテスト(幻冬舎)大賞 

 ※第7回絵本出版賞 ストーリー部門 奨励賞 

 ※読売新聞ほか多数メディアに掲載 

 ※千葉県FM市川でラジオドラマ化


・短編『ヒロとネズミイルカ』(2023年・函南町教育委員会) 

 ※小説サイトノベマ 現代ファンタジー部門 第1位


・中編『追跡』(2024年・デザインエッグ社)


・短編『ミッキーの娘』(2025年・デザインエッグ社) 

 ※日本初『蒸気船ウィリー』版ミッキーマウスのパブリックドメイン小説

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ