塔の子
世界のはしっこに雪と氷におおわれた高い塔がありました。
その塔の名前は無限アルゴリズム塔。
塔の中ではいろんな大きさの歯車が休まず回り続けています。歯車は時間をきざみ、出来事を並べ、次になにが起こるのかの順番を決めていました。
その塔でくらしていたのが、10歳の女の子、エルフィでした。
エルフィの一日はいつも同じでした。決まった時間に起き、決まった量のおかゆを食べ、決まった順番で歯車を確認し、決まった窓から夜空を見ます。
塔の番人は、勘定鳩。シルクハットをかぶり、いつもきょろきょろしながらエルフィへ同じ説明をします。
「何が起きるかの順番を決めることが世界を平和にする」
エルフィはうなずきました。エルフィはいつも何がわからないのかわからなかったので、ただうなずくしかありませんでした。
いつものように窓から夜空をみると星がみえます。星たちはいつも同じ場所で、同じように光っていました。その時です。いつもみる星の中で、一瞬おおきく光った星がありました。星は走り、線をえがきました。エルフィはそのとき初めて流れ星を見ましたが、そのときはそれが何なのかわかりませんでした。
ある夜、エルフィはきいてみました。
「星ってほんとは動くんじゃないの?」
勘定鳩はきょろきょろして落ちそうになるハットをおさえながら答えました。
「流れ星は勘定がむずかしい。勘定できないものは考えてはいけない」
エルフィはうなずきましたが、心の奥では少しだけ疑問が残りました。
その夜、歯車の音にまじって、窓の方から音がきこえました。
近づいてみると、窓の近くに淡い光が浮かんでいます。それはなんと、小さな流れ星でした。「だいじょうぶ?」
エルフィがこえをかけると、星は弱く光りました。
「わたしまちがえてここに落ちてきちゃったの。すぐもどるから大丈夫よ」
星はそう答えました。
「それって順番がおかしくなっちゃったってことなの?」
「順番?あなたは何の話をしているの?」
「まちがえておちたのは、決まってた順番がおかしくなっちゃったからってことをきいてるんだよ」
「あなた、ほんとになにを言ってるの?こんな塔にずっと閉じこもってて頭がおかしくなっているのかしら?」
エルフィは星が何に疑問を抱いているのかがわかりません。
そのとき、かちりという音がずれ、塔の歯車が止まりました。
「異常事態だ」
勘定鳩がさわぎだしました。
「順番にない光がある、そいつをつまかえろ!」
エルフィはびっくりして動くことができませんでした。結局、勘定鳩が流れ星をつかまえて、瓶にとじこめてしまいました。
「そいつが動き回ると順番がおかしくなるからちゃんと見張ってろ」
勘定鳩は怒っていました。
「ねえ、勘定鳩、順番がおかしくなったらなにがだめなの?」
「世界の平和がおかしなことになる。」
「それってなにがどうなるの?」
「わからない。わからないことは勘定できない」
エルフィはその夜、瓶の中の星をながめながらすごしました。そこで、星に気になったことをたずねてみました。
「ねえ、なんであなたが動き回ると順番がおかしくなるの?勘定鳩はなんであんなに怒ってたの?」
「知らないわよ。あんなイカレ鳩が言ってることなんかわけがわからないわ」
「わたしが言ってることってへんなことなの?」
「とても変よ、あんな鳩のいいなりになってかわいそう」
「わたしってかわいそうなの?ぜんぜん知らなかった...わたしって何のために毎日おんなじことをくりかえしてるんだろ?」
「そんなこと、私が知るわけないじゃない。自分で考えなさいな」
星はあきれた様子でこたえました。
エルフィはどうするか迷いましたが、しばらく考えてから、瓶のふたを開け、星を窓からそとへにがすことにしました。エルフィははじめて自分で何かを決めた選択をしました。
窓を開け、流れ星を外へはなしました。星は線を描き、ほかの星たちにまざって光りました。なんだか、そのときみた景色が今までみた景色の中でいちばんきれいな気がしました。
翌朝、星を逃がしたことを知った勘定鳩は怒っていましたが、塔も世界も何も変わりませんでした。その夜から無限アルゴリズム塔には、ときどき予測できない流れ星のきらめきが加わるようになりました。その星のきらめきは、エルフィの変わることのない毎日をほんの少しだけ彩る光になりました。




