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神の器  作者: ハルサメ
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第7話

 学園都市と言われるこの地区には数多くの学校が存在し、日本各地から神力を宿した学生が神器を扱う術を数多く集まってくる。


 この学園都市はそんな神託者を育成する場として機能している都市なのだ。


 神力は神器を扱うのに必要不可欠な力であり、当然学校のカリキュラムに神器を扱う授業も組み込まれている。


 ここでは使い方次第で天使にも悪魔にもなることが出来る力を少年少女が学んでいる。


 しかし学校という性質上、ここには身体共に未熟な人間が多数集まっている。そこには大小さまざまな衝突や問題が発生し、そして思春期を越えた中高生ほど極端に増加している。


 中でも神器を用いた神器犯罪は学生間の中にも根付いており、その解決には困難を極める。


 高校に上がると学園都市では神器の携帯が許可される。といってもそれは=全面的に使用が許可されているという訳ではない。


 あくまで神器の汎用性を模索する常識の範囲内でも使用に止まり、当然悪影響を及ぼす使用は都市全体で禁止されている。


 神器を持つためには必ず政府直属神器管理局、通称院に申請を行わなければならないため、誰がどの神器を持っているかなどは徹底的に管理、監視されている。


 だがそれでも神器の不正使用による事件は減る事はなく、その問題に対処するのが学生神託団の主な仕事だ。


 その存在理由ゆえ、学生神託団には腕っ節が強い―神器戦闘が問題なく行える―者がなる傾向にある。


 有事の際の神器使用を許可などの優遇措置が取られ、また神器を使って問題を解決するというそのスタンスから、多くの学生の憧れの存在にもなっている。


 学生神託団に所属すると言うのは一種のステータスにもなっているのだ。


 それも含め学生神託団は学生の模範となり、生活することを肝に銘じなければならない。


 と言うありがたーいお話を聞いている最中、誠は椅子の背もたれに寄りかかり、腕を組んで夢の世界へと旅立っていた。


 幸い話を聞いている人数は軽く百人近くで、大学の講義室のように扇形の階段状に展開された部屋であり、加えてわざわざ後ろに陣取ったためそう目立つという事はなかったが、隣にいた縁は内心気でなかった。


 指されて意見を述べると言うこともなかったので何とか事なきを得て、誠は安息の時を過ごしていたのだが、話し手として招かれた軍の人間が次に言ったことによって現実へと引き戻されることになった。


「では諸君らにはこれから抜き打ちでの我々との実戦演習に移ってもらう」


 一気にざわつき始める室内、その騒ぎで寝ぼけ程度まで意識が戻った誠は、隣に座っていた縁に小突かれてやっとのこと目を覚ました。


「はぁ……どうした縁?」


 事態を理解していない誠は大きな欠伸をする。その隣で縁はわたわたと慌てている。


「ど、どうしたもこうしたもないですよ!なんでもこれから私たちと軍の方々で実戦を想定した演習をやるらしいんです!」


 ヒソヒソと小さな声だったが、縁の言葉には切羽詰ったものが感じられた。


「実戦ねえ。軍の奴らが好きそうなことじゃねえか」


「何で誠さんはそう冷静でいられるんですか!?」


「冷静も何も、売られた喧嘩は買う主義だからな。やれと言われたら寝起きだろうがやってやるよ。ふぁ~」


 堪えきれず誠は緊張感の無い欠伸を漏らす。だがそんな誠をよそに、周囲の学生神託団の面々はざわついた空気を隠せないでいた。縁のように不安そうにする者が大半で、誠のように(態度には表されていないが)やる気満々と言う人種は見るからに少なかった。


 軍の人間との模擬戦、それはつまりアマチュアもアマチュアの学生と、金を貰い正式な訓練を受けたプロとの戦いである。万に一つ勝ち目はないのは最早明白だ。


「諸君らが動揺するのも無理はない」


 浮き足立った学生に向かい、教壇に立つ軍の男は緊張を強いる声音で言う。マイクを通した訳でもないのに、その声はざわついた学生を一瞬で鎮める力を持っていた。


「当然諸君らが我々に一矢報いるとは我々も思っていない。だが下を見てばかりでは向上心は生まれない。諸君らに上がいることを認識してもらい、そして取り締まる側としての力を得てもらうことがこの実戦演習の目的だ」


 挑発とも取れる言葉、しかし男の声音には煽りと思える類の物は感じられなかった。あくまで事実を述べただけ、現実を認識させようと促す言葉だった。


 だがその余裕を感じさせる言葉に、学生の中でほんの一握り、片手で数えられるほどの人数が過敏に反応したのを誠は見逃さなかった。にじみ出る神力の反応が濃くなったのだ。


 通常神力は神器を扱うことにしか使われないし、それが一般的な見解だ。だが神力は所謂武道における気や気配の役割も持っており、高等技術ではあるが訓練を積めば神力自体を操ることも出来る。


 神力を放出することは、威圧するという言葉の如く威嚇などに使われることが多い。


 反応した学生たちは軍の人間の言葉に反抗意識を燃やした。その意気込みが無意識に神力を奮い立たせているのだ。無意識でもそれが出来ると出来ないとでは素質の違いが出る。


「諸君らが多くを学び取ってくれることを期待している」


 その数少ない学生の反応を見て男は面白いように笑い、教壇の傍にある入り口に手を上げて、なにやら合図のようなものを送った。それに応じて、入り口から軍の人間が数人入室をする。


 着ている白と青の専用ユニフォームは子供たちの憧れと同時に、社会では圧倒的な権力の象徴である。犯罪者となれば、その姿を見ただけで縮み上がってしまうほどだ。


 現役の軍の神託者、それはプロの中でも超一流の集団であり、行く行くは軍に入隊を希望しているものが多い学生神託団の中ではたどり着きたい目標である。


 だからこそ彼らが入ってきたことで学生たちが、再びざわつき始めるのは仕方が無いことなのだが、最後の一人が入ってきた時、学生たちから一番の驚きの声が漏れた。


 そして誠もその例に漏れず、驚いた後焦るように直ぐに顔を伏せた。


 入ってきた人間の中では一際若い、学生と年齢も変わらない少女。長い黒髪をポニーテールで高い位置に縛り、優雅に歩く度に文字通り尻尾の如く左右に揺れている。キリッとした凛々しく端整な相貌は日本刀のような鋭さを持っていた。


「石動……飛鳥……」


 学生の一人が呆然と呟く。その場にいた殆どが何も言わずに、ただその言葉に心の中で頷いた。気付けば浮ついた空気は一瞬で消え去り、誰も口を閉ざしていた。


 「おい縁、あいつそんなに有名なのか?」


 その中で流石の誠も空気を読まずに大声を上げることなく、顔を伏せながらヒソヒソと縁に問いかける。


「えっ、誠さん知らないんですか!?」


「いや……知ってはいるんだけど、何で周りのやつらがこんなことになってんだ?」


「石動飛鳥さんと言えば先月に最年少で国際A級ライセンスを取得して、今もっとも十二神将に近いと言われている人ですよ!」


 神託者にはその神器を扱う上で資格を持っている必要がある。日本では国内で神器の所有を認められる国家C級、学生神託団など直接神器戦闘に介入できる国家B級、軍の入隊規定であり神器戦闘で能力を認められた国家A級が存在する。


 そして国際ライセンスは文字通り、国外であろうとも神託者として一定の地位を保証され、A級の上であるS級、つまり十二神将ともなれば外部の人間であろうとも大将クラスの地位が保証されている。日本国内でも国際A級を持つ者はそう多くはない。


「あの口うるさい堅物が国際A級ねぇ」


「え?どういうことですか?」


「なんでもねぇよ」


 ぶっきらぼうに答え、配られていた資料を頭に被せて姿勢を低くしながら、誠は教壇の様子に目をやった。どうやら自己紹介をやっているらしく、軍の人間が次々に名乗っていく中、最後の飛鳥の番になった。


「石動飛鳥です。年齢はあなた方と同じで、今年軍に入隊した若輩者ですが、今日はよろしくお願いします」


 かしこまった武士のような礼をして紹介を終えた。その様子に多くの者が羨望の眼差しを向けるが、誠の目には滑稽にしか映っていなかった。

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