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神の器  作者: ハルサメ
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第49話

「何故!? 一体どういうこと!?」


 カタストロフィーの光は月に届く前に、儚く消滅していった。


 “結果として最悪撃たれても良い。元帥がそれを防げば、必ずオルテガに隙が生まれる。


 未来を予測する事が出来るけど、その反面、予定外の事態に対応が遅れる”


 オルフェウスの出したオルテガを嵌める罠。確かにオルテガを熟知し、そして使える駒を最大限利用した作戦である。


 社、いやイエーガーがやってくれた。そう確信した誠は、予想通り驚き我を失っているオルテガの隙を突き、イオへと駆け寄った。


 カタストロフィーを撃った反動なのか、イオは完全に意識を失い、ぐったりと椅子に腰掛けていた。


 オルフェウスの知識があっても、今のイオの状態の良し悪しは判断できない。


 直ぐにイネーヴァのいる院に送り届ける必要がある。


 すると、突然ビルが大きく揺れた。


「なんだ……この神力は」


 自然発生した地震ではない。揺れると同時に、下階で神力の巨大な反応が生まれた。


 この状況、揺れと無関係とは言えないだろう。


 振動に耐え切れず、窓ガラスが一斉に砕け散った。ビルが崩れるのも時間の問題だ。


「オルテガ!」


 叫ぶ要であるが肝心のオルテガは未だ放心状態であり、声が耳に届いていない。


「公女! ここはもうじき崩れる! もう十分だろ!」


 要の訴えに、飛鳥は誠を見る。イオを確保した今、退避が最優先。誠は首肯を返す。


「オルテガ!」


 要は直ぐにオルテガに駆け寄るが、それでもオルテガが意識を取り戻すことはなかった。仕方なくオルテガを抱きかかえ、要は一目散にビルから飛び降りた。


 三桁に近い階層からの落下ではあるが、それで十二神将ともあろう人間が死ぬとは思えない。


「私たちも急いで――キャッ!」


 ステージに上がろうとした飛鳥だったが、その直ぐ横を巨大なレーザーが下階から突き抜けた。


 その衝撃で吹き飛ばされそうになった飛鳥は、なんとかレーヴァテイルを周囲の瓦礫にまき付けて難を逃れた。


「何なんだ……あいつは?」


 誠の視線は、先ほどレーザーが通った際に出来た穴に注がれていた。


 はるか下層。そこで一人の人間が、まるでそこから先ほどのレーザーが放たれたというように、上空に向けて大きく口を開けている。


 そしてそれを証明するかのように、その人間からは規格外の神力が溢れている。


「違う、あれは人間じゃない」


 誠は確かに見た、あの存在の胸の中心部分。そこで緑色に光る神核があるのを。


 あれが神。


 イオやオルテガ、そして誠自身もそうであるが、あそこまで臨戦態勢が整った個体は初めて見る。


 溢れる神力の量は、明らかに誠以上である。


「……飛鳥! イオを連れて逃げろ!」


「ちょっと待ちなさい! あなたまさか」


 飛鳥は直ぐに言葉の意味を察したようだ。さすがは養成校時代の世話役である。


 飛鳥はレーヴァテイルを使い、瓦礫を伝って誠のもとへとたどり着く。


「もう直ぐ軍が来るわ! それからでも」


「さっきのレーザー見ただろ。少しでも野放しにさせるわけには行かない。それにあいつはおそらく神だ。軍が総力を上げたところでどうにかなるか分からない」


「ならあなたでも!」


「相手が神なら……その相手は俺が適任だ」


 神殺しの力、それを今ここで使わない手は無い。


 すると、飛鳥は緊迫した今の状況にそぐわない、ため息を漏らす。


「まさかあなたが他人のために何かするなんてね。明日は雪ね」


「俺ほど自己犠牲に燃える奴はそういねえよ」


「勝手に言ってなさい。分かった、私はイオを直ぐに院へと連れて行くわ。だけど直ぐに帰ってくる。それまで生き残りなさい。絶対に死んだりしたらダメ」


「残念だが、お前が帰ってくる前に全部終わらしておくよ」


「減らず口を」


「弱音吐いた方が感動的か?」


「まさか。おかしくって笑いが止まらなくなるわ」


 にこっと笑う飛鳥に、誠も苦笑いを返す。


「それじゃあ、また」


「あぁ……またな」


 そう言って拳をかち合わせ、誠は先ほどの穴に身を投じていった。

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