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神の器  作者: ハルサメ
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第48話

 南極の大地が割れたのは数分前のことだった。


 氷を載せた大地が左右に二枚の半円状で割れ、出来た空洞のとこから恐ろしいほどの地響きと共に、何かが競りあがってくる。


 見上げるほど巨大な銃身、そして二つ叉の銃口を備えたカタストロフィーである。


 地上へと姿を現したカタストロフィーは、その銃口をゆっくりと上昇させていく。


 カタストロフィーにおよそ射程というものは存在しない。


 放たれた光線は目標と定めた相手に自働で標準を合わせ、時には生き物のように曲がることさえある。


 あらゆる場所を圧倒的な威力で殲滅する、人界最強の神器。その刃が、月に向けられる。


《10……9……8……7……6……5……》


 イオのカウントと同時に二つ叉の銃口に光が集まる。青赤緑黄紫黒白、神器が発動する際に光る七色の光だ。


《4……3……2……1……》


 それらが全て混ざり、そして一つの球を形成した。虹色に光る、美しい球。


《カタストロフィー、発射します》


 それが、二つ叉の間から高速ではじき出される。


 その衝撃で南極の大地は割れ、そして氷が一瞬で水を経て、水蒸気へと気化する。


 発射の衝撃で周囲を一瞬で更地にしてしまう威力。だからこそ、カタストロフィーは南極の大地に設置されていた。


 見かけに似合わない想像を絶する威力を備えた球は、そのまま天高く突き進む。


 空を裂き、大気圏を突きぬけ、そして宇宙空間を流れる。


 その行き着く先は、太陽に照らされ金色に輝く月。神界と人界を隔てる障壁。


 何の障害もなく、球は月に着弾するはずだった。


 だが球の前に立ち塞がるものがあった。立ち塞がる者たちがいた。


 その数三人。彼らは三角形の陣形を取るとり、カタストロフィーの球を受け止めた。


 酸素が無いはずの宇宙空間で爆発が起き、神力により生まれた衝撃が無重力空間に響き渡る。彼らが展開した防御陣は、カタストロフィーと互角に渡り合った。


 そして拮抗する力は、やがて彼らに軍配が上がる。カタストロフィーのエネルギーが底を尽きたのだ。


 光が収まり、彼らは力尽きたように無重力空間を漂った。


「防いでやったわよ、イエーガー」


 その内、一人の女性が小さく呟いた。




「よくやってくれた、クリラ」


 社は窓から見えていたカタストロフィーの光が、月に届く前に消滅したことを確認した。


 元帥三人が、満身創痍になってやっと防げる火力。人神戦争時代もそうだったが、神側にとって割に合わない消費だ。


「バカな……カタストロフィーが……消滅した……だと」


「あぁまだ喋る元気があったんだな」


 社は、目の前で床に這い蹲る男たちに向けて言う。

 

 先ほどまで無傷だった男たち、軍を迎え撃つはずのコンステラシオンの精鋭たちは、その全てが瀕死の重傷を負っていた。


「一体…………何が……」


「間に合うかどうかは賭けだったんだがな。四聖天が三柱揃えば一度くらい防げるさ」


 人間の監視のために人界に残った四柱の神。

 

 かつて元帥であった彼らは人間が大きすぎる力を生み出そうとした時、それを破壊し人間の抑止力の働きをしていた。


 その内イエーガー・リンクスは、人界に降り立った誠の監視をするために白木社という人間に姿を変え、認識を狂わせる能力を使い、何食わぬ顔で誠と親友を見守ってきた。


「まさか四聖天が……出てくるとは……」


「もう動かない方が良いぞ。下手に動けば本当に命に関わるからな」


 例え人界の一組織の精鋭といえど、元帥の称号を持っていた神に敵うはずが無い。


 戦いは完全に一方的な展開になり、社の勝利であっけなく幕を閉じた。


 誠からの依頼は、突入するために必要な装備を提供することと、カタストロフィーが照射された場合に備え、四聖天を月との照射線上に待機させることだった。


 オルフェウスの記憶が加わった誠は、社がイエーガーであることを見抜いていた。


 だが誠は依頼をする時、あくまで白木社に対する依頼、という形を取った。


 どうやら誠の中ではこれからも社という扱いで通すらしい。


 驚きつつもイエーガーの立場として、今第二次人神戦争が起きる事は避けたいことであり、すぐさま四聖天に通達をした。


 そして今は誠が乗り捨てたバイクを回収することと、縁の件について個人的にコンステラシオンに憂さ晴らしをしに来たのだ。


 まさか神である自分が、人間の娘一人にここまで躍起になるとはと思うのだが、この気持ちに嘘はない。


 今なら親バカであったオルフェウスの感情が理解できそうだ。


「ふふ……ふふふふ」


 感慨に耽っていた社は、満身創痍の男たちから不敵な笑みが毀れていることに気付く。

 

圧倒的な力の前で気が狂ったのか?


「四聖天……そうか四聖天か。これは好都合だ」


 すると男たちの中から、一人がすっと立ち上がる。それほどまでの力が残っているとは思えなかっただけに、社は純粋に驚いた。


「神である貴様たちなら、我々がどれだけ手を尽くそうが勝てる見込みは無い。だがな、それはあくまで我々が人間だからだ」


「何が……言いたいんだ?」


 不気味な雰囲気が一気に充満する。


「神に対しては、神をぶつければ良い。神同士でせいぜい潰しあえ!」


 男が上半身の衣服を脱ぎ去ると、男の胸には緑色に光る球体が埋め込まれていた。


 直後、男を中心に激しい神撃が周囲に駆け巡る。膨大な神力の量、先ほどまでの男からは考えられない。


 いや、そもそも人間が持てる神力を大幅に超えている。


「まさか!」


 そこで社はイネーヴァの言葉を思い出す。


《イオの神力の代わりになるものを捜すこと……それはオルテガが完成させてくれます》


「神器の中にいる神を召喚したというのか!」

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