第45話
都心にそびえる百階建ての高層ビル、コンステラシオン日本支部には、不穏な空気が渦巻いていた。
周囲には無駄とも言える数の警備が展開され、中には武装とも取れる姿の者もチラホラと見える。
これから戦争でも始めるような重々しい空気。夜の闇も相まって、張り詰めた緊張は今にも弾けんばかりだった。
だからこそ、ビルに高速で接近する物体には過敏な反応を見せた。
重低音なモーター音を響かせ、そして外部との接触を断つように黒いカバーに覆われた一台のバイク。
さながら巨大な黒い弾丸を連想させるそれは、愚直にも真っ直ぐビルに向かってくる。
建前上の警告も無く、接近するバイクに神器による砲撃が放たれる。
あふれ出した能力郡は、真っ暗な闇夜をまるで昼間のように照らし出す。
怒涛のように押し寄せるそれらは―しかし、目標のバイクに到達する寸前で弾け、跡形も無く消え去った。
何が起こったのか、警備の者たちにその疑問が湧くが、動きには影響は与えなかった。
すぐさま銃火器による砲撃が火を噴く。対戦車ライフルやRPGなどがバイクの周囲に着弾していく。
だが、それでもバイクが怯む様子はない。
表面を覆っている黒いカバーが対衝撃用に作られているのか、蛇行しながらも、ビルへと向かっていく。
するとバイクの左右の装甲が開き、正六面体の箱が姿を現す。
均等に小さな穴が開いた前面部分、そこから複数のミサイルが一斉掃射される。
的という的を絞っていない砲撃、弾ける爆撃。
倒壊には至らないまでも、しかし前方に聳え立つビル、それらを守るために展開されていた警備兵たちに、深手を与えるのには十分だった。
煙が立ち込める中、バイクはその煙に突入し、ビルの一階ロビーをキュルキュルという音を響かせて、中央フロント付近で静止した。
そこに、再び四方から狙い済ましたような銃弾が次々と降り注ぐ。
しかしそれはバイクから放たれた有無を言わせぬ神撃によって、一瞬の中断を見た。
その隙にバイクから伸びた十本の鞭が、神撃に怯んだ者たちを体勢を整える間もなく一人、また一人と、理不尽なまでの暴力によって吹き飛ばす。
やがて、一階ロビーには爆撃された後には似合わない静けさが生まれた。
「アホみてぇな火力だな」
空爆にも耐える耐久性を持ったカバーを収納し、バイクに跨っていた誠は目の前に広がる焼け野原になったコンクリートジャングルに目を向ける。
「これ、俺のせいじゃねえかんな?」
「わ、私だって緑のボタン押しただけよッ!」
誠の後ろに乗っていた飛鳥は慌てながら反論する。
その言葉通り、飛鳥が車体の側面につけられていた緑のボタンを押しただけで、いきなり対艦ミサイルが発射されたのだ。
機動性といい耐久性、それに充実した搭載兵器。
「まったく現代兵器も馬鹿に出来ねえな」
「い、いいから早く動きましょ!」
白木製の現代技術の粋を集めた戦略型バイクから降り、エレベーターへと乗り込む。
「ちゃんと覚えてっか?」
「馬鹿にしないでくれる?」
軽口を叩きあい、飛鳥がエレベーターの階層のボタンを特定の順番で押していく。
オルテガが居るであろう最上階には、階段もなければ通常の方法でたどり着く事は出来ない。
エレベーターの一階で特定のコマンドを入力する必要がある、その情報をバイクを譲り受けた時に社から知らされていた。
そんな情報どこから出てくるのか、小一時間問い詰めたいものではあるが、誠としては今更社を疑うような事はしない。
切羽詰った状況で、社が確実性の無い情報を提示する事はない。
そして入力成功を告げるように一度エレベーターはガクンと揺れると、グワングワンという音共に、行き先が示されない状態で上昇を始めた。




