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神の器  作者: ハルサメ
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第3話

「ただいま帰ったぞっと」


 帰還の言葉と共に誠は生徒会室のドアを開けた。そしてよろよろと室内を歩き、置かれていたソファーへとダイブする。


「お疲れ様です、誠さん」


 そこに鈴を転がしたような可愛らしい声が響く。声の主は同時に誠の前のテーブルに冷えた麦茶を置いていく。


「あぁいつも悪いな。縁」


 麦茶を運んできた白木縁は艶やかな長い黒髪を揺らしながら、いえいえこれもお仕事ですからと恥ずかしそうに答えた。


 正確に言えば縁のお仕事は生徒会の役員であり、断じてお茶汲み係などではないのだが、縁が生徒会に所属して三ヶ月が経ち、今その活動を振り返ると、お茶を汲んでいる時間の方が多い。


 お盆を手に持つその姿は、給仕係と言われても仕方がないくらい様になっているのだ。


 家では逆に給仕される側の人間であると知っているだけに、違和感が半端無い。しかも本人が嫌がっておらず、寧ろ頼まなくても率先してやってくれることなので、誠は追求することをやめた。


 出された麦茶を飲み干す。火照った体に冷たい麦茶が心地よく流れていく。


「どうやまたやらかしたみたいだな」


 部屋の一角、その誠を見ながら、少々仰々しい執務机に備え付けられている椅子に腰掛けた少年が呆れたように呟く。


「おいおい、その言い方だと俺がいつも問題を起こしてるみたいじゃないか、社」


「みたい、じゃないから言ってるんだよ!」


 縁の兄、白木社は肩を竦める誠に引きつった笑みを向ける。


「さっき二区の神託団から連絡があったんだが、ずいぶん暴れたみたいじゃないか」


「何言ってやがる。神器の不正使用を現行犯逮捕したんだ。褒められてしかるべきだろ」


「お前が煽ったからそうなったんだろうが! それに全員全治二週間の怪我はいくらなんでもやりすぎだろ!」


「俺の目の前でゴミのポイ捨てしやがったんだよ。そんで注意しても更生意思無し。もう肉体言語しかないだろ。あちらさんも乗り気だったし」


「んな荒っぽい性格して、そこまでポイ捨てに敏感なのはお前くらいだわ! お前がそんなことする度に、各方面から色々言われる俺の身にもなれよ! 今月半ばでもう六件だぞ! 何でお前のせいで俺が頭下げなきゃならないんだ!」


「何で町の環境を守ったのに、俺が責められなきゃならんのだ。縁、兄ちゃんが酷いぞ」


「お兄ちゃんファイトです!」


「あ、うん。お前は応援するだけで手伝ってはくれないのね。ってだから誠! お前はもう少し自重しろ! 俺たち学生神託団は学生間の問題を取り締まることであって、問題を引き起こして犯罪者を炙り出すことじゃないんだ! 戦いたいだけならよそでやれ!」


 神器犯罪を取り締まる組織の中で、学生間の問題を解決するために設けられた学生による対神器犯罪対策組織、それが学生神託団である。


「……そんぐらいは分かってるさ。悪かったよ」


 社の言葉に誠は素直に謝罪を述べた。主に最後の言葉が効いたのだ。戦いだけを求めるなら誠はここにいない。それを求めず、誠はここにいることを選んだ。


 その誠の様子を見て事情を知っている社もそれ以上は糾弾しなかった。


「分かればいいんだ。そんなお前にちょうど良い話がある」


 そう言い、社は一枚の紙を近くにいた縁に手渡した。縁からそれを受け取った誠はその紙に書かれている内容に目を通す。紙の上部には「夏季長期休業における研修会」と大きく書かれていた。


「何これ?」


「書いてある通りだ。お前は今年から学生神託団に入ったから知らないだろうが、夏休みってのは良くも悪くも皆開放的になる。学生神託団の出番が例年多くなる。そこで今一度、学生を取り締まる立場として、自覚と責任を確認するために開かれるのがその研修会だ」


 先週から始まった夏休み、それを使って学区ごとに設けられている学生神託団を一同に集め、ありがたい話を聞く。そんな内容が紙に書かれていた。それを見た誠は、


「んなもん誰が行くか!」


と、即効で一蹴して紙をテーブルに叩き付けた。


「何でこのクソ暑い日にわざわざ人が集まる場所に、しかも他の学生神託団の奴らと一緒に座学なんて受けなきゃならねぇんだよ。これ強制なのか?」


「書いてあるだろ。各神託団最低二人は出席しなくちゃいけないんだ」


「お前と縁、それでいいじゃねぇか」


「残念ながら俺は家の用事があってその日無理なんだよ。だから後残ってるのはお前ら二人だけ、だからお前が行く。因みに逃げるのは無しな。お前も知っているとは思うが、俺たちは他の神託団方に良く思われてない。勝手な行動はあんまり好ましくないんだ」


 誠が所属している学生神託団は構成員四人。残りの一人は今現在アメリカに留学中であり、学生神託団では最小の組織である。


 そもそも多くの学生神託団は、複数の学校が提携して神託団を形成しているのに対し、誠たちは自分たちの学校だけで神託団を立ち上げてしまった。


 それもこれも誠たちが通う学校が去年、本来学園都市として展開していた土地の外に新設されたからであり、その領域をどの区の神託団が担当するかで、軽く揉めたためだった。


 その揉め事を学園の創設者の孫であり、日本有数の巨大企業白木重工の跡取り息子で、初代生徒会長の社が自分たちの学生神託団を作る形で治めたのだ。


 神託者を育成するために作られた学園都市、しかし学生とはいえそこは人間であり、縄張りというのもがあるらしく、新参者の誠たちはあまり歓迎されている訳ではないのである。


 ましてやそこに自由奔放な問題児がいれば、荒波が立たないはずが無いのだ。


「じゃあ俺がそんな集まりに参加したら余計に印象が悪くなるんじゃないのか?」


「大丈夫だ、お前の悪名はもう下がるとこまで下がってるから」


「そりゃご苦労なこった」


「それに何か問題を起こそうにも学生連会長もいるから大丈夫だろ」


「…………より一層行きたくなくなったんだが」


 社の言葉に誠は絶望の表情を見せる。先ほどまではいくらか冗談の色が見えていたが、最早完全に拒否の表情をしている。


「お前があれを苦手なのは俺も良く知ってる。俺も苦手だからな。まぁそういうことだ。ドタキャンしたら後で何言われるか分からないからちゃんと行くように、以上」


 気の毒そうに社は苦笑いを浮かべた。逆らったら後が面倒になる。選択肢はなかった。

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