第33話
するとイネーヴァは何かまた神妙な表情に変わる。
「十二神将を投入するほどとは……あの子はそこまでして……」
「何か知ってんのか?」
「いえ、なんでもありません」
とてもそうは聞こえなかったが誠も追求する事は無かった。
そこまでして、という意味深な言葉を脳裏に焼き付けるに留めた。
「んでどうすんだ? イオはこのまま、こん中に閉じ込めるって感じなのか?」
「そうすれば命の保障はされます。現在可能な唯一の延命方法です」
「治る見込みはあるのか?」
「それは……」
問いにイネーヴァは言いにくそうな表情をした。いつものような余裕たっぷりのものではない。
切羽詰った表情、妹の命がかかっているのだから当然か。
「神力欠乏症を治す方法は一つ、外部から稼動するのに十分な神力を供給することだけです。そのためには十分な量、神一柱分を人間に換算させると、十万を越す人数分もの神力が必要になります」
「十万って、並大抵の量じゃねえぞ」
現実的ではない。それが分かるには、十分なデータだ。
「外に出たら直ぐに死んじまうのか?」
イネーヴァに向けていた目線を、イオが眠るラキアに移す。
「いえ、直ぐにではありません。神力欠乏症は神力の回復速度と最大値の低下であり、今回はギリギリのところで助けることができました。しばらくラキアの中にいれば、完全ではないにしてもまた動くことができます。ですが」
「根本を解決しなけりゃ、定期的にこいつの中に入る必要があるってことか」
イネーヴァの話を聞き、誠は何故か神妙に頷く。
「……一体何を考えているのですか?」
その誠の反応にイネーヴァが怪訝な顔を返した。
「言っておきますが、もうこの子を外に出すつもりはありません。無駄に神力を消耗する行為などさせるわけが」
「そいつはお前の理屈であって、こいつの意思じゃねえだろ?」
イネーヴァの言葉を無理矢理遮り、誠は先ほどからハラハラと事態を見守っている縁の頭に手を置く。
「悪いがイオは回収させてもらうぞ。縁、外に車廻しといてくれ」
「あなた、自分が何を言っているのか分かっているのですか!?」
イネーヴァの怒声に、室内にいた誠を除く全員が体を震わせる。
「あんたもそんな感情的に怒鳴ったりすんだな。いつもの澄ました顔が台無しだぜ?」
「ふざけないでください! 今のイオを外に連れ出すなど、許す訳が無いでしょう!」
誠の行動は、自分で呼吸ができない患者から人工呼吸器を外すようなものだ。
イネーヴァの言い分は至極全うなものであることを、誠も分かっている。
「何回も言わせんなよ。それはテメーの理屈であって、こいつが選んだ訳じゃねえだろ。悪ぃが、本人の関与してねえとこで何か決めるのは、癪に障るんだよ」
「それだってあなたの勝手な理屈でしょうに!」
「あぁそうだな。だが俺は昨日こいつから、他の姉妹の厄介になるのは御免だ、そいつらに会う訳には行かないって事を聞かされてんだよ。つまり、あんたらに会う事でこいつにとっては良くない、んであんたらにとっては良い何かが起きるんだろ?」
あれはイオの唯一譲る事が出来ない本音だ。だからこそ、誠もそこは汲み取りたい。
その言葉にイネーヴァの表情がより険しいものに変わった。
「だから私たちの話を聞くことはないと? そのイオの言葉だけで、私たち軍を敵に回す気ですか?」
「気じゃねえ、もう回してんだ。こっちはもう腹括ってんだよ」
強気の口調で言い、誠はラキアに近づく。
その誠の行動の意図に気付き、イネーヴァが声を上げた。
「まさか!待ちなさいッ!」
「待たねえよ!」
そしてイネーヴァの制止を振り切り、誠はラキアに神力を注ぐ。活動を止める毒を注ぐ。
直ぐにラキアから神力の波動が消え去り、そして再び前半分が割れ、開いたところから一子纏わぬ姿でイオが現れる。
「……ずいぶんと騒々しいやり取りですね。酷く不快です」
ゆっくりと目を開きながら、イオは刺々しい口調で言う。




