第31話
気を失った飛鳥を受け止め、誠はゆっくりと横に寝かせた。
発動した能力の強制停止による、神力の反動現象。そう結論付けられた現象が飛鳥を襲い、そして意識を奪った。
誠の持つマイナスの神力では、神器は動かない。
それはつまり、誠の神力が注がれた神器は活動することができないということであり、発動中の神器でさえ、その神核に誠の神力を割り込ませることで活動停止にできる。
誠の神力はそういった猛毒を備えているのだ。
このためには神核に触れる必要があるのだが、一体化神器はそれ全体が神核に相当する造りになっており、早い話が誠に接触を認識されるだけでもアウトということになる。
だから飛鳥はレーヴァテイルを、神力を介さないで普通の鞭として使うことも無かった。
神埼のように、無意識に神力を込めたが最後、反動現象で意識が持っていかれるのを知っていたからだ。
神器ではなく銃火器を構え、そして前もって仕掛けていた罠を使い多段的に攻める。
そこに、飛鳥が本気で誠を制圧しようとしていたことが伺える。
その時、飛鳥を寝かせ立ち上がろうとしたところで、誠は迫ってきた神器砲撃を能力破壊であっさりと消し飛ばした。
見れば先ほどの小隊が懲りずに誠に向かい、大量の神器を構えて殺気立っている。
飛鳥という高位の神託者が倒されただけでなく、先ほど自分たちの攻撃が無効化されたことにも臆することが無い意思。
賞賛に値する行為……だが、今の誠にとっては目障りなことこの上なかった。
死の際を彷徨った飛鳥との戦い興奮の後では、軍の小隊ですら興醒めもいいところだ。
「基本的に喧嘩は買う主義だが、今はオメーらの相手する気分じゃねえんだよ」
怒気の言葉と共に小隊に向かい一歩踏み出し、そして加減無しの神撃を放つ。
神器の発動すら、僅かな神力の放出すら許さない神撃に、小隊が萎縮したのは明らかだった。
誠の体からは未だに出血が続いていた。生々しく血が流れている中、しかし誠の動きでそれによって鈍るような事は見られない。
まるで痛覚を感じていない、もしくはまったく効いていないかのように悠然と歩き、小隊に生き物としての恐怖も植えつける。
「そこまでに……しましょうか」
その張り詰めた空気の中で、誰もいないはずの目の前に声をかけられる。
反射的に迎撃する事は無かった。転移した瞬間に誰であるか、誠には瞬時に察する事が出来た。
「これ以上は彼らにとっても決していい結果は生みません」
姿を現した一重は、誠と小隊の間に割り込んでいた。
「知らねえな。あっちはやる気なんだ。じゃあこっちも加減無しに叩き潰す。軍の人間ならそれぐらいの覚悟持ってんだろ。邪魔すんならテメーも殺す」
「いいのですか? 私を殺せば、あなたが欲している情報が手に入りませんよ」
「ここで引けば教えてくれんのか? 止してくれよ、俺の抹殺命令にあんたも一枚噛んでんだろうが」
誠は学生連会長室のドアノブに触った瞬間、軍の野外演習場に転移された。
そこに学生連会長である一重が関わっていない道理はない。
それに加えもう一つ、誠には一重を黙らせる推測が存在した。
「というか、あんたが俺を殺すように命令したんじゃねえのか? 軍に所属している姉妹さんよ?」
その場に静寂が舞い降りた。
ニヤニヤと笑う誠に、一重はいつに無く真剣な表情を向ける。
やがて交差する視線を、一重が先に外した。そして観念するように息を吐く。
「はい。私は軍に助力する姉妹であり、そしてイオの姉のイネーヴァ・トライバルです」




