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神の器  作者: ハルサメ
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第2話

 日が照りつける、透き通った青空が見え、通りには人々が多く行きかう昼間の時間帯。


「なんなんだてめぇは!!」


 そんな時分に、似合わない荒々しい声が響く。噴水を中心とした円状の広場にいた人々は一斉にその声の方に目を向けた。


 そこには数人の男たちと、それに向かい合う一人の少年の姿があった。男たちの風情はお世辞にも良いとは言えず、はっきり言って柄が悪い。言葉遣いもそうだが、服装、威圧するような態度からも近づきがたい空気が感じられた。


「なんだじゃねぇよ。ったく、俺だって好きでお前らに声かけてるわけじゃねぇんだ」


そんな男たちに対し、少年の呆れたような口調は、荒っぽさで言えば男たちとそう変わりは無かった。中途半端に伸びた長さの髪をかき、男の一人を指差した。


「あんた、さっきゴミポイ捨てしただろ?」


「あ? だからどうした!?」


指された男は一歩前に進み出る。筋肉質とまでは行かないが、がっちりとした体格の男だ。


「俺はそれが気に入らないんだ。悪い事は言わないから拾ってちゃんとゴミ箱に捨てろ」


少年が指差した背後には確かに先ほど男が捨てたタバコの箱が転がっていた。


「んなこと知るかよ。何お前、喧嘩売ってんの?」


男は再びにじり寄る。それに応じて後ろに控えている男たちも少年を囲むように動く。その光景を見ていた周囲の人々が息を呑む。

 

 しかし誰も口を挟む無謀な事はしない。見なかったことにして通り過ぎるのが生きる上で正解の選択肢だという事は誰もが知っている。


「別に売ってないさ。俺はもっぱら買う派なんでね」


 数人の男に囲まれながらも、その状況で少年は逆にニヤニヤと笑みを零した。喧嘩慣れしてそうな男たちの体格に比べ、細身の少年は値踏みするように周囲を囲む男たちを見る。


「もし俺らが何もできないとか高括ってんだったら残念だな」


「俺らレッドヘッドテイルは、んなこと気にしねぇぞ」


「まして、お前みたいな奴は特にな」


と、ここで男たちの言葉に対して少年は深くため息をつく。


「いちいち御託並べないと人も殴れないのか?それに頭か尻尾か知らんけど、んな名前聞いたことも―」


 言葉の途中で一人の男が拳を少年の顔に叩き込む。殴った時に意気揚々としていた男の顔、しかしそれが直ぐに怪訝なものに変わる。


 男の拳は少年の右腕によって防がれていたのだ。


「不意打ち騙し討ち上等だ。喜んで買ってやるよ!」


 少年はそのまま男の拳を引っ張る。見かけ以上の力で引っ張られ男は体勢を崩し、少年はその伸ばしきった肘を本来曲がらない方向に無理矢理曲げられる。


 耳を塞ぎたくなる音が響き、男が苦痛のうめき声を上げる。


「おら、かかって来いよ」


 嬉々とした表情で挑発する少年に、男たちの雰囲気もガラリと変わる。先ほどまでの荒々しさは収まり、静かに少年を見る。しかしその静けさは逆に先ほどまでより刺々しい恐ろしさを持っていた。


 数秒の静寂の後、男たちは一斉に少年に襲い掛かった。次々と休み無く殴りかかる男たち、しかし少年はそれを何の苦労も感じさせない鮮やかな動きで捌いていく。


 男たちの動きは不良のそれであり、多少知識はあろうとも力任せによる素人の域を出ない喧嘩の仕方だった。


 しかし少年の動きは、明らかに何かしらの武術を嗜んでいるものであり、動きに無駄が無い。次々と襲い掛かる男たちをある時は迎撃し、ある時は攻撃の盾にして上手い具合に動きを阻害していく。


「クソ野郎が!」


 悪態をついた一人が少年から距離を取った。そして噴水の近くに移動し、右手でその水に触れる。同時に男の左手首に嵌められていたブレスレットが光り出した。


 それが合図となり、事態は一変する。噴水の中にたまっていたはずの水が男の右腕の周囲に浮上し始める。無重力空間に存在するかのように、いくつかの歪な水球が出来上がる。


「お、おい!!」


 男の仲間の焦ったような制止の声。しかし男の耳には届いていなかったようで、男は浮遊している水球を少年に向けて打ち出すように腕を振った。


 打ち出された水はただ水をかき出したものとは違い、弾丸と言う名にふさわしい速度を持って少年に向かっていった。


 幸い水球は少年に直撃はせず、少年の足元のコンクリートに陥没するように着弾した。


 コンクリートさえ砕く威力、生身の体など容易に貫く事が出来る。


「殺傷能力を持つ神器の不正使用。こりゃ立派な犯罪だぜ?」


しかし、そんな脅威を見せ付けられても、少年の高圧的な態度は変わらなかった。


 否―口の端を軽く曲げて笑う表情は、返ってより濃度を増しているようにも見える。


「ふざけやがって!今すぐその顔面にブチ当てて」


 言葉の途中で再び男のブレスレットが輝き出し、噴水の水が―


「遅ぇよ」


 その間に少年は男との距離を一瞬で詰めていた。作業に気を取られていた男は少年の蹴りをまともに喰らい、噴水の中に飛び込んでいった。


「神力の伝達に時間がかかりすぎた。あんなの狙ってくださいって言ってるようなもんじゃねぇか。もっと早く発動しろ。次までの宿題な。まぁ聞こえてないだろうが」


 気を失っているのか、噴水の中で中々立ち上がらない男を見て肩を竦めた少年は、その光景を呆然と見ている男たちに目を向け、楽しそうに笑った。


「正当防衛ってまだ有効だよな?」

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