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神の器  作者: ハルサメ
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第26話

「全く今日はえらい目にあったな」


 食後の紅茶を一杯飲みながら、ついそんな言葉を漏らしてしまうほど、今日は気苦労が絶えない一日であった。


 開幕の朝からイオの襲来→食糧危機のコンボを食らい、街に繰り出しては注目の的になっただけでなく、偶然出会った飛鳥との衝突。


 その後も少し目を離した隙に、寄ってきたナンパ男に喧嘩を売っていたりと、イオの事後処理に追わされる羽目になった。


「何をそんなに老け込んでいるのですか?」


「何をも何もオメーのことに決まって―って! なんでお前は何も着てねえんだよッ!」


 風呂に入っていたイオは、初めて会った時と同様に、一糸まとわぬ姿でリビングへと姿を現した。


 手にバスタオルは持っているが、髪を拭いているだけで、隠すべきところを隠すのには何の貢献もしていない。


「先ほど思い出しました。なんと今日出かけようと思ったのは、替えの服を買いに行くことも含まれていたのです」


 トロンと眠たそうな半目で欠伸を交える。


「ンなこと冷静に答えてんじゃねえよ! 馬鹿かてめえはッ! 着てた服もっかい着りゃいいだろが!」


「綺麗にしたにもかかわらず、炎天下を歩いた服に、再び袖を通せというのですか? 何を言っているのです?」


「汗をかいた服をもう一度着ることより、裸でうろつく選択肢を取る意味が分からねえよ! てかお前初対面であんだけキレてたのに何で今はそんな冷静なんだよッ!?」


「見られていると見せているの違いです。欲情でもしました?」


「しねぇし、その違いもわかんねぇよ。頼むから馬鹿なこと言ってねえで、さっさと何か着てくれ」


「なるほど、誠は嫌がるのを無理矢理するのが好みと」


「勝手に決め付けンのやめてくんねぇ!?」


「ならばどういったのがお好―」


「いいからさっさとこれでも着てろ!」


 適当に掴んだ衣類を投げつけられ、受け取ったイオは匂いを嗅いだ後に渋々身に付けた。ハーフパンツに半袖のTシャツというラフな格好だ。


「明日は縁呼んで、買い物にでも行ってきやがれ」


 本当はイオが風呂から上がってから、昼間の話の続きをしようと思ったのだが、もうそんな気分でもなくなってしまった。


「あなたはどうするのですか?」


 誠の対面に座りながらイオが尋ねる。


「俺はやることがある。悪いが明日は別行動だ」


 一重が指定した日時は明日の昼である。この用事は誠にとって外すことはできない、外すなんていう選択肢は存在しない。

 

 ましてやそれにイオを連れて行くわけも無い。


 すると何かイオから不安そうな顔をする。


「別に縁も神託者としてはそれなりに優秀だ。特に危険に対する反応速度は俺以上だ。それに軍のお膝元の学園都市だ、コンストラシオンのやつらでも簡単に手は出せねえはずだ」


「はたしてそう言えるのでしょうか?」


 安全を主張する誠におごりは何もない。しかしイオはそれに苦言を呈した。


「あなたの読みが正しければその組織には私の姉妹、それもあのオルテガがいます」


 コンストラシオンは院を襲撃する暴挙に出た。


 そしてその計画の主犯と目されるのがコンストラシオンの姉妹、オルテガである。


「そんなに好戦的なやつなのか?」


「姉妹の中では一番でしょう。綿密に漏れなく計画を練り、目的のためには手段を選ばない完璧主義者。私の奪還に失敗して黙っている性質ではありません」


「そりゃご機嫌な野郎だな。邪魔した俺は心底恨まれてるだろうよ」


「はい、おそらくあなたは彼女の殺害リストの最上位に位置しているはずです」


「まぁ来たところで逆に潰してやるがな」


「はたしてそれができるでしょうか?」


 誠は肩をすくめる。しかしその誠にイオは厳しい言葉をぶつける。


「甘く見ないでください。オルテガは私と同じ神です。近接戦闘などは他の姉妹に劣るものの、有する神力と能力はともに神の中でも上位に入るほどです。あなたの実力を低く見ているつもりはありません。しかしそれでもオルテガの、神の相手は一人では不可能です」


 先ほどまでの冗談が嘘のように、イオの言葉には緊張が張り詰めていた。


 思っている率直な感想を、そして事実を述べていると信じて疑っていない口調だ。


「神……ねぇ」


 それに対して誠はその緊張にまったく感化されることなく、悠々と紅茶に口をつける。


「そもそも神ってのは何なんだ? 人間を作ったお偉い存在だってのは分かるが、そもそもなんで人間なんて作ったんだ? それにそいつらは今どこにいるんだ?」


「人間は……元々は生命の起源追求として創造されました。私たちは己の過去を知りません。私たちがどこから来て、どのような過程を経て今に至るのか。私たちは過去を記録していなかったのです」


「だから人間を使ってその進化を観察するってのか?良い趣味とは言えねえな」


 イオの言葉は「神にとって人間は、ケージの中で飼われているネズミと同じ」という意味に取られても不思議ではなかった。


「事実上層部では軽んじて扱われていた部門であり、片手間に近い感覚がありました。しかしお父様は違った。お父様は人間を私たち娘と同様に愛していた」


 後半の言葉は独白に近い呟きだったため、誠はその内容に追求はしなかった。


「だからこそ人間に神器を与え、そして争わせようとする上層部の決定に、お父様は納得できなかった。わが子に拳銃を突きつけ合わせる、そんなもの認められなかった」


 イオの表情に悲痛なものが浮かぶ。


「そして上層部に反発していたお父様は私たちを連れて地上に降り、そこで人間に神器を与えました。人間同士で争わせるのではなく、神に対抗する手段として神器を人間の手に渡したのです。そうして起こったのが、人神戦争。あなたたちが言うところの古代文明の崩壊です」


 古代文明は確かに神器によって崩壊した。


 しかしその相手は人間同士ではなく、管理する側の神と、される側の人間。その対立による結果だった。

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