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神の器  作者: ハルサメ
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第25話

 今まで勝ち誇った顔をしていたはずのイオの表情に、ヒビが入っている。


「聞き捨てなりませんね。私が牛女? 胸が平均より大きいだけで牛女とは、一体どういう意味ですか? 説明を要求します」


「……いやこの程度の煽りってか、負け惜しみぐらい聞き捨てろよ」


「黙ってください。これは私と彼女の問題です」


 イオが睨みつけるように誠を見る。どうやら逆鱗に触れたらしい。


 何がどうとは分からないが、牛女という単語がイオの地雷であった事は明白だ。


 だとしても煽り耐性が低すぎである。イオの導火線に火をつけた飛鳥でさえ、何でイオがムキになっているのか分かっていない。


「え……えっと、そ、そんな大きな胸なんて日常生活で必要ないでしょ! 所詮無駄な肉よ! 体重だって馬鹿にならないし!」


「たい……じゅう……? そうですね、骨と皮だけの体の持ち主には分からない苦労です」


 とりあえず何かを言っておこうという体の飛鳥の煽り、それが分からないイオではないはずだが、どうにも聞き流すことができないらしい。


 というか更に火に油を注いだようだ。


 体重という単語に異常な反応を示したのは、触れない方が良いだろう。


 周りの人の中でも「あ、察し」という空気の人がチラホラ見られる。


 誠からすれば、「そりゃ俺と同じくらいの量食ってんだから、それ相応の重さになるのは当たり前だろ」と突っ込みたい。


 今朝などご飯三杯を誠の家で平らげたのだから、というかあれだけ食っていて気にしてんじゃねえよ、である。


 ぐぬぬぬ、という安い意地の張り合いが始まり、それと同時に「何とかしろよ」という目線が誠に突き刺さる。


 何とかしようにも一度釘を刺された時点で、仲介に入っても火傷をするのは誠である。


 正直勝手にやっていろ、だ。


「これは一体何の騒ぎですか?」


 しかしそうは問屋がおろさないのが世の常だ。


 野次馬を押しのけ場の中心に出てきたのは学生神託団であった。


 それもその先頭にいるのは誠も顔見知りの人物であった。


「お、団長さんがわざわざどうも」


「八神誠……貴様か」


 工藤は憎たらしげに誠を睨んだ。昨日神埼の神撃を受け、ショックで気を失ったはずだが、体調はもう万全なようだ。


「そんな睨まないでくれよ。それにこの空気の原因は俺じゃねえよ」


「何が―ひっ!」


 騒ぎの中心人物を視界に入れた時、工藤は息を呑んだ。


 彼女らは新たな登場人物に向かい、威嚇するような冷たい目線を放っていた。「邪魔すんなよ?」という圧力に工藤は呑まれたのだ。


 龍虎対面である。


「工藤団長……一生に一度のお願いがあるんですが、いいっすか?」


「ふざけるな! 急に敬語を使っても聞き入れられるわけないだろ!」


「つれないなぁ、俺と工藤さんの仲じゃないですか?」


「貴様となれ合った覚えはない!」


「つってもこれこのままじゃいけないでしょ?」


 何かのパフォーマンスだと思われているのか、集まった野次馬は相当な数になっており通路を完全に塞いでいる。


「それは……くっ、何故僕が貴様に顎で使われなければならないんだ」


 という悪態をつきながらも工藤は渋々事態の根源へと近づいていく。


 真面目な性格は時に損な結果を生み出してしまうものである。


「す、すみません。通行の妨げにもなりますので、この場は穏便に……ん?」


 下手に出た言葉遣いで丁重に場を収めようとした工藤の言葉に、戸惑いが混じる。


 その視線は帽子を深く被っている飛鳥に向けられていた。


「まさか……石動飛鳥さんですか?」


 工藤の言葉に、動向を見守っていた野次馬がざわめく。


 神託者を育てる学園都市で、同年代の養成校出身は多くの注目を集めている。


 その中でもとりわけ飛鳥は容姿に実力、さらに十二神将を親に持つという点で、学園都市の人間ならば知らない者はいないほどの知名度を誇り、一種のアイドル的な地位に立っている。


 飛鳥がジャージのチャックを一番上まで上げ、深く帽子を被って顔を見えなくしているのはその事実によるものだ(もっとも、ファッションにあまり興味が無いのは本当だが)。


 そういった事情もあり、野次馬の飛鳥への食いつきは場の空気を変えるほどの勢いを持っていた。


「え、いやその……私は……」


 自分の存在に気付きざわめき始めた外野に、流石にいがみ合っていられなくなり飛鳥が挙動不審になる。


 占めた―このタイミングを逃すはずことなく、誠は周囲を威嚇するように睨みつけるイオ(周りの人間の変貌に理解が追い付かず不機嫌になった)の腕を引っ張る。


「おい! 今のうちに逃げんぞ!」


「ちょっと待ってください! 私にはまだやることが―」


「ンなもん知るか! これ以上ここにいて面倒事に巻き込まれんのはごめんなんだよ!」


 抵抗するイオを引きずるように引っ張り、誠は飛鳥に夢中になっている野次馬の中に溶け込んだ。


 その去り際、群がった野次馬に写真を撮られる飛鳥と、それをボディガードのように守る学生神託団の姿に少なからず同情の念を送った。

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