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神の器  作者: ハルサメ
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第24話

「痛ぇじゃねえかこの野郎! 飛鳥! てめえ何しやがる!」


 先手を取られたとはいえ、誠が遅れを取る相手はそうはいない。


 もっとも、その前に声を聞いているので、強襲者が誰であるかは断定できていた。


「私、待ってなさいって言ったわよね?」


 がっちりと間接を決めて離さない飛鳥は、背中越しにおどろおどろしい声音で言う。


「こっちはこっちで体張ってたのに、帰ってきたらもういないし。まぁ最初からあなたが待っているなんて、これっぽぉぉぉぉっちも思ってなかったのだけどね」


 すると何故か飛鳥は自虐的な笑みを零した。


「でも実際にやられるとこの上なくむかつくのよ!」


「だからその方向には腕は曲がんねえんだよッ!」


 一度一杯に曲げられた後に、背中を突き飛ばされる。


「あなたにまともに間接を決めるなんて、初めてじゃないかしら?」


「んな三下みてえな台詞嬉しそうに言うなよ」


 無事を確かめるように右腕を動かす。まだ軋む感覚はするが、大事には至っていない。


 そこで改めて飛鳥の姿を確認する。


 上がジャージで下にデニムのショートパンツという服装は、年頃の少女にしてはあまりファッションに興味が無いことが伺える。


 だがそれが飛鳥らしいと誠には思えた。逆にヒラヒラした服を着ていたら直視できない(滑稽で笑いが堪えられない意味で)。


 顔を隠すように深く帽子を被っているが、トレードマークのポニーテールを見ればそれなりの付き合いならば誰かは一目瞭然である。


 というか帽子とポニーテールは両立する物なのか。


「な、何よ!」


 自分を見て何も言わない誠に、飛鳥は恥ずかしそうに声を荒げる。


「いや、なるほど確かに。ジャージなら小ささもあまり目立たないか」


「折るわよ?」


「オーケー分かったここは平和的に行こうぜ。暴力は何も生み出さない」


「横暴の塊みたいな人間が何を言って―」


「それに周りがたくさん見てる」


「なっ!?」


そこでやっと気付いたのか、飛鳥は焦った様に顔を真っ赤にしながら周囲を見渡す。


 誠と飛鳥の周りには、少し距離を置いて人だかりが出来ていた。


 先ほど亜麻色の髪の美女と喧嘩した男が、今度は黒髪ポニテの美少女と喧嘩しているぞ、と。


 昨日院で問題を起こした身としては、軍が関係ないプライベートな休日であろうとも飛鳥と一緒にいる事は避けたいのが心情であり、飛鳥が困惑しているうちにこっそり逃げ出そう。


 と考えていたが、それは甘かった。


「一体何の騒ぎですか?」


 亜麻色の髪の美女が降臨なされたのだ。「あ、修羅場」と人ごみの中の誰かが呟く。


「誠これはどういう状況ですか? こちらの方は?」


 イオは逃げ出そうとしていた誠の腕を、がっちりと捕まえてくる。


「いやーこいつはなー」


「あ、あなたこそ誰よ!」


 答えに詰まったところで、何故か飛鳥がイオに牙を剥いた。


 その態度にムッと来たようで、イオは一瞬眉をピクッと動かすと、誠では無く飛鳥に向き直った。


 そして頭から順に視線を下げていき、足先まで見た後に再び胸を見て――


「……フッ」


「ちょっと何よ今のッ!?」


「これは失礼しました。まさかの常識を超える戦闘能力の低さだったのでつい」


 クズだ。誠も自分を大層なクズだと認識しているが、イオも負けず劣らずのクズである。


「あ、あなただってそんな重そうなものぶら下げて、肩こったり動くのに邪魔だったりしてさぞ大変でしょうね!」


「えぇ、肩こりに悩まされず、動くのに邪魔じゃない、そんなあなたが本当に羨ましい」


「~~~ッ!」


 悪魔、悪魔がここにいる。地団駄を踏む飛鳥をゲスい顔で眺める悪魔がここに立っている。


 犬猿の仲、というよりは飛鳥が一方的にボコられているだけだが、この二人の相性が最悪なのは、この数回の会話だけで誰が見ても明白だった。


「さて、あなたが誰かは存じませんが、その貧相な部位を大きくしたければ、早く帰って牛乳でも飲んで、淡く儚い夢でも見ていてください」


 追撃というか死体殴りを平気で行うイオに思わず周囲の人間が一歩足を引く。


 そんな中、飛鳥は肩を震わせたままその場に立ち尽くしていた。


「まだ何か言いたいことでも?」


 仕方なくイオが声をかけると、


「う……う……」


「う?」


「この……牛女ッ!」


 飛鳥が泣きべそをかきながら盛大に負け惜しみをぶちまけた。


 いやいや胸が大きいから牛女って悪口にしても意味があまり、


「なん……ですって?」


 という誠の、いや周囲のすべての人間の反応は、話題の標的になった少女には適用されなかった。


 というかクリティカルヒットだった。


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