第21話
翌朝、自宅の部屋で目を覚ました誠は、朝の日課であるランニングをするためおずおずとベッドから這い出る。
上半身裸に下はハーフパンツの状態で、一度大きく背伸びをしてから部屋を出た。
昨日きつかった腹は返って調子がいい。
帰宅前に、突発的ではあったものの少し運動したことが功を奏しているようだ。
誠のむき出しの上半身には多数の傷跡が合った。焼けたような痕や切り傷が至るところに存在している。
養成校時代の物もあるが、その大半は父親である翔に同行し、世界を回っていた時についたものだ。
「死なない術を身につけろ」
翔の口癖であり、そして誠の今まで生きてきた原動力である。
それを身につけるため誠は翔が失踪した七年前まで、死地をさ迷う訓練を課せられていた。
軍に所属していながらも、傭兵のように世界を回っていた翔についていき、世界中の戦争を目の当たりにして、ある時はその一つの歯車になり参加した。
その際、神撃を覚えたというよりは、覚えるしかなかった。そうしなければ死ぬという局面に立たされ、僅か八歳で神撃を放つ事が出来た。
その誠の境遇を後で知り、虐待という人もいたが誠は特にそうは思わなかった。
苦しいとか、何で自分がこんなことをしなければならないのか、と弱音を吐いたこともあるが、その死線を潜ったからこそ誠は死なない術を身につける事が出来たのであり、そこに後悔は一切無く、逆に感謝しているほどだ。
洗面所で顔を洗い、タオルで水を拭く。
昨夜、やはり疲れが出たのか、あの後直ぐにイオは眠りに落ちた、その場はそこでお開きということになり、そのままイオを白木邸に泊め、誠も直ぐに帰宅の徒についた。
イオの話、それは一晩経っても未だ実感が沸かない。
伝聞でしか知らない神という存在、そして神器の関係。突拍子も無いことだけにどう捉えて良いのか分からない。
そしてそれはイオの存在の疑問についてもだ。
昨日の話では何故イオがあんな場所に、それもカプセルの中に格納されていたのかについては一切言及しなかった。
院を出る際にも、抜け出すのに精一杯で会話らしい会話はほとんどして居らず、結局うやむやのまま過ぎてしまった。
かつて人間を指導していた存在にも拘らず、何故イオはあの場で人間の管理下に置かれていたのか。
イオには今の世界の知識が殆ど無い。物を知らない、というわけではなく、誰もが知ってるような固有名詞を知らない。
日本という国の名前にすら疑問を持っていたほどだ。
よほど長い年月を眠っていた、だが何故眠る必要があった。
そして何らかの理由で姉妹全てが眠ったと仮定するなら、何故イオだけが遅れたのか。
単なる寝坊、そう決め付けて良いのだろうか。
そこで思考を中断する。考えることが多すぎてしまい、整理が追いつかない。
自分は頭が悪いとは思っていないが、理論的に考える事が苦手であることは確かだ。
「おはようございます」
「あぁ、おは…………ちょっと待てこれはどういうことだ」
リビングに入った誠は、かけられた挨拶に普通に返事をしてしまいそうになるのを、何とか抑えた。
誠は一人暮らしだ。父親と暮らしていたマンションに、今は一人で暮らしている。
だからこそが他人と朝の挨拶を述べるどころか、そもそも失踪した父親以外で勝手に家に上がれる者はいないはずだ。
「……何でお前ここにいやがる?」
問題になっている少女、亜麻色の長い髪の少女はソファーに座りながら、眠たそうに誠の前で大きく欠伸を漏らした。




