第16話
反射的に展開された花びらの陰に身を潜めた。そこぐらいしか身を隠せる場所が無い。
隠れて直ぐ、覆面をした完全武装の者たちが、警戒するように銃を構えながら部屋へと侵入してくる。
神器戦闘が主流ではあっても、小型の銃火器が持つ利便性の良さは消えてはいない。
神器は個人の特定にも繋がり、また感知されてしまうと意味を成さないため、奇襲や隠密性を重視する時には未だ形態兵器の方が理にかなっている。
どこかのテロ集団。おそらく地上の騒ぎは陽動で、本隊が忍び込む隙を作っていたのだろう。
身につけている装備などにも識別する特徴は見られず、少なからず有名どころの神託団の情報を持っている誠でも判別できない。
だが軍を逆手に取っている以上、それに並ぶ規模の組織である事は確実だ。
それはつまり五大神託団のような。
武装した男たちは警戒しながら、部屋の中央にいるイオの前へと進んでいく。
―やはりか。
最初からこの部屋を目指していたと仮定するならば男たちの目的、それはイオの強奪。この部屋で研究されていたことを考えればそれが一番自然である。
しかし、男たちに一つアクシデントが起きている。それを証明するように、マスクで表情が見えない男たちはしきりに何かを話しどこかに連絡を取っており、その姿は狼狽しているように見える。
おそらく問題は当のイオが、入っていたはずのカプセルの外にいたことだ。
研究室を制圧後、イオの入っていたカプセルごと転移型神器で移送。その作戦内容であながち間違い無いだろう。
だが肝心のイオが自由に動ける身となり、対処の方法が分からない。
意思を持つ人間の抵抗を無力化するにはどうしても危害を加えなければいけなくなってしまう。
「あなたたちは何者ですか?」
これまで沈黙していたイオが男たちに問いかける。その声には当然か、苛立ちのようなものが感じられる。
対して男たちは話がまとまったようでイオに顔を向ける。
「我々はあなたの姉上の使いの者です」
男の言葉を聴き、イオは顔をしかめる。
イオの姉、ということはもしかしたら男たちはイオを助けに来た側の人間かもしれない。そんな考えが誠の頭を過ぎる。
強攻策で囚われのイオを助けに来た、と解釈できる。
「姉……このやり方、オルテガでしょう。なるほど、確かにこんな場所で監禁されるよりは、今の世界がどのようになっているのか確認する必要がありますね」
男たちが醸し出す禍々しい雰囲気とは打って変わって、イオは実にのんびりとした口調で話した。他人事のような、どこか眠そうな感じである。
「ですが、私はあなた方についていく気は毛頭ありません」
さっさとそいつを連れて出てってくれ!そう思っていた誠を、なんとイオが指差した。
「私は彼についていきます」
―彼って、誰だ?
もう話をまったく聞いていなかった誠だが、何が起きたかは理解した。
陰になっていてイオが、自分が隠れている場所を指しているとは気付いていないが、男たちが一斉に誠が隠れている場所に目を向けたのだ。
「誠! 早くこの方たちを撃退してください!」
―何言ってんだこいつ!?
イオの謎の言葉によって男たちは誠のいる場所に銃口を向ける。
そもそも男たちは逃走しようとした主任の男を容赦なく射殺している。当然殺すことに何のためらいを持っていない。
つまりこのままの状態では殺されることは確実である。
「殺せ」
男の一人が無情に呟く。それに呼応し、向けられた銃口から複数の弾丸が発射される。
直後、誠は神撃を放つ。
姿が見えず瞬間的、広域的に放ったため気を失わせるほどではなかったが、神撃に怯み銃弾の嵐が一瞬止む。
だが銃に対抗できる武器を持っていない今の状態で打開策などない。
対神器戦闘なら、相手が神器を扱う戦闘において誠は無類の強さを誇る。
しかし汎用化された銃火器にはその強さは適用されない。
誠は自分の神器を持っていない、持っていてもそれは誠にとっては意味が無い。
神撃は操れるが、誠にはその神力を使い神器の能力を発動することはできない。
誠にとって神器とは何の変哲も無いガラクタ同然の代物。
それが誠の抱える問題である。
―俺の人生ここまでか……
「ぐぁっ!」
誠が人生を諦めた時、男たちがいる方から苦痛の悲鳴が聞こえた。
驚きの光景だった。イオが男たち相手に肉弾戦を挑んでいたのだ。
片や完全武装の男数人に対し、白衣姿の少女一人。
誠自身戦力外として考えていただけに、予想外だったようでテロリストの注意がイオに向けられた。
傷つけないで取り押さえることが出来ず、イオの暴動を許してしまっている。
しかもイオの動きは様になっていて、最初の動きで男から銃を奪い去り威嚇しながら暴れている。
どうやらやるしかないようだ。イオが作ったこの隙を、逃すわけには行かない。誠は身を乗り出し、男たちに向かって走り出す。
誠の動きに気づいた一人が銃口を向ける。しかし、その後頭部を背後からイオが銃で殴りつける。
完璧と賞賛できるほどのジャストなタイミング。
意識が朦朧としているテロリストを掴み、仲間の方へと放り投げる。避けきれずにもう二人が巻き込まれていく。
間髪入れずに咄嗟に奪い取った銃の引き金を引く。セーフティは解除してあり、放たれた銃弾はテロリストに降り注ぐ。
しかし相手の防具は頑丈で威嚇射撃にしかならない。
舌打ちを交え、相手が銃弾に怯んでいる隙に誠はイオと一緒に距離を取った。
「意外に動けるんだな」
正直イオが奮闘してくれなかったら危なかっただけに、襲われる原因を作ったとしても感謝しきれない。
「私は姉妹の中でも汎用性を重視されています。この程度の白兵戦は想定の範囲内です」
再び理解不能な言葉が並んだが、今は気にする時では無い。今重要なのはここからどう逃げるかということだ。
その時だ、男たちが発する雰囲気が突然異なった。
今までとは違い明確な殺意、先ほどの戦闘を見て本腰を入れなければならないと感じたか。
―来る。




