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神の器  作者: ハルサメ
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第11話

 三ヶ月前、養成校を卒業した神に愛された世代の面々は、当然のごとく世界各国から注目を集めていた。


 だがその卒業式において、彼らはまた別の注目を集めることになった。


 世界最高峰の神託者養成校を卒業したにもかかわらず、軍に入隊することのなかった一人。その奇妙な経歴を持つ人物の正体を、世界各国は血眼になって調べ出した。


 表に出ている入隊者の情報はおのずと知れ渡る。だが養成校を卒業できる人間がただの人間であるはずがない。


 それを脅威と感じる者、仲間に引き込もうとする者。様々な思惑を持った者たちがその正体を追った。


 しかし、その情報はことごとく軍によって規制されていた。軍事機密として一切漏れることなく管理され、それが男なのか女なのかすら掴ませることはなかったのだ。


 実態が掴めないその存在は、いつしか切りジョーカーと呼ばれ、軍の最終兵器として世界各国に脅威として認識されるようになっていった。


―という話になっているとは知らず、そのジョーカー本人はソファーに寄りかかり呑気な欠伸を漏らしていた。


「自分が何をしたか、分かっているの?」


 その正面に座る飛鳥は腕を組み、鋭い眼光を誠に向ける。鬼のような形相だ。


「むしゃくしゃしてやった、後悔なんて微塵も無い」


「……………………」


「ただ調子に乗ってる輩をのめしただけだろ。別にそれが軍の人間だろうが誰だろうが、俺からしたら赤の他人だ」


「血の気が多いのは相変わらずなのね」


 誠が神崎をノックアウトしたことにより、研修会はその場で中止になった。誠はそのまま飛鳥に拘束され、応接室―さすがに院の中に拘置部屋はないため―に通された。


 部屋に入った時点で拘束は解かれ、両者はテーブルを挟んでソファーに向かい合った。


「お前も上官に牙剥いたじゃねえか。事あるごとに突っかかってきた養成校の時と何も変わってねえな。……その貧相な胸も」


 ダンッと間に置いてあるテーブルに飛鳥が拳を叩きつけ、その威力に木製のテーブルはミシッ!という嫌な音を響かせる。


「養成校の時はあなたが事あるごとに問題を起こしていたからでしょう! それから今は胸の大きさは関係がないでしょッ!」


 そして顔を真っ赤にしながら訴える。コンプレックスなのか、かなりムキになっているように見える。


「問題児なんてのは元から知ってたんだから、ほっといてくれてよかったんだよ。それを律儀に注意していたのはお前の勝手だろうが。それぐらいでキレるなんて、小せえのは胸だけじゃなくても器もか」


「表出なさい!今すぐにッ!」


「やってもいいが、お前……俺に勝てると思ってんの?」


やる気のない誠の声音、だが憤慨していた飛鳥は一瞬苦い顔をする。


「国際A級を取った天才様は、一度でも俺に勝てたことがおありでしたっけ?」


 養成校首席卒業。その称号に偽りはなく、それに相応しい実力を持っている。最年少で国際A級ライセンスを取得する飛鳥の実力は疑いようがない。


 だがそれは卒業生の中でも、一番の実力の持ち主というわけではない。


 首席卒業はあくまで実技と座学の総合成績一位の者に与えられる勲章。そして養成校時代の飛鳥の成績は座学一位と……実技二位。


 実技の一位は飛鳥の目の前でにやりとした笑いを見せている。


 養成校を卒業した神に愛された世代、その中で実践的な能力が最も高かった者。奇しくもそれは確かにジョーカーと恐れられるに値する力を持っているのだ。


「……それを分かっていながら、何故あなたは軍に入隊しなかったの?」


 先ほどまで怒気が浮かんでいた飛鳥の表情が、諭すような妙に冷静なものに変わる。


「あなたは私たちの中で誰よりも高かった。それなのに何故、その力を使うべき場所を放棄して、よりにもよって学生神託団なんてやっているの?」


「元々養成校に入ったのだって、親父の遺言に従っただけだ。そして卒業してからは好きにしていいって言われてんだよ。養成校でも十分分かっただろうが、俺に集団行動なんてのは無理なんだよ。それが軍の中で楽しくやってけると思うか? んで働く口も無かったところ、知り合いに学生神託団で働かないかって言われたんだよ。衣食住の保障に対して学生のトラブル取り締まってりゃ良いだけなんだから気楽で―」


「だからと言って、あなたが今の現状に満足しているとは思えない。あなたはその程度のことを気にしない。不謹慎にも神器戦闘を楽しいと言っていたあなたが、それに相応しい場を、その程度の理由で去るとは思えない。少なくとも私の知る八神誠はそういう人間よ」


 今度苦い表情をしたのは誠の方だった。

自覚がないわけではない。誠は確かに今の現状に消化不良を引き起こしている。


 一重には周囲を低く見ていないと言ったが、それでも物足りなさを感じているのは否定できない。


 戦いたいなら他のところでやれ。社にもそう言われた誠は、その言葉を甘んじて受け入れるしかなかった。戦いの本場から自分の意思で離れた誠には耳の痛い言葉だ。


「別に学生神託団もただ退屈ってわけでもねえよ。養成校とはまた違った面白さがある。だから俺はそれで十分なんだよ。それに、俺の体質も軍的には面倒なものなんだから」


「あなたが抱えている問題は知ってる。だけどその問題だって結局は養成校の誰もあなたに敵わなかったことでクリアされても」


「……まぁ別にそれだけってわけじゃねえんだかな」


 軍に昇格しなかったのには誠なりの事情がある。誠が抱えている特異な問題も一つの理由だが、それ以上に軍という組織に疑問を感じたからである。


「16年前に起きたネオビックバン。その発信源がどこか知ってるか?」


「え、確か南極だったはずだけど」


「じゃあ16年前、その南極で何が行われていたかお前は知ってるか?」


「……どういうこと?」


 誠の質問に飛鳥は眉をひそめる。


「簡単な話、お前はネオビックバンが起きた原因を知ってるかってことだ」


 誠はいつにない真剣な面持ちで言う。そこにはいつもの小馬鹿にした態度は見られない。


「ネオビックバンは言ってしまえば世界規模の神撃だ。んでそれが南極を中心に放たれたのは分かっている。だが、お前はそれ以上の情報を知っているか?」


 問われた飛鳥は、無言で頭を振る。


「養成校でもそれしか教えられない。そして実際軍に入ったお前ですら、その真実を知らされていない。そして俺はその秘密が知りたい。だから軍にいるわけにはいかないんだよ」


「ちょっと待って、貴方は軍がネオビックバンの真実を隠しているとでも言いたいの?あれは軍の中でも原因不明で―」


「16年前。ネオビックバンが起きる1ヶ月前に、軍のある調査隊が南極へと派遣された。隊長八神翔、副隊長……石動元」


そこで飛鳥が息を呑んだ。


「俺とお前の親父。俺たちが母親の腹ん中にいた時に、その二人が何をしていたか分からない。だが、この二人がネオビックバンに関わっている事はほぼ確実だ。今のところ調べられたのはここまでだ。どうやら軍は本気でこの情報を隠したいらしいからな」


 後半は飛鳥の耳に届いていたかは怪しい。目を見開き、怪訝そうに眉を潜め呆然としていた。


 父親がネオビックバンに関わっていたことに驚いている。だがそれが普通の驚きでないことに誠は分かっていた。

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