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荒野のエリカ  作者: ロイヤーリテッド・フォン・メランリヒト
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家族と私1

風が窓を揺らした。


何気なく外を見ると、薄明かりの中を雨がそぼ降っている。

”空が私を呼んでいる気がした”

寝台から体を起こし、ゆっくりと窓に向かう。

空は広く遥か彼方に広がり、雨が薄明りのもとへ私を誘う糸のように思えた。

窓台に腰をおろすと、石造りの窓台は拒むように私の太ももを突き刺す。

冷たい現実に戻されるのを感じる。


薄暗い部屋を見ると、広く清潔感のある白い空間に、天蓋付きのベット、専門書の入った本棚に、一人用の丸机と椅子に、鏡台、必要最低限の衣装が入った衣装ケース。

物心ついたころにはすでにそこにあり、変化したのは衣装ケースの中のみだろう。

どれも私のものであるのに、どこにも私らしさはなかった。


そして、この部屋は両親の部屋から最も遠く、姉弟の中では一番質素であった。

私の記憶する限り、お母様は、私の下に自らの赴いたことはなく、久方ぶりにあったとしても、目を合わせることはほとんどなかった。お父様に至っても同じようなもので、唯一の違いは、2か月に1度、4歳の頃より本格的に始まった教育進度の確認に呼び出され、その時に必要最低限の会話をすることがあることぐらいであろうか。

そんな生活があと一カ月で2年になる。


トントン

「エリカ様お目覚めでしょうか」


始まりの合図が鳴った。

侍女たちが私を着替えさせ、食事を与え、学習させ、寝かしつける日常の合図が。

公爵令嬢の私を演じる日常の合図が。


「はい。どうぞお入りください」

ーーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

『アベルの日記』帝国暦20年11月11日

曇り時々小雨

昨日のセレモニーのことが頭から離れない。

献花台に捧げられたエリカの花がそぼ降る雨に打たれていたのが目に浮かぶ。


なぜ、陛下の過去を知ろうとしなかったのか。あの方の過去を知っていれば、お支えできたこともあったのではないのか。今になって後悔ばかりが押し寄せる。


私は怖かったのであろう。

私にとってあの方は才色兼備、完全無欠の傑物だった。

そんな、私の理想をあの方に押し付け、それを破壊されることを恐れたのだろう。


我々古参側近は陛下とご両親の不仲を知っている。


だが、そのことがあの方のーー彼女の心をどれほど傷つけていたのかについて知らなかった。


あの鉄仮面の下には、どれほどの傷があったのだろうか。

あの作り笑いの下には、どれほどの涙があったのだろうか。


私はそれを知らない。


帝国宰相の地位をあの方よりついで早くも十数年、彼女の思想を知り、受け継ぐ為にも彼女の過去を、夢を、追いかけようと思う。


今更何をーーと貴女は言うかもしれない。

だが、私の憧れである貴女を知ることを許して欲しい。

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