プロローグ
今思えば、必然であった。
私が、初代皇帝エリカ1世に関心を持つことがーーだ。
私の家は、曽祖父のアベルがエリカ1世に側近として見いだされ興った家であった。
故に、曽祖父、祖父、父、兄をはじめ一族が彼女と彼女の残した帝国への忠誠を忘れることはなかった。
もちろん、私自身もである。
だが、無能である私にとってこのわが身を溢れんばかりの忠誠を示すすべは、限られている。
もし、帝国とその臣民がエリカ1世の信念を正しく受け継ぎ、康寧と万邦共栄の理想を追い続けていたのならーー
私は、一臣民として。そして、一帝国士官として。
出来うる限りの忠誠を示し続けたであろう。
しかし、身の程を超え、恥ずかしくも、家の権威と資産を持って、彼女の人生をこの書に書き記すに至ったのは、曽祖父の口述と日記から伝わるエリカ1世の像と思想が、いま"後継"を名乗る独裁派・自由派が言う、いずれのそれとも異なるからである。
彼女は、独裁派がいうような完全無欠の英雄でなく、自由派がいうような民に支えられた解放者ではなかった。
そして、教会が語るような神の恩寵にあずかった聖女でも、議会が語るような民の栄誉にあずかった指導者でもなかった。
彼女は確かに天才であった。だが、彼女もまた、我らと変わらぬ、運命と権力に翻弄された、一人の少女に過ぎなかったのだ。
私は帝国が、長きにわたる政治的、経済的、はたまた外交的停滞によって混乱する今だからこそ、皆が知る皇帝としての伝説ではなく、一人の少女の人生を一度知ってほしい。
そして、皆が真にエリカ1世の意思を継ぎ、彼女の願いに応え、国家を愛し、友を愛し、そして人類の幸福を追求してほしい。
神の恩寵に預かりし帝国皇帝にして7つの国の王、民の栄誉によって選ばれし帝国の総統、エリカ・フォン・バルトよ。あなたについて語ることを許し給え。
そして、国母エリカ1世よーー
貴方が再び、迷える貴方の子供達を導かんことを。
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