【超短編】 高速道路を降りられなかったら異世界でした ETCがエラーになるから「みんな異世界転移」~そして俺はV6を称えた~
「え…カード挿して無かった?」
急停車した車内に響くのは、聞き慣れた声による、聞き慣れない案内音声
『ETCカードが読み取れませんでした』
ヤバイ と周りを見ると隣のレーンもみんな止まってる
「えっ なんで?」
アホ顔してるのはフリーター歴3年
趣味はドライブの 廃屋 満短
仕事はレンタカーを別の所で乗り捨てた車両を、元の営業所に戻すドライバーだ(専門的には回送ドライバーと言うよ)
今日は「中央フリーウェ~イ♪」を競馬場横目に府中から八王子に走る簡単な仕事
――
「……ヤバイな詰まってきた」
バックミラーには、車列がどこまでも続いてる
でも隣のレーンも全て詰まっている
これは俺だけの問題では無い
もっと世界的な問題のはずだ
最近は料金所も無人化が進んでいる
人が来る気配もないため、仕方なくエラー時の呼び出しボタンを押す
「プルルル……ブツン――」
無理矢理切られたように呼び出し音は無くなってしまう
「なんだよ感じ悪っ」
思わず悪態をついた時だった
――世界が、紫色に歪んだ
酔っぱらったみたいにフラフラと平衡感覚がバグる
――
「うわっ昨日飲み過ぎたかな 飲酒運転にはなってないと思うけど」
無駄な言い訳を言っていると周りがザワつき出した
ヤバイ 煽り運転的なサングラスに絡まれるのか?
っと勘違いしたが違った
周りの様子がおかしい
みんな車から降りてしまっている
「二日酔いになってる間に大地震でも来たのか?」と思って外に出ると
空に、巨大なトカゲが飛んでいた
いや、羽根があるからドラゴンだ
「あっ、バハムート……? いや、海竜っぽいしシルドラ寄りか?」
俺はフェンネルファンタジー派だから、つい比べてしまう
ドラゴンは多摩丘陵を悠然と飛び、小仏トンネルの方へ消えていった
「いいな〜空は渋滞しなくて」
■異世界の物が多摩を飛んでいる
こんな光景は「平成たぬき合戦ポヌペコ」くらいでしか見た事が無い
――
「――選ばれし者たちよ よくぞデスロードへ」
マッドマックスな声が空から響いた
思わず空を見上げると「V6」という少し日本車的なエンジンを称えるエンジェル達が降ってくる
「あー俺は死んだんだな」
非現実的な光景にそう思った
――
「お前の車はV6か?」
「え?……まぁ良いグレードの奴なんでV6です ハイブリッドで古いですけど」
「ハイブリッドぉ?なんだソレは……OHVでは無いのか」
やたらアメ車に詳しい天使に突っ込まれる
「ハイブリッドならDOHCでしょう 2倍ですよ2倍」
「2倍なら問題無い V12では無いか! スタートを待て」
天使が空へと帰ってしまう
「いや……そういう訳では無いんだけど~」
周りでは悲鳴が聞こえる
横を見てみると直4がペシャンコにされていく
直4は生きる価値が無いらしい
急にナビ画面に高速道路だけ、一般道が描かれて居ない地図が現れる
「あっ 八王子第1出口がゴールなんだ 第2じゃないのは珍しいな」
そんな事を思っていると料金所が無くなり
ETCのバーだけがスタートテープのように空中に浮いていた
――
亀の甲羅を背負ったスターターが筋斗雲に乗って現れる
「ETCに選ばれしお前たちには、これからデスレースをやってもらう」
かわいい見た目をしてるのに4DXのような臨場感あるダミ声だ
「負けた者には通行料が延々と請求されるぞ」
恐ろしい
これだけ迷惑をかけたのに、まだ通行料を払うなんて
「ではスタート3秒前からだ」
大丈夫だ落ち着け
この方式なら2秒前からアクセルを踏めばスタートダッシュが成功するはず
「3・2……」
ブオーン
「アレっ?」
「フライングにはペナルティだ ドラゴンを重りに載ってもらう」
ズシンッ
重い けど軽い
空を飛べるのだから見た目ほど重量は無いのだろう
「V6なら耐えられる V6を称えよう」
「1・スタート!」
デスレースが開始される
……
――
……
と同時に係の人が来てチラシを配ってる
「すみませ~ん システムエラーなんで後日対応で~す とりあえず通っちゃって下さ~い」
あの景色は二日酔いの白昼夢だったのだろうか?
「あっ はい お疲れ様で~す」
俺は仕事に戻り
八王子第二インターで降りて目的の営業所へ向かう
仕事は遅延も無く終わっていた
――
後日ニュースを見て
「やはりアレは幻では無かったのでは無いか」と思う
ワールドビジネスニュース
「アメ車が1番で~す V6 V8以外買う人の気持ちが分かりませ~ん 特に日本人 お前らは関税マシマシで~す」
V6を称えよ
完
作者メモ
私の車は直4ですので潰されます