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第93話 建国祭最終日と勇者の行方(勇者視点有り)

 時計塔から出てこなくなった。もう打ち止め、かな?


『ドライ、リズ。ごめん、一人取り逃がした。それからこっちはもう出てこなくなったわよ』


『ファラ、こっちもだ。こっちも一人逃げたけど、イスが転移で追いかけてくれた』


『なら安心ね。おそらくだけど、同じところに飛んでいるだろうし。あ、屋上は?』


『屋上は今リズが行ってくれた。そっちはそのまま兵士さんたちが来るまで待機で』


『わかったわ』


 現状、時計塔内の気配で、あわただしく動く気配や、魔力の動きは無さそうだ。


 ファラが言ったように、時計塔の中から転移で逃げたものがいるなら、捕まえられれば助かるんだけど。


 と、考えていたら――


 ドサドサドサドサ……。


『たっだっいまー。いっぱいいたから全部捕まえてきたよー』


 と、期待どおりの念話と共に十数人と一緒にイスが俺の前に転移で帰ってきた。


「イス! ありがとう!」


『どーってことないよー。手加減パンチで一発だったしねー』


 イスのパンチ……にょろにょろと複数の触手みたいに伸びて……うん、考えないでおこう。それより――


「――こんなに転移の魔道具を持っていたなんて、思わなかったよ」


『でも転移で逃げたところはこの王都だったわよ。そんなに遠くまで飛べない安物ね』


「え? 王都内なの?」


『そうよ。時計塔の大通りをまたいだ教会の地下だと思うわ。めちゃくちゃ近くね』


「は?」


 イスが言った場所。本当に目の前だ。それを聞いてたファラとカイラさんも――


『え? ここ?』


『そうなのですか?』


 時計塔の向こう側だけど、振り向き驚いてる二人の姿が脳裏に浮かんだ。


『そうなのよ。だから兵士が来たらそっちも捕まえてもらったらいいんじゃない?』


 ……その通りだ。逃げ込む先が教会なら確実には、味方がいるはずだ。


『ねえドライ。私、今から王様に報告してこようか? こうなったら教会はアザゼル派だけじゃなく、一度立ち入って調べた方がいいもの』


『だよな。ファラ、頼めるかな』


『任せて。カイラはここで残党を見張っていてね』


『承知いたしました』


 飛び去るファラを見送り、イスが連れてきたものたちから、鑑定しながら魔道具を取っていく。


 お、これが転移の魔道具か。ネックレスのトップ型に、ブローチ型もある。


 半分以上は、転移の魔道具(破損)になっているので、使ったあとのもののようだ。


 使い捨ての魔道具、ね……でも、ほぼ包囲されたあの場から抜け出すだけでアリバイができるようなものだし、有用な魔道具だよな。


 問い詰められようが、『私はそこにいませんでした』と言えば、通っちゃう。


 前世のように監視カメラとか、あるわけ無いし、これだけの数があるってことは……。


 この人たちって日常的に悪さをして逃げる準備をしていたってことだろ?


 ……そうすると、それを使わず時計塔から出てきた人たちは何を考えてんだ?


 でも……今回のような大がかりなことで、俺たちがほぼ完封したから起きたイレギュラーなのかもしれないし、考えられることは姿を見せておいて時間稼ぎ……なら有り、か?


 それも下っぱだけではなく枢機卿クラスのお偉いさんも姿を見せたんだ。みんなここから出てくると思い込んじゃうか……。


 あ、モラークスのように教皇選出に入れない下っぱの枢機卿だから、あえて危険を冒したパターンが一番しっくり来る気がする。


 イスが連れてきたものの中にも枢機卿が三人いるし、残りは時計塔から出てこなかった教会騎士となっている。


 なるほど。確実性を考えて、一番偉い枢機卿と、それを護る教会騎士は時計塔の中から転移で逃げたんだ。


 残り二人の枢機卿は大通り側と俺たち側で逃げた二人、か。


 そう言えば一人だけ凄くじゃらじゃら魔道具つけてた枢機卿の称号に、カサブランカ王都分院長になっていた。


 分院長は冒険者ギルドの支部長みたいなものか?


 ふう。でもそう考えると、やっとスッキリした気がする。


 そこへ騒ぎが治まり、ぞろぞろと出てきた人たちをかき分け兵士たちがやって来た。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 sideアーシュ


 そうだ、そろそろカサブランカの王都が火事になってるはずだ。


 確か建国記念日かなにかで花火が燃え移ったんだよな……。俺の活躍するイベントだってのに。


 確かそこでパーティーメンバーが発表されて……ああー! そうだ! そこで聖女と!


 ……はぁ、原作とえらく変わってきてるけどよ、どうなんってんだ? 俺の童貞はいつ捨てられるんだよ……。


 いや、原作からここまでズレちまってるならよ、もういいんじゃねえか?


 モラークスはここの教会に行って夕方まで帰ってこねえんだよな……。


 くくくっ、ここの孤児院にも回復魔法が使える聖女がいるって言ってたな。


 ……なら、そいつとならやりまくってもいいだろ……よし。


 カップに残っていたワインを一気に喉へ流し込み、ガキどもの声がする外に出た。


「おいガキ、聖女はどこだ?」


「あ、ゆうしゃのおにいちゃん。せい()()のお()()ちゃんなら、うまやでおうまさんさんのおせわしてるはずだよ」


 ほほう。馬屋か、確かキリストは馬屋で産まれたんだよな……くくくっ、なら、馬屋で種付けしてもおかしくねえってことだ。


「ゆうしゃのおにいちゃん、どうしたの? あそんでくれるの?」


「なんでもねえ。勝手にあっちで遊んでやがれ」


 ガキを置いて馬屋に向かう。


 いた。ブラッシングする聖女の後ろ姿。同い年か、ちょっと上くらいか。ちと太ってるが、我慢するか。


 てか、隣で一緒にやってる男が邪魔だな。


「おい! 聖女、ちょっと来い!」


「ん? 勇者様だべか。なんだべ。あたしに用だべか?」


 振り向いた聖女は確かに若かった、が、俺の母親にそっくりだった。


「あ、いや……」


 期待に膨らんでいた相棒が、一気に力を失ったのがわかった。


「あ、わかっただ。おめー話を聞いて来たんだベ。しかたねえべな。こっちさ来るだ。すぐに抜いてやんべ」


「え? お、おい、コラ、引っ張るな! コラ! そ、そこは――」





 馬屋の裏に連れていかれた俺は、聖女だと思っていた母親似の小太り聖者に……食べられた。

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