第89話 建国祭初日終了と勇者の行方(勇者視点あり)
次はその花火で火事が起こるんだよな。それを勇者が複合魔法の二つ目、瀑布魔法で消すはずなんだけど……。
まあ、それは俺がやるとして、花火って火薬があるのかこの世界……。
花火があるなら火薬を使用した爆弾とかはありそうなんだけど、聞いたこともない。
原作にも花火の打ち上げが失敗して火事になる的なことしか書いてなかった気がする。
……わからなければ聞けばいいか。
「リズ。花火ってどう上げるのかな?」
「花火ですの? 花火は火、土、風属性魔法使いの方々が協力しあって撃ち上げるのですわ」
「魔法なんだ」
「ですわ。よく燃え、燃えると色が鮮やかに光る粉を土魔法で固め、風魔法で打ち上げ、それを火魔法で撃ち抜くのですわ」
「そうなんだ。ありがとうリズ」
ほほう。って火薬あるじゃん! 上手くやれば爆弾作れるし、銃だって作れるかも……。
いや……まだ表立ってないだけで、どこかで作られているかもしれないってことか。
「ドライよ、そろそろ下ろしてもらえないか? これではまるで見世物ではないかと思うのだ」
「あ……忘れてました」
そうだ。王様、城壁から飛び出したから助けてたんだった。
……アンジーにひっぱたかれて、ぶっ飛んだけどな。
その顔の腫れた王様を回復させながら城壁の上に戻る。
「ふう。酷い目に遭った。アンジェラの育て方も間違ったのだろうか」
城壁の上まで戻ってきたところで、今の話を聞いていたアンジェラがパキパキと指を鳴らしながら待っていた。
「オヤジ……もう一度ぶっ飛ぶか? 今度はドライに助けるなと言っておくが」
「むむっ……そ、それはまだ困るな。すまない。アンジェラ、お前は我が子の中で一番面し……可愛いぞ」
面白いって言いかけてるよこの王様……。
アンジーは『面白い』の部分を聞きそびれたのか、可愛いと言われてまんざらではない表情だ。
「王様、この後はどうするんです?」
王様を城壁の上に下ろし聞いてみることに。原作だと初日に起こるイベントはワイバーンだけだ。
あとはリズたちと露店巡りをしたかったんだけど、おそらく無理。
俺たちの顔は、ほとんどの人はちゃんと見えてないとは思うけど、似てると思われただけで身動きとれなくなるのは目に見えてる。
だから王城の庭でも借りてバーベキューでもできたらなと思う。
「この後は好きにしていいぞ。その前にワイバーンはしまっておけよ」
そうだった。置きっぱなしはまずいよな。
「わかりました。ワイバーンを回収したあと王城の庭でバーベキューしてもいいですか?」
「もしかしてワイバーンを食べるのか?」
「はい。美味しいらしいですよ」
「なら私も仲間に入れろ。ワイバーンを食べたことあるものはもう生きてはいないだろうからな」
ん? あ、そうか、魔王の名もなき島にしかいないとか言ってたな。
「古い文献にも、肉の美味さは元より、皮や骨の素材としての価値も高い評価が記されていた」
ほほう。なら皮で防具とか作りたいな。みんなでお揃いの。
他にもなにか使えたりするのかな……その本読んでみたいな。頼めば見せてくれたり……
「なんだ? そんなに私を見て……ドライ、お前、文献を読んでみたいのか?」
「そうですね。ワイバーンでなにができるか気になりますし」
「構わないぞ、城の図書室にあるから読めばよい。アンジェラの婚約者なのだ、遠慮はいらん」
「ありがとうございます。時間のあるときに」
図書館か、それも王城の図書館ならついでに火薬とか爆弾のことも調べられそうだ。
王様は最後に民衆に向かって挨拶して今日のイベントが終わった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
sideアーシュ
「モラークス。コイツ、ずっとついてくるのか?」
ワームが俺様のアレを飲んで育った勇者ワームが肩に乗っている。
「……さて、どうなのでしょうか。鑑定ですと勇者を冠していますし、元々こちらから攻撃しなければ土壌を耕すだけの魔物でございますし……」
トイレットペーパーの芯程もない小さな勇者ワーム。あの日からほぼ毎日エサのかわりに食いつかれてる。
転生前は童貞でいつもお世話になっていたテ○ガに匹敵するほどの気持ち良さだからいいんだが……。
勇者になってからは教会から言われるがままやれてない。
勇者は聖女と結ばれるまでは童貞でいなけりゃならねえとかふざけてんのかと何度も言ったが無理だった。
転生前の二十五年プラス異世界に来て今は十五歳。確かに光魔法と限界突破が覚醒した五歳。
やはり累計だが三十歳まで童貞なら魔法使いになるってのは本当のことだったみたいだな。
「しゃーねーな。なら名前は……オ○ホじゃアレだしなテ○ガも……よし、お前はミーギだ!」
俺の相棒右手をもじってやった。名前をつけたとたん、なにか繋がった気がする。
スリスリと身体を俺のほっぺたにすり付けて来やがる。……よく考えたらミーギは俺のを咥えてたんだよな……後で洗ってやろう。
「ところで勇者様。聖剣はいかがですか?」
「おう。さすがに十年分貯めた前のよりは弱いが聖剣にはなったぞ」
ずっと使っていた聖剣はレベル15まで上がってた。
聖剣のレベルとか、なんなんだよと思ったが、レベルが上がるたびに切れ味がよくなる。
安売りしていたただのワンハンドソードが今はレベル1の聖剣だ。
新しい聖剣でこれから魔物を倒していけばいいってことだよな。あとは聖女は教国についたら会えるらしい。
「それはよかったです。新たな聖剣ができませんと魔王討伐に支障が生じますので」
「はっ、任せとけ。それよりまだ転移は無理なのか?」
「はい。ワームどもに魔道具を根こそぎ持っていかれましたので」
モラークスがワームがいた森から全力で飛んだが教国まで行けなかった。
なんとか人がいる村までたどり着いて皆殺しにして服と錆びだらけだった剣を奪った。
ま、NPCをぶっ殺してもなんとも感じねえけどな。
それから何度も繰り返し飛んでは村を襲い、今はブランシード公国ってところにいる。
「おっ、馬車だ。おい、モラークス、馬車は運転できっか?」
こんなところをのろのろ歩いてるくらいなら馬車の方が良いに決まってる。
「それは可能でございます」
マジか! てかなんで最初っから気がつかねえんだモラークスのヤツ。馬鹿だろ。
「……なら~、もらったもん勝ちだろ!」
「行ってしまわれましたか。くくっ。よい感じに負の感情を量産してくれますね、今代の勇者は。扱いやすくて助かります」