◆第83.5話 名もなき島(モラークス視点)
「なんだ? おいモラークス。ここはどこだ?」
「おかしいですね、教国の大聖堂に飛ぶはずなのですが」
見渡す限り岩と砂。ほんのりと塩の香りがしますから、海が近いとは思うのですが……。
「てかよ、なんで逃げんだよ、あんなヤツは俺様の爆裂魔法で簡単にぶっ殺せたのによ」
「いえ、あのドライというものは考えていた以上の化物だったようです。一瞬とはいえ、勇者様の爆裂魔法を押し止めたのですから」
あと数秒転移の発動が遅ければ、勇者様の爆裂魔法の熱気で私たちも危ないところでしたし。
……勇者様を連れ出せたのでよしとしましょう。
「そうかぁ? まあ動きは悪くなかったがよ。ま、今頃は熱で灰になってるだろうけどな、地下牢もろとも」
「そう、ですね。しかし、あれほどの魔力量を持っていたとは……。それだけに従者にできなかったのは残念でなりません」
本当に残念でなりません。五年前の熱病を解決させた張本人。勇者の従者として、魔王の封印がすんだあと、惨たらしく殺す予定でしたのに。
しかし、あの爆裂魔法の熱気なら、地下牢の入口にいた王どもも犠牲になっているでしょう。
そうなればカサブランカにグリフィン、ミレニアムの国は王を亡くしバタつくでしょう。
その隙をついてもっとアザゼル派の教会を増やせるでしょうね。そうすれば……。
「で、モラークス。早いとこ言ってた教国に向かおうぜ。こんなところじゃ飯も食えねえしなって、魔物がこっちに来るぞ」
「そのようです……ね? なんでしょうか。あのような魔物を見たことがないのですが……」
双頭の狼……はて、どこかで聞いた記憶が……。
「ま、知らねえ魔物だろうが爆裂魔法で一撃だけどな。くらいやがれ! 爆裂魔法!」
地下牢で見た大きなものではなく、人の顔程度の大きさの魔法が二つ頭の狼に向かって飛び、瞬きほどの時間で命中。
ドゴォォォォォー!
「当たりっと、て、なに!? 吹き飛んでねえぞ?」
「そんな馬鹿な。勇者様の爆裂魔法をまともに受けて死なない魔物が……」
「ま、そんだけ強いってことか。ならもう一発食らっとけ! 爆裂魔法!」
同じ大きさの魔法が少し動きの遅くなった双頭の狼に当たり、それでも原形をとどめたままその場に倒れました。
「へへ。いっちょ上がり。そうだモラークス。俺様の爆裂魔法で消滅しねえ魔物の革で鎧作れねえか?」
「良い考えだと思います。ではストレージに入れて持ち帰りましょう」
数十メートル先の双頭の狼の元まで進み、濃い灰色の毛皮がキレイに残る見知らぬ魔物……っ!
「そうです! オルトロス! なぜオルトロスがいるのですか! ま、まさかここは!」
乾燥してひび割れた不毛の大地。それに他の場所では確認されていない魔物。
歴代の勇者たちが持ち帰り、記録に残された文献に書かれていた通りではないですか!
「どうしたモラークス。さっさとしまってくれよ。まだまだ触るのは火傷しそうだしよ。近づくだけで熱気が来るしな」
「は、はい! それより勇者様、早くこの場を離れませんといけません!」
「なんでだ? こんなヤツら何匹かかってこようが余裕だぜ?」
「いけません! ここは魔王を封印している名もなき島です!」
「な、なんだと! どうすんだよ! 聖剣は取られちまって持ってねえんだぞ!」
「そうです! ですから早くこの島から出なくてはなりません! ですが転移魔法が使えるまでまだ魔力が回復していません!」
魔力回復補助の魔道具は持っていますので、一時間程度で飛べるはずですが、それまではなんとか逃げ回らねば。
「じゃあどうすんだよ! って、また一緒の狼が来やがったぞ!」
「先ほどの音で集まってきたのでしょう! 勇者様! まだ遠いですから逃げましょう!」
「そ、そうだな! で、どっちに逃げるんだよ! あっちからも来てやがるぞ!」
「くっ! 仕方ありません。勇者様! 一時間あれば転移が使えるようになります! ですからそれまでは勇者様だけでオルトロスを撃退してください!」
「しゃーねえな! モラークスは魔力の回復しとけ! 爆裂魔法! 爆裂魔法! 爆裂魔法!」
四方八方から次々と襲い来るオルトロスに爆裂魔法を放つ勇者を視界の端にとどめながら瞑想に入る。
が、一分もたたずに――
「くそったれ! モラークス! 魔力切れだ! 逃げんぞ! 走れ!」
そんなことを言い始める勇者様…………は? 魔力、切れ?
「そ、そんな!」
「もたもたすんな! もうどこでもいいから飛べるところまで飛びやがれ!」
「し、しかし、そんなことをすればどこに姿が現れるかわかりませんよ!」
勇者様の背中を追いながら教国の大聖堂を目標に転移を発動する準備をはじめる。
背後にオルトロスが迫る気配が有り、もう迷っている時間はありません。
「大丈夫だ! 俺様は勇者で主人公なんだ! こんなピンチは乗り越えられるってきまってんだよ! だからさっさと転移しやがれ!」
「勇者様! 手を握ってください! 飛びますよ!」
勇者様が振り返り、私が伸ばした手を握った瞬間――
「転移!」
視界が変わり、緑豊かな森の中に転移したようです。が――面倒な魔物、ワームの生息地に飛んでしまったようです。
幸いなことに、手のひら程の大きさなので、実害はないでしょう。
「勇者様、攻撃してはいけませんよ。この魔物はこちらから攻撃をしなければ大丈夫です。踏みつけないように注意してここを離れましょう」
「ど、どういうことだよコレ……こ、こっちくんな!」
「いけません! あっ!」
足に登ろうとしたワームを勇者は蹴飛ばしてしまった。
「こうなったらもうじっと待つしかありません! これ以上の攻撃は絶対駄目です!」
「だ、だけどよ! キモいんだよ! って服が!」
「服は齧られますが、勇者様の防御力なら怪我はしません! そのまま我慢してください! 二度目の攻撃をしてしまうと取り返しのつかないことになりますから!」
「どうなるってんだよ!」
「親のビッグワームが来ます! 親が来れば私たちなどひと呑みになってしまいます!」
「チッ! しゃーねえな! ってそこは――」
あっという間に靴からズボン、下着まで齧りとられた勇者様。
「お、おい! 本当に大丈夫なんだろうな! コラそこはやめろ! あふっ。こ、これはまるで……テ○ガじゃねえか! おふっ」
下腹部の部分を飲み込んだワームがうごめき、もだえはじめる勇者様。
その攻めは全裸になったあとも続けられ、満足して離れるまで続くのであった。