第81話 枢機卿の頭は……
「だってそうでしょ? いつ背後から切りつけられるか、魔法を撃ち込まれるかわからないんですから」
「まったくその通りだ。おい、モラークス。枢機卿かなにか知らないが、勝手に城内をうろつかれては困るな」
騎士の護衛をつけてカサブランカ王にグリフィン王、ミレニアム女王に父さんとイルミンスール伯爵がぞろぞろと枢機卿の背後からやって来た。
来たのはわかっていたけど、悪戯王の登場だ。なら、もう任せておいても大丈夫かな。
「カサブランカ王にグリフィン王、ミレニアム女王まで揃っているとは……」
「モラークスよ、謁見の時間まで待てと部屋まで用意してやったと言うのに、何を勝手に我が城を歩き回っているのかと聞いてる?」
「枢機卿である私に、あのような小部屋を用意しておいて待っておけと?」
「当然だ。いきなり来て会おうとしただけありがたいと思え。それにこのメンバーを見てわからないか?」
カサブランカ王は腕を開け、ミレニアム女王とグリフィン王をチラリと見る。
そしてそのものたちが誰だかわかったのか、余裕の笑顔が固まった。
「……まさか三国の王……それがそろってとは……三国の会談中……だったと?」
「その通りだ。そこへ突然やって来たモラークス、お前と会う時間を取ってやったのだが……私の間違いだったようだな」
「いや、しかし……」
「当然待つ部屋は会談場所から離れたところを用意させた。それに王との会談だぞ? 待ち時間が長くなるのは当然だと思わないか?」
「で、ではそのように言っていただければ……」
「はぁ。モラークス。なぜ枢機卿程度のものにそこまで情報を公開せねばならない」
「いや、しかし、今回は勇者を解放してもらわねばならず――」
「話しにならんのか? 良いか? 我が娘の乗る馬車に魔法を放った勇者をなぜ解放できると言うのだ?」
「いや、ですが――」
「私のことは知っているようだが、グリフィン王だ。モラークス、攻撃を受けた馬車には私の娘、ファラフェルも乗っていたのだぞ?」
「お初になるな。私はイルミンスール伯爵です。私の娘であるエリザベスもその馬車に同乗していた」
「クリーク辺境伯だ。うちのドライもな」
「それに、長らく行方不明だった私の娘、キャロラインもです」
「え? ミレニアム女王国の王女? キャロラインとは……え?」
ガバッと俺たちの方に振り返りその視線がキャルのところで止まり、手袋が脱がされたままの姿を見られてしまった。
「お、お前は元聖女の……キャロライン……なぜ火傷の痕が無いのです……まさか、聖魔法の再生を覚えたのですか!」
嫌な流れだな。そういえばキャルは女王に脱がされたあと、手袋をしていなかった……。
「ならばキャロライン。剥奪したが、聖女に復帰させてやろうではないか! そして勇者の従者として支えなさい!」
ん? 聞き間違えか? 勇者自ら怪我をさせ、奴隷商に売ったキャルを、売った本人の従者に?
あり得ないだろ!