第80話 勇者の従者として
聖剣……ヤバい。あれって勇者が使い続けていたため、勇者の力が剣に凝縮され聖剣になったんだよな……。
……これ……詰んでない? アイツ、アーシュが使ってた剣だぞ? 聖剣になってるのか?
細かいところは覚えていないけど、善行しないと駄目になるとかじゃないよな……。
いや、諦めるな俺。聖剣かどうかは実物を見てみないとわからない。
なんにせよ、鑑定……あれ? ……アーシュが持っていた剣……どうしたんだっけ?
街で暴れていたときは持っていたよな……その後確か――
『隊長、勇者……が使っていた剣です』
『……教国の紋章が入っているのか……』
『はい。通常なら詰所で預かり、罪を償った後、持ち主に引き渡すか、重罪ですと処分するのですが』
『そうだな。だが今回は城へ連れていくことになったんだ、城へ預けるべきだな』
そうだ。この城のどこかにあるはずだ。
「王様、アーシュを衛兵から預かったとき、一緒に剣も預かったはずなんですけど、見せてもらうことってできますか?」
「話の流れ的にその剣が聖剣の可能性があるのだな。構わんぞ、いや、いっそのこと今から見に行ってくるがいい」
「わかりました」
「アンジェラ、おそらく地下牢の詰所にあるはずだ。案内してやってくれ。私たちはもう少し話をしたいからな」
「悪巧みの続きかオヤジ。ほどほどにしておけよな。ま、俺が案内するのは了解だ。ドライ、行くぞ」
「うん。では聖剣ならここに持ってきますね」
「いや、勇者にも会っておきたいのでな、すぐに追いかけよう」
アンジェラの案内で地下牢の手前、地下への階段手前まで来た俺達。
もしかすると衛兵の詰所に持って行かれた不安も多少はあったけど。詰所にあった剣は……聖剣だった。
よかった。これで聖剣じゃなかったらどうしようかと思っていたけど、最悪のパターンは避けられたようだ。が――
「こちらに勇者様がおいでなのですね。案内なさい」
嫌な予感がしたので聖剣をストレージにしまい、詰所から出ると、地下牢へ続く階段の前で兵士に止められているおじいさんがいた。
「モラークス枢機卿! お待ちください! 勝手に城内を歩き回られては困ります!」
モラークス枢機卿……ああ、勇者を取り戻しに来たって言ってた人か。
「何を言っているのです。あのような狭い部屋に押し込め、お茶すら出さず、待てとだけ言われたのです。多少の散歩は許していただきたいものです」
あ、やっぱり言ってた通りの対応だったのはさすがだけど……。
その扱いが我慢できずに出歩き、ここまで来たということか? 完全に舐めてるだろ……。
勇者目当てだから無くはないと思うけど、そんな勝手なことをすれば自分も捕まるとか考えないのか?
「でしたら庭を散歩していただきたい! この先は重罪人が捕らえられている区画、勝手な立ち入りは禁じられております!」
「重罪人? 勇者様は魔王を倒す唯一のお方。少々悪戯が過ぎた程度で重罪人とは……カサブランカ王国は魔王に加担すると言うのですか?」
「少々でも悪戯でもない! 街中で魔法を人に向けて撃ち、剣を振り回して怪我人も出たんですよ? その犯人が勇者であろうと重罪を犯したことにかわりがないです!」
ニヤニヤ笑いながら兵士にそう言ったのを聞いて、思わず声をかけてしまった。
「……誰だね君たちは……、アンジェラ王女殿下はわかりますが……それに今私に声をかけた君は誰だね? 私は枢機卿の地位をいただくモラークス。名を聞いても?」
「……クリーク辺境伯家三男、ドライ・フォン・クリーク」
「あなたが……。そうですか、近々クリーク家には使いを出す予定でしたが手間がはぶけました。モラークス枢機卿として命じます――」
は? 命じる? なに言ってんだこの人……。
「――ドライ・フォン・クリーク。光栄に思いなさい。魔王討伐のために勇者の従者として支えなさい」
なに言ってんだ? アーシュの従者? そんなの――
「……え? 嫌ですけど」
「「は?」」
断ったのが意外だったのか、口を開けて固まるモラークス枢機卿と、地下牢への侵入を止めようとしていた兵士さん。
いや、だって、アーシュの従者になれとかいきなり言われても……いきなりじゃなくてもお断りだ。
「嫌……? 魔王を唯一倒せる勇者の従者ですよ? これ以上無い名誉な――」
聞く必要も無いから被せるように言ってやる。
「だから嫌です。……あの、大丈夫ですか? 枢機卿は罪を犯して捕まっている人の従者に誰がなると言うのです?」
「……だ、だが、そのような些細なこと」
「だ か ら 勇者は、ここにはいませんがローゼン伯爵家のミュールさんとその護衛人たち。さらにはここにいる俺達が乗る馬車に危害を加えたんですよ?」
「……」
「それも街中で。そんなの魔物や盗賊と変わらないじゃないですか。……だと言うのに、その仲間になれとか……モラークス枢機卿……本当にわかってます?」
「さ、些細なことではないですか。魔王を倒せる唯一の勇者です。その程度の罪は罪ではありません」
コイツ、本気で言ってるのか……。貴族の子の俺とリズ、ミュールは置いておいても、この国の王女と、隣国の王女、それに知らないとは思うけどミレニアム女王国の王女もいたんだぞ?
「この私がわざわざ出向き、解放するのですから、当然のことながら無罪放免となるでしょう。なんの障害にもなり得ない」
「……アーシュには、一緒に作戦を遂行する協調性がない。状況を冷静に見極める洞察力がない。とっさの出来事に反応して、最善の行動を思い付く想像力もない」
「は?」
何か言いたそうな枢機卿に喋らせる気はないから口をパクパクしているところで言葉を続けた。
「だから……アーシュとは組めないし、組むつもりもない。連携が取れない味方は、敵よりも危険だ」