第8話 魔物の森に入って…見た
そろそろ、かな。
トントントン
『ど ら い しゅ ぎょ う で す わー』
来た。
あの日、転生してきた日からこうやって毎日リズが朝一番に迎えに来るようになってもう十日か。
「おはようリズ。今日も元気だね」
「おはようございますドライ。もちろんですわ。お母様のために早く聖魔法を強くしなくてはなりませんもの」
「うん。じゃあ今日はレベルを上げるために狩猟小屋から少し森に入るからね」
「はい。少し怖いですが、お母様のために必要なことですし、ドライが守ってくれますものね」
「もちろん。じゃあ着替えて出発だ」
一応背中を向けているとはいえ、同じ部屋の中で女の子が、それも好きになった子が着替えをしている……。
ドキドキするのは仕方ないよな。十五歳だった俺が十歳に若返ったとしても、高校生だったんだ。そういったことに興味はある。
カサカサと服のがこすれ、パサっと床に落ちる音が聞こえた。……今振り替えればリズのあられもない姿が――
っ! なに考えてんだ! いや、でも、見たいか見たくないかと聞かれれば、そりゃー中身は健全な十五歳ですし? ねえ。
いや、ダメダメ。か ん が え を切り替えろ!
狩猟小屋の奥には野生の動物もいるが、魔物も生息している。
浅い所だと、RPGのザコキャラで有名なスライムと、ホーンラビット、角の生えたウサギらしい。
それに浅いところで一番の難敵、ポイズントードと呼ばれる毒持ちのカエルがいるそうだ。
コイツは小川や沼、池の近くにしかいないそうだから、レベルが上がるまでは近づく予定はない。
「ドライ?」
あ、着替え終わったみたいだ。
「じゃあ行こ――う、か?」
「もう少しお待ちしてもらいたいのですが、胸当ての鎧下が見当たりませんの」
振り替えると下半身はセーフ。だけど上半身は薄い肌着、肌色が透けて見えるようなタンクトップだけをまとったリズ。
後ろを向いて木箱の中を探っていた。
「よ、鎧下はベッドの上に、た、畳んで置いてあるよ」
音を立てないように向きを戻し背を向ける。たぶん振り返ったことには気づいていない。はず。
「ベッドの? あ、有りましたわ。もう少しお待ちくださいませ」
「う、うん」
ヤバかった。次からは着替え終わったか聞いて確認することにしよう。
「はぁー。緊張しますわね」
「俺もだ。魔物の討伐、初めてだもんな」
「ええ。はじめはスライムからですわよね?」
「その予定だよ。スライムでレベルをひとつ上げてからホーンラビットに挑戦する予定かな」
俺とリズのレベルは同じ3だ。今日はこれをスライムで4。ホーンラビットで5まで上げる。
狩猟小屋にあった、昨日のうちにサビを落としたショートソードとナイフを腰に装備したあと、弓と、矢が入った矢筒を背負って準備完了だ。
「ドライ、槍は持っていきませんの?」
リズが樽に立て掛けてある槍に手を伸ばして聞いてくる。
槍か、ショートソードなんかより間合いが長いので、広い障害物の無い場所なら凄く有効な武器なんだけど……。
「う~ん、長い槍は振り回すとき、木が邪魔になるし、今日は森の中だからまず、この装備で行こう」
「わかりましたわ。では出発ですわね」
「うん、頑張ろう」
狩猟小屋を出て、森に入る。
これか、何か膜みたいなものを通り抜けた感覚があった。森と外を隔てる結界らしい。
「むにゅ~んと、しましたわね」
リズいわく、『むにゅ~ん』らしい。何度か出入りして結界を試しているようだ。
だけどこんなに簡単に通り抜けられるのに、魔物だとこの結界が壁になって跳ね返るらしい。
俺も何度か手を伸ばして引っ込めてを試してみるけど、やはり少し抵抗がある……むにゅ~んだ。
うん、まあこの結界でも、無理矢理通り抜けちゃうくらい強い魔物もいるから過信はしちゃ駄目なんだけどな。
「確かにむにゅ~んと、結界を抜けられたね。さあここからは魔物が出るから油断しちゃ駄目だよ」
「はいですわ。スライムさん、どこからでもかかってきなさいですの!」
ショートソードを鞘から抜き、確か正眼の構えで、森の奥を睨むリズ。
「よし、じゃあ進もう」
ショートソードを引き抜き、リズを先導するように獣道を進む。
入ってすぐの場所だからか、魔物と遭遇することなく、五分も進まないうちに、森がひらけた所に到着した。
「森がなくなってますの。切り株だらけですわ」
「木を切って薪にしたのかな? っ! リズ! スライムだ!」
「いましたわ! 大きいですわよ!」
なんだ!? どこから現れた!? 突然出てきたぞ!
切り株と、長くてもスネくらいまでしかない草しか見当たらなかったのに、そいつは突然現れた、青みがかった半透明のスライム。
リズが言ってた通り饅頭型のスライムなんだけど、高さが軽く俺たちの身長を越えているほどバカデカい。
「マジかよ! こんなデカいとか聞いてないぞ!」
「わ、わたくしもスライム初めて見ましたけど、凄く立派ですわ!」
「あっ! 縮んだ!」
「また大きくなりましたわよ!」
見た通り、縮むというよりは潰れるように広がって、元に戻る時に移動するみたいだ。
「……ちょっと進みましたわね」
「あ、ああ。少しな……」
スライムが広がって元に戻るで進む距離は、俺たちの一歩ほどだ。
高さ三メートルほど、広がれば十メートル近く広がっているように見えるけど、進むのは一メートルも無い。
「リズ。弓で攻撃してみようか」
「ですわね。スライムさん、森の方へ向かっていますからお逃げになる前に倒したいですわ」
「よし。二人同時に攻撃を仕掛けるぞ」
「はいですわ!」
ショートソードを鞘に戻し、担いでいた弓を手に取り矢筒から矢を一本引き抜く。
「せーのの『の』で撃つよ」
スライムに視線を残したまま弓矢を構えたリズが頷く。
横並びで弓を引き絞り、狙いを定め――
「せーの!」